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心電図の「早期再分極」とは?放置していいの?リスクと見分け方を徹底解説

[2025.10.19]

健康診断で「早期再分極」と言われた方へ。正常と異常の違い、危険なタイプ(悪性型)の特徴、最新の研究によるリスク評価を医師が分かりやすく解説します。


心電図の「早期再分極」って何?

健康診断で「早期再分極があります」と言われ、不安になる方は多いと思います。
この「再分極」とは、心臓の筋肉が電気的に“リセット”される過程のこと。
そのリセットが早めに起こっている状態を「早期再分極(Early Repolarization, ER)」と呼びます。


早期再分極の特徴

心電図では、心室が収縮するQRS波のあとにST部分とT波が現れます。
このST部分がわずかに上昇し、T波が大きく滑らかに見えるとき、「早期再分極型ST上昇」と呼ばれます。

典型的なパターンは以下の通りです。

  • V2〜V5誘導での軽いST上昇

  • J点(QRS波の終わり)が少し上がる

  • T波が高く、丸みを帯びている

  • 若年男性やスポーツ選手に多い

かつては「心臓が健康な人に多い所見」とされ、良性の変化と考えられていました。


良性型と悪性型の違い

しかし、2008年のHaïssaguerreらによる報告(NEJM, 2008)以降、
一部の早期再分極には致死性不整脈との関連があることが明らかになりました。

以下のように分類されます。

分類 特徴 リスク
良性型 V3〜V5誘導中心、ST上向きカーブ 問題なし
悪性型 下壁誘導(II, III, aVF)にJ波、ST水平〜下降 心室細動リスクあり
中間型 前胸部+下壁誘導 経過観察が望ましい

特に下壁誘導でのJ波STの水平型を伴う場合は、突然死の報告があり注意が必要です。


なぜ起こるのか(発症機序)

心外膜側の心筋が心内膜より早く再分極するために起こるとされます。
Ito電流(遅延整流K⁺電流)の関与が知られており、
Brugada症候群と共通するイオンチャネル異常が背景にある場合もあります。


どんな人に多い?

  • 若年男性(特に20〜40代)

  • 運動習慣がある・スポーツ選手

  • 徐脈傾向がある

  • 家族に突然死歴がある

人口全体の約10〜15%に見られますが、悪性型はそのうち0.05%未満です。


検査と診断

  1. 心電図でのJ波・ST形状の確認

  2. 既往歴や家族歴の聴取(突然死・失神など)

  3. ホルター心電図や心エコーで他疾患を除外

  4. 必要に応じて電気生理検査(EPS)や遺伝子検査

健診で偶然見つかっただけで、症状がなければ多くの場合は経過観察で問題ありません。
ただし、失神歴や家族に突然死がある場合は循環器専門医の精査をおすすめします。


治療と経過

ほとんどのケースでは治療不要です。
ただし、以下のような場合は専門的治療が検討されます。

  • 心室細動の既往がある

  • 家族性早期再分極症候群が疑われる

  • 意識消失発作を繰り返す

再発予防には植込み型除細動器(ICD)が有効です。
また、特殊なケースではイソプロテレノール
キニジンが使用されることもあります。


放置していいの?

以下の条件をすべて満たすなら、放置して構いません。

  • STが上向きカーブ

  • 症状がない(失神・動悸など)

  • 家族歴に突然死がない

次のような場合には、念のため循環器専門医を受診してください。

  • 下壁誘導にJ波がある

  • STが水平または下向き

  • 意識を失ったことがある

  • 家族に若年性突然死の既往がある


まとめ

  • 早期再分極は「正常範囲内」であることが大半

  • 一部に心室細動などのリスクがある

  • 家族歴・失神歴がある場合は専門医受診を

  • 多くの方は経過観察のみで問題なし


参考文献(エビデンス)

  1. Haïssaguerre M, et al. Sudden cardiac arrest associated with early repolarization. N Engl J Med. 2008;358(19):2016–2023.

  2. Tikkanen JT, et al. Long-term outcome associated with early repolarization on electrocardiography. N Engl J Med. 2009;361:2529–2537.

  3. Macfarlane PW, et al. The Early Repolarization Pattern: A Consensus Paper. J Am Coll Cardiol. 2015;66(4):470–477.

  4. 日本循環器学会. 不整脈の診断と治療に関するガイドライン 2020.


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