百日咳、抗生剤で治療しても咳が続くのはなぜ?
「百日咳(ひゃくにちぜき)」という名前の通り、治療しても長期間続く咳に悩まされた経験はありませんか?
今回は、百日咳の特徴と、抗生剤治療の意味、そして治療後も咳が続く理由について、医師の立場から解説します。
百日咳とは?
百日咳は「ボルデテラ・パータシス」という細菌が原因で起こる呼吸器感染症です。
子どもでは強い発作性の咳(連続して咳き込み、息を吸うときにヒューという音が出る)が特徴で、大人ではしつこく乾いた咳が数週間以上続くことがあります。
治療の第一選択は抗生剤
百日咳には**マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシンやアジスロマイシンなど)**がよく使われます。
この抗生剤は、「咳を止める」のではなく、「菌を減らし、周囲への感染を防ぐ」ことが主な目的です。
咳が続く理由
抗生剤をきちんと飲んだのに咳が長引くことは、実は百日咳の自然経過としてはごく普通のことです。理由は以下の通りです:
① 気道の「感作」が残っている
百日咳菌によって気道粘膜が強く刺激され、炎症や過敏状態が長く続きます。これにより、ちょっとした刺激(乾燥、会話、吸気など)でも咳が出やすくなります。
② 菌は減っても、炎症後遺症はすぐに治らない
抗生剤で菌は数日以内に激減しますが、気道の回復には数週間〜数か月かかることがあります。
③ 特に大人は「百日咳様咳嗽」が起こりやすい
大人は典型的な発作性咳よりも「乾いた咳だけが何週間も続く」パターンが多く、診断が遅れて治療開始も遅れがちです。
咳が長引く場合の対応
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抗生剤再投与は基本不要(無意味かつ耐性菌のリスクあり)
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咳止めは対症療法として併用可能
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メジコン、アスベリン、漢方(麦門冬湯など)
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咳喘息や後鼻漏、GERDなどとの鑑別も視野に
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長引く咳が続くときは再受診を(肺炎や結核との区別が重要)
医師としてのひとこと
百日咳の咳は「治療が効いていない」わけではなく、「菌は消えたけれど、気道の過敏状態が残っている」と理解することが大切です。咳が続いても焦らず、適切なケアを続けることで、少しずつ回復していきます。
エビデンス出典
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日本呼吸器学会. 成人百日咳診療ガイドライン(2022年改訂)
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Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Pertussis (Whooping Cough) Treatment
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Cherry JD. The science and fiction of the “100-day cough.” Pediatr Infect Dis J. 2019.
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