即効性のある漢方・じっくり効く漢方 ― 効果発現のスピードの違いを理解する
「漢方は長く飲まないと効かない」と思っていませんか?
実は、**数時間で効果を実感できる“即効型の漢方”**もあれば、**数週間〜数か月かけて体質を整える“じっくり型の漢方”**もあります。
本記事では、その両者の違いと代表的な処方を、臨床的な使用例を交えて詳しく解説します。
即効性を期待できる漢方(急性期・発作性症状向け)
いわば「その場で効く」タイプ。
発汗、鎮痛、鎮痙、利尿、消化促進といった作用がすぐに現れやすく、数時間以内に変化を感じることも少なくありません。
1. 葛根湯(かっこんとう)
-
用途:かぜの初期、頭痛、肩こり
-
特徴:体を温め、発汗を促してウイルスの侵入初期に対応。
-
発現時間:1〜2時間で発汗・筋肉のこわばり軽減を感じることも。
2. 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
-
用途:こむら返り、筋肉痛、痙攣
-
特徴:筋収縮のバランスを整える。
-
発現時間:最短10〜20分で効果を感じる例あり。
3. 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
-
用途:寒気を伴う鼻水・咳、花粉症初期
-
特徴:水様性鼻汁を減らし、気道粘膜を鎮める。
-
発現時間:数時間以内に鼻水・咳の減少を自覚することがある。
4. 半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
-
用途:胃もたれ、つかえ感、ストレス性胃痛
-
特徴:消化管の停滞やガスを改善。
-
発現時間:1〜2日で胃の重さが軽くなるケースも。
5. 五苓散(ごれいさん)
-
用途:むくみ、下痢、頭痛、二日酔い
-
特徴:体内の“水はけ”を改善する。
-
発現時間:服用数時間で尿量増加、頭重感の改善がみられることがある。
6. 大建中湯(だいけんちゅうとう)
-
用途:お腹の張り、冷え、腸管の動きの低下
-
特徴:腸の血流と運動を高める。
-
発現時間:30分〜数時間で腹部膨満の軽減を感じることが多い。
7. 麻黄湯(まおうとう)
-
用途:寒気を伴う感冒、発熱、関節痛
-
特徴:交感神経刺激による解熱・発汗・鎮痛作用。
-
発現時間:1〜2時間以内に体温低下・倦怠感軽減を感じることがある。
8. 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
-
用途:手足の冷え、末梢循環不良、冷え性頭痛
-
特徴:血流を促し、体表循環を温める。
-
発現時間:服用後30分〜数時間で末梢の温感を自覚する。
長期的に効果を発揮する漢方(慢性症状・体質改善向け)
こちらはじっくり体を整える“基礎治療型”の処方群。
体質そのものに働きかけるため、効果実感には2〜4週間以上を要するケースが一般的です。
1. 六君子湯(りっくんしとう)
-
用途:慢性的な胃もたれ、食欲低下、疲労感
-
特徴:胃腸の働きを底上げし、気虚(エネルギー不足)を改善。
-
効果発現:2〜4週間の継続で胃の動きが改善し、体力回復。
2. 加味逍遥散(かみしょうようさん)
-
用途:更年期障害、PMS、不眠、情緒不安定
-
特徴:自律神経・ホルモンのバランス調整。
-
効果発現:1〜2か月の服用で気分や睡眠リズムが安定。
3. 防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
-
用途:肥満傾向、便秘、むくみ
-
特徴:代謝促進と排泄改善を併せ持つ。
-
効果発現:2〜3週間〜数か月の服用で体重・便通・むくみ改善。
4. 補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
-
用途:疲労倦怠、風邪をひきやすい体質、虚弱体質
-
特徴:免疫を底上げし、エネルギー代謝を補う。
-
効果発現:3週間ほどで疲労感や集中力が改善することが多い。
5. 八味地黄丸(はちみじおうがん)
-
用途:加齢による腰痛、頻尿、冷え、下肢のだるさ
