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検診で「低コレステロール」と言われたら ―放置していいのか、再検査が必要なのか―

[2025.10.20]

健康診断で「コレステロールが低い」と言われると、多くの方は「いいことでは?」と思うかもしれません。
しかし、コレステロール値が低すぎる場合には、栄養状態や肝機能、甲状腺機能などに問題が隠れていることがあります。

ここでは、日本の最新エビデンスとガイドラインに基づいて、低コレステロール血症の原因・評価・対応を総合的に解説します。


1. そもそも「低コレステロール」とは

一般的に、総コレステロール(TC)が120 mg/dL未満、またはLDLコレステロール(LDL-C)が70 mg/dL未満の場合、臨床的に低コレステロール血症とされます。
(参考:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022」)

一方、コレステロールは細胞膜やホルモン合成に不可欠な物質であり、極端な低値は健康リスクを伴うことがあります。


2. 一過性の低下と慢性的な低下の区別

一過性(よくある原因)

  • 急性炎症や感染症

  • 発熱や手術後

  • 栄養摂取量の低下、絶食

  • 急激な体重減少

  • 一部の薬剤(スタチン、甲状腺薬など)

これらは一時的な代謝変化であり、回復とともに正常化することが多いです。
まずは**再検査(2〜4週間後)**で持続性を確認することが重要です。


3. 慢性的に低コレステロールが続く場合に疑うべき疾患

(1) 栄養・吸収障害

  • 低栄養状態、摂食障害

  • 消化吸収不良(セリアック病、膵外分泌不全、炎症性腸疾患)

(2) 肝疾患

  • 肝硬変、重度肝炎、肝癌
    → コレステロール合成能力が低下するため、著しい低値を示すことがあります。

(3) 内分泌疾患

  • 甲状腺機能亢進症
    → 基礎代謝が高まり、脂質が過剰に代謝されて低値を示すことがあります。

  • 副腎皮質機能低下症
    → ステロイドホルモン低下により脂質合成が抑制されます。

(4) 血液疾患・悪性腫瘍

  • 悪性リンパ腫、白血病、進行癌など
    → 体内の異常代謝・炎症でLDL合成が抑制されることがあります。
    疫学的には、低コレステロール血症が癌発症リスクの指標となる可能性も指摘されています(後述)。

(5) 遺伝性低コレステロール血症

  • 家族性低βリポ蛋白血症など、まれな遺伝的異常。
    → 小児期から著しい低値を示しますが、多くは無症候性。


4. 低コレステロールと疾患リスクの関連

日本人を対象とした大規模研究(NIPPON DATA80など)では、

  • 総コレステロール 160 mg/dL未満の群がん死亡率・出血性脳卒中死亡率が有意に高い ことが報告されています。
    (NIPPON DATA80: Nakamura et al., J Clin Epidemiol, 2009)

一方で、心筋梗塞や脳梗塞のリスク低下は認められます。
つまり、「低ければ低いほど良い」とは言えません。


5. 診療現場での評価手順

  1. 再検査で持続性を確認(2〜4週後)

  2. 甲状腺機能検査(TSH, FT4)

  3. 肝機能検査(AST, ALT, ALP, γ-GTP)

  4. 栄養評価(アルブミン、プレアルブミン、体重変化)

  5. 腫瘍マーカー・画像検査(必要に応じて)

原因が判明すれば原疾患の治療を行い、
原因不明かつ軽度であれば定期モニタリングを行います。


6. 放置してよいケース・注意が必要なケース

状況 対応
一時的な低下(ダイエット・発熱など) 再検査で正常化すれば経過観察で可
スタチン服用中 医師の管理下で継続可能
持続的な低値+全身倦怠・体重減少 内科受診推奨(甲状腺・肝・腫瘍性疾患を除外)
家族性低コレステロール疑い 遺伝子検査・専門医紹介を検討

7. まとめ

  • 低コレステロールは「良いこと」とは限らない

  • 栄養、肝機能、甲状腺、悪性疾患のマーカーとなる場合がある

  • 一過性か持続性かを見極めることが重要

  • 持続する場合は必ず医療機関で精査を受けること


参考文献(エビデンス)

  1. 日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022.

  2. Nakamura Y et al. J Clin Epidemiol. 2009;62(12):1274-1281.

  3. Okamura T et al. Stroke. 2009;40(5):1792–1798.

  4. Kitamura A et al. Circulation. 2002;106(24):2922–2927.

  5. WHO. Low serum cholesterol and mortality: WHO MONICA Project, 2007.

  6. 日本内分泌学会「甲状腺疾患診療ガイドライン2021」


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https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874

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