線維筋痛症とは?原因・症状・診断・治療を徹底解説
線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は、明確な炎症や組織損傷がないにもかかわらず、全身に持続的な痛みが生じる慢性疼痛疾患です。日本でも近年、認知が高まりつつありますが、診断・治療には依然として難しさが伴います。本記事では、最新の国際ガイドラインと国内研究に基づき、線維筋痛症の全体像をわかりやすく整理します。
線維筋痛症の定義と疫学
線維筋痛症は、アメリカリウマチ学会(ACR)が2010年に定義した診断基準によると、「広範囲の慢性疼痛を主症状とし、疲労・睡眠障害・認知機能低下などを伴う疾患」とされています。
日本での有病率は成人の約1~2%程度とされ、男女比は女性が約8割を占めます。発症年齢は30~60歳代に多く、更年期以降に発症する例も少なくありません。
原因と病態生理
線維筋痛症の原因は「中枢性感作(central sensitization)」が中心と考えられています。
これは、末梢での痛み刺激が繰り返されるうちに中枢神経系の感受性が亢進し、通常では痛みを感じない刺激でも痛みとして知覚されてしまう状態です。
関連する要因
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ストレス・トラウマ:心理的ストレス、事故、手術などを契機に発症することがある。
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自律神経の異常:交感神経の過剰緊張や副交感神経の抑制。
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神経伝達物質の変化:セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの減少が報告されています。
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遺伝的素因:一部の患者では家族内発症が認められ、感受性に関わる遺伝子多型が示唆されています。
主な症状
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全身の持続的な疼痛(3か月以上)
筋肉・関節・腱などに広がる鈍痛や灼熱痛。日によって部位や強さが変動します。 -
慢性疲労感・倦怠感
睡眠をとっても疲労が抜けない「非回復性睡眠」が特徴。 -
睡眠障害
入眠困難・中途覚醒・浅い眠りなど。 -
認知機能低下(fibro fog)
集中力や記憶力の低下、思考の鈍化を訴える方もいます。 -
その他の随伴症状
過敏性腸症候群、月経痛、顎関節症、慢性頭痛、うつ・不安などが合併しやすいとされています。
診断基準
ACR2010改訂基準では、以下のスコアにより診断します。
評価項目 | 内容 |
---|---|
WPI(広範痛指数) | 19部位のうち痛む部位の数(0〜19点) |
SS(症状重症度スコア) | 疲労・睡眠障害・認知障害などの重症度(0〜12点) |
診断基準
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WPI ≥ 7 かつ SS ≥ 5、または WPI 3–6 かつ SS ≥ 9
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症状が3か月以上持続
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他の疾患では説明できない
補助的に、血液検査で炎症反応や甲状腺機能異常を除外することが推奨されています。
鑑別診断
線維筋痛症は除外診断が基本です。以下の疾患を除外する必要があります。
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関節リウマチ、SLE、皮膚筋炎などの膠原病
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甲状腺機能低下症
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慢性疲労症候群
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変形性関節症や頚椎症
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うつ病、睡眠時無呼吸症候群 など
血液検査や画像検査で炎症所見がないにもかかわらず、痛みや倦怠感が強い場合に疑われます。
治療
治療の目標は「痛みの軽減」と「生活の質(QOL)の改善」です。完治ではなくコントロールを目的とします。
1. 薬物療法
エビデンスに基づき、中枢神経の感作を抑える薬剤が推奨されます。
薬剤 | 主な作用 | 日本での使用状況 |
---|---|---|
デュロキセチン(サインバルタ) | セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害 | 保険適応あり |
プレガバリン(リリカ) | 神経過敏抑制(カルシウムチャネル阻害) | 保険適応あり |
ミルナシプラン(トレドミン) | SNRI | 海外では標準治療、日本ではうつ病適応 |
アミトリプチリン | 三環系抗うつ薬、鎮痛作用あり | 少量投与で有効例あり |
抗てんかん薬(ガバペンチンなど) | 神経性疼痛抑制 | 補助的使用 |
NSAIDsやステロイドは原則効果が乏しく、慢性的な使用は推奨されません。
2. 非薬物療法
近年では、薬物と併用した多面的アプローチが推奨されています。
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認知行動療法(CBT):痛みに対する認識を再構築する。
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有酸素運動・ストレッチ:軽度から漸増的に。
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睡眠衛生指導:規則的な生活・寝室環境の整備。
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リラクゼーション法:マインドフルネスや温熱療法も有効例あり。
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痛み教育(pain education):疾患理解を深めることがQOL改善につながる。
予後と生活上の工夫
線維筋痛症は長期にわたる経過をとることが多く、症状の波を理解しながらセルフケアを行うことが大切です。
ストレス管理・軽運動・十分な睡眠・社会的支援が症状安定に寄与します。
社会的理解も進みつつあり、職場や家族に対する教育も重要とされています。
まとめ
線維筋痛症は「痛みを感じる神経の過敏化」により全身の痛みが続く疾患です。
診断には除外が必要で、治療は薬物と非薬物の併用が基本です。
日本リウマチ学会や厚労省研究班によるガイドラインに基づいた対応が、症状緩和と生活の質向上につながります。
参考文献(エビデンス)
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Wolfe F, et al. Arthritis Care Res 2010;62:600-610.
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Häuser W, et al. Lancet 2021;397:1803–1814.
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厚生労働科学研究費補助金線維筋痛症研究班:線維筋痛症診療ガイドライン2022.
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日本リウマチ学会編『線維筋痛症の診療ガイドライン2023』.
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Clauw DJ. JAMA 2014;311(15):1547–1555.
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