-
特徴:腎機能を補い、老化性変化を緩やかにする。
-
効果発現:1〜2か月の服用で体温や排尿リズムの安定化を感じる。
6. 桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
-
用途:不眠、動悸、不安、神経過敏
-
特徴:精神安定と自律神経調整を目的とする。
-
効果発現:数週間〜1か月で不安や動悸が緩和。
7. 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
-
用途:冷え性、貧血傾向、月経不順
-
特徴:血液循環とホルモンバランスを整える。
-
効果発現:2〜4週間で手足の冷えや頭重感が軽減することが多い。
8. 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
-
用途:腰痛、しびれ、足の冷え、夜間頻尿
-
特徴:腎虚(加齢や代謝低下)を補う。
-
効果発現:1〜3か月の継続で冷えや尿トラブルが改善する。
併用と切り替えの考え方
-
急性期+慢性期での併用
例:風邪初期に葛根湯、回復期に補中益気湯。 -
季節や体調に応じての切り替え
例:夏は五苓散で水分バランスを整え、冬は当帰四逆加呉茱萸生姜湯で冷え対策。 -
同系統でも作用点が異なる
胃腸系では、急性期は半夏瀉心湯、慢性期は六君子湯というように使い分ける。
漢方は“時間軸で効かせる薬”とも言えます。
即効型と長期型を組み合わせることで、症状のコントロールと体質改善の両立が可能になります。
医師の立場から見た注意点
-
即効型漢方でも、過量内服や長期連用で副作用(低カリウム血症、肝障害、血圧上昇)が起こる場合があります。
-
慢性型は、効果が見えにくくても漫然継続しないこと。2〜4週間で一度見直すのが原則です。
-
併用時には、生薬成分の重複(例:甘草・麻黄)に注意が必要。
-
西洋薬との併用時は、相互作用のチェックを必ず行うこと(特に利尿薬、糖尿病薬、ワルファリンなど)。
参考文献
-
日本東洋医学会「漢方治療の実践ガイドライン2023」
-
厚生労働省PMDA 添付文書データベース
-
日本薬剤師会 漢方と安全性に関する報告書(2024)
-
Kampo Medicine. 2024;75(3):211–245.
-
日本内科学会雑誌 113巻(2024)「内科での漢方処方の実際」
ひろつ内科クリニック受診予約はこちらから
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874
ミドドリンによる高血圧の副作用 ― 起立性調節障害で処方される前に知っておきたいこと (2025年10月8日) 即効性のある漢方・じっくり効く漢方 ― 効果発現のスピードの違いを理解する (2025年10月6日) 銀杏中毒について総説 (2025年10月4日) 若者に多い「起立性調節障害」 ― 大人になっても続くことがある病気 (2025年10月2日) トランプ発言「アセトアミノフェンと自閉症」—エビデンスでどう読む? (2025年9月26日)
ミドドリンとは
ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン)は、交感神経を刺激して血管を収縮させることで血圧を上げる薬です。
もともと 神経因… ▼続きを読む
「漢方は長く飲まないと効かない」と思っていませんか?
実は、**数時間で効果を実感できる“即効型の漢方”**もあれば、**数週間〜数か月か… ▼続きを読む
秋から冬にかけて旬を迎える銀杏は、茶碗蒸しや炒り銀杏などで親しまれています。しかし食べ過ぎにより「銀杏中毒」を起こすことが知られています。こ… ▼続きを読む
起立性調節障害とは
起立や体位の変化により、自律神経がうまく働かずに血圧や脈拍の調整ができなくなり、立ちくらみ・動悸・失神・強いだるさなど… ▼続きを読む
何が起きたのか(2025年9月の動き)
米国で、トランプ大統領が「妊娠中のアセトアミノフェン(一般名:アセトアミノフェン、米国ブランド:T… ▼続きを読む