2025年秋冬インフルエンザはどうなる?南半球の流行から読む国内の傾向
秋冬のインフルエンザ流行が迫っています。例年、日本の流行を占う上で参考になるのが「季節が逆の南半球の流行状況」です。すでに流行を経験した国々のデータを知ることで、今シーズンの日本での特徴をある程度推測することができます。
本記事では、2024–2025年に南半球で見られたインフルエンザ流行の特徴を整理し、それをもとに国内の流行傾向と備えについて解説します。
南半球の流行状況と特徴
世界保健機関(WHO)、米国CDC、南米やオセアニアの保健当局が発表した情報を総合すると、以下のような傾向が報告されています。
1. 主流はA型(H1N1・H3N2)
-
オーストラリアやニュージーランドでは A(H3N2) の検出が多く、例年どおり流行を牽引しました。
-
一方、南米では A(H1N1)pdm09 の割合が高く、若年層でも比較的症状が重くなるケースが報告されました【WHO FluNet, 2025】【PAHO, 2025】。
2. B型も一定数流行
-
南アメリカの一部地域では、B型(Victoria系統) の報告が増加。
-
流行の主体ではありませんが、毎年少数ながら一定の割合を占めるため、今シーズンも国内での検出が想定されます。
3. 流行開始の早まり
-
オーストラリアでは5月の時点から患者報告数が増え始め、例年より早い立ち上がりを示しました【Australian Department of Health, 2025】。
-
南米諸国でも流行が例年より前倒し傾向にあり、医療機関への負担増が懸念されました。
4. 重症化・入院例の増加
-
南米の複数の報告では、A(H1N1)pdm09による入院が増加し、若い成人でも入院を要する症例が散見されたとされています【PAHO Epidemiological Alert, 2025】。
-
高齢者・基礎疾患を持つ方では、H3N2型による肺炎・合併症の報告が例年通り多くありました。
日本の流行予測に読み取れること
南半球のデータをそのまま国内に当てはめることはできませんが、流行株や開始時期の参考材料にはなります。
1. H1N1優勢の可能性
南半球で目立ったH1N1が、日本でも主流になる可能性があります。H1N1は若い世代でも強い症状を示すことがあるため、注意が必要です。
2. 流行時期の前倒し
日本でも近年は9〜10月にかけて流行が始まる年が増えており、今年も「早めの立ち上がり」を警戒する必要があります。
3. 流行規模の地域差
一部地域で局所的に強い流行となる可能性があります。都市部や人の移動が多い地域では特に早期の注意が必要です。
4. 複数株の並行流行
H1N1、H3N2、B型が同時に存在する可能性があり、臨床現場では「どの株かを特定せずとも総合的に診療対応する」ことが求められます。
2025年度 日本のインフルエンザワクチン株
日本では厚生労働省の指針に基づき、毎年「そのシーズンに流行が予測される株」が選定されます。2025年度(2025/2026シーズン)に使用されるワクチン株は以下の通りです【厚生労働省, 2025】。
-
A型(H1N1): A/Victoria/4897/2022 (H1N1)pdm09類似株
-
A型(H3N2): A/Darwin/9/2023 (H3N2)類似株
-
B型(Victoria系統): B/Austria/1359417/2021類似株
-
B型(Yamagata系統): B/Phuket/3073/2013類似株
この構成はWHOの推奨に沿ったもので、南半球で検出された株を踏まえて調整されています。つまり、すでに「今年の南半球での流行株」をある程度カバーできる内容になっています。
予防と備え
株の違いにかかわらず、私たちができる予防策は変わりません。
-
インフルエンザワクチン接種:最新のワクチン株を用いた接種が重要です。
-
基本的な感染対策:手洗い・マスク・換気は依然として有効です。
-
早期受診:高熱・強い倦怠感・呼吸症状が出た場合は早めの受診をおすすめします。
当院でも9月25日よりインフルエンザワクチン接種を開始しています。流行開始が早まる可能性を踏まえ、なるべく早めにご検討ください。
まとめ
-
南半球では A(H1N1) と A(H3N2) が中心に流行、B型も一定数存在。
-
流行開始が例年より早い地域が多く、日本でも同様の前倒しが起こる可能性がある。
-
2025年度のワクチン株は南半球での流行株をカバーする構成。
-
日本国内では複数株が並行して流行する可能性があり、早めの予防接種と体調管理が大切。
参考文献
-
World Health Organization. Influenza Update. (2025) https://www.who.int/teams/global-influenza-programme/surveillance-and-monitoring/influenza-updates
-
WHO FluNet. Global Influenza Surveillance Data. (2025) https://www.who.int/tools/flunet
-
Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Southern Hemisphere Influenza Season Summary 2024–2025. https://www.cdc.gov/flu/whats-new/2024-2025-southern-hemisphere.html
-
Pan American Health Organization (PAHO). Epidemiological Alert: Influenza and other respiratory viruses in the southern hemisphere. (April 2025) https://www.paho.org
-
Australian Government Department of Health. Australian Influenza Surveillance Report. (2025) https://www.health.gov.au
-
厚生労働省. 令和7年度インフルエンザワクチン株の選定について (2025). https://www.mhlw.go.jp
ひろつ内科クリニック受診予約はこちらから
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874
妊娠初期・中期・後期にコロナ感染したら胎児に影響はあるのか? (2025年9月21日) コロナ・インフルエンザに関するよくある質問Q&A (2025年9月17日) コロナ感染症 ― 9月第1週の日本「ニンバス株」動向と治療薬の最新事情(費用・適応まとめ) (2025年9月5日) 無印医師が解説する「2025年秋冬の感染症」 インフルエンザ・コロナ・その他の流行見通し (2025年8月29日) ニンバス株(NB.1.8.1)とは?咽頭痛は本当に「カミソリ喉」なのか (2025年8月25日)
妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合、赤ちゃんへの影響を心配される方は少なくありません。ここでは最新の研究をもとに「妊娠初期・中期・後期… ▼続きを読む
新型コロナやインフルエンザが再び流行する季節になりました。診察室で患者さんからよくいただく質問を、まとめてQ&A形式で解説します。
… ▼続きを読む
1) いまの流行状況(2025年9月第1週)
日本では NB.1.8.1(通称「ニンバス株」)が主流系統に。
7月に… ▼続きを読む
正直に告白します。
私は「救急科専門医」も昨年末で失効し、内科専門医も持っていません。
学会にも所属していないので、世間的には肩書きゼロ… ▼続きを読む
最近「ニンバス株(NB.1.8.1)」という言葉がニュースやSNSで取り上げられるようになり、不安を感じている方も少なくありません。特に「カ… ▼続きを読む