若者に多い「起立性調節障害」 ― 大人になっても続くことがある病気
起立性調節障害とは
起立や体位の変化により、自律神経がうまく働かずに血圧や脈拍の調整ができなくなり、立ちくらみ・動悸・失神・強いだるさなどを引き起こす病気です。
中高生で診断されることが多いですが、実際には 大学生や20代社会人などの若者にも多くみられ、大人になっても症状が続く人もいる ことが分かっています。
なぜ若者に多いのか
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自律神経の発達が未熟
思春期から青年期は交感神経と副交感神経のバランスが不安定。 -
ホルモンの影響
特に女性に多く、月経周期やホルモン変動と関係する。 -
生活リズムの乱れ
夜更かしやスマホ、睡眠不足がリスク。 -
ストレス
進学、就職、人間関係など心理社会的ストレスが引き金となる。
代表的なタイプ
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体位性頻脈症候群(POTS)
立ち上がってから心拍数が急に上がり、動悸やめまいが出る。 -
遷延性起立性低血圧
長時間立っていると徐々に血圧が下がり、不快症状が出る。 -
血管迷走神経性失神
立ち続けていると急に意識を失う。
よくある症状
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朝起きられない、午前中に強いだるさ
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立ち上がると動悸・ふらつき
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授業や仕事に集中できない
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慢性的な頭痛や腹痛
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不安感や意欲低下(二次的な精神症状)
診断
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問診・症状の聞き取り(朝の不調や立位での症状があるか)
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**起立試験(Head-up tilt試験など)**で血圧・心拍の変化を確認
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除外診断:貧血、甲状腺疾患、心臓病など他の病気を除外する
対策・治療
生活習慣の改善(基本)
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夜型生活を正し、規則正しい睡眠をとる
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水分を1日2〜3L、塩分を8〜10g程度摂る
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軽い運動(下肢の筋トレや有酸素運動)を継続
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弾性ストッキングや腹部バインダーで血流を補助
薬物療法(重症例のみ)
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ミドドリン(昇圧薬)
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β遮断薬(動悸を抑える)
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フルドロコルチゾン(循環血液量を増やす)
※使用は医師判断で慎重に行われる
学校や職場での理解
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医師の診断書を用いて、遅刻・休憩など配慮してもらう
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社会人でも勤務時間の調整が必要になる場合がある
予後
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成長とともに改善する例もあるが、20代以降も持続する人もいる
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適切な生活習慣改善で症状が大幅に軽減することが多い
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長期化すると抑うつや不安障害が合併することがあり注意が必要
最新の研究から
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国内調査:若者の不登校の原因の1つとして起立性調節障害が多数報告されている
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海外研究:POTSを中心に、感染後やストレスを契機に若年成人で発症するケースが多数報告されている
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COVID-19後遺症との関連:長期的な自律神経障害としてPOTS様症状を呈する若者が報告されている
まとめ
起立性調節障害は「子どもだけの病気」ではなく、若者に多く、大人になっても続くことがある疾患です。
「朝起きられない」「立つと気分が悪い」といった症状を怠けや精神的な問題と決めつけず、医学的に診断し、生活習慣改善や必要な治療を受けることが大切です。
参考文献
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日本小児心身医学会. 小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン 2015.
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Freeman R, et al. Clin Auton Res. 2011.
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Raj SR. Heart Rhythm. 2018.
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Wells R, et al. BMJ Open. 2018.
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Blitshteyn S, et al. Immunol Res. 2021.
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