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椎骨動脈解離とは

[2025.10.15]

椎骨動脈解離とは、首の後ろを走る「椎骨動脈(vertebral artery)」の血管壁が裂けて、血液が壁の中に入り込み、内側から圧迫されることで血流が妨げられる状態です。主に脳梗塞(特に延髄・小脳)やくも膜下出血の原因となることがあります。若年者でも発症することがあり、脳卒中の原因の5〜10%を占めるとも言われています。


主な原因

多くの場合、明確な外傷がなく自然に起こりますが、次のような要因が誘因となることがあります。

  • 激しい首の回旋や伸展(スポーツ、整体など)

  • 軽微な外傷(くしゃみ、咳、車の振動など)

  • 動脈壁の脆弱性(遺伝性結合組織疾患など)

  • 高血圧、喫煙などの動脈硬化リスク

日本の報告では、30〜40代の男性にやや多く、左右差では左側の発症が多い傾向があります。


症状

症状は解離部位や血流障害の範囲により異なりますが、代表的な初期症状は以下の通りです。

  • 後頭部や首の片側の突然の痛み(最も多い初発症状)

  • めまい、ふらつき、複視、構音障害、嚥下障害などの小脳・脳幹症状

  • 重症例では意識障害、呼吸障害、四肢麻痺など

痛みだけの時期に発見されることもありますが、その後に脳梗塞を起こすリスクがあるため注意が必要です。


診断

診断には画像検査が不可欠です。以下のような検査が行われます。

  • MRI(MRA):内膜下血腫(血管壁内の血液貯留)や狭窄像を描出

  • CT angiography(CTA):緊急時の血管評価に有用

  • 頸動脈超音波(エコー):非侵襲的だが、椎骨動脈ではやや感度が低い

MRAやCTAで「string sign」「pearl-and-string sign」と呼ばれる特徴的な像が見られることがあります。


治療

椎骨動脈解離は、**出血型(くも膜下出血)虚血型(脳梗塞)**かで治療方針が異なります。

虚血型(脳梗塞を伴う場合)

  • 抗血小板療法(アスピリン、クロピドグレルなど)が基本。

  • 一部では**抗凝固療法(ワルファリン、DOAC)**が行われることもあるが、近年は抗血小板療法が標準。

  • ほとんどの症例で自然再開通が見られ、3〜6か月で改善することが多い。

出血型(くも膜下出血を伴う場合)

  • 再破裂の危険があるため**早期に血管内治療(コイル塞栓など)**を行う。

  • 保存的治療では再出血リスクが高いとされる。


予後

多くの例で適切な治療により回復しますが、

  • 再発率は年間約1%程度

  • 合併する脳梗塞による後遺症は約20〜30%

と報告されています。長期的には血管の再開通や形態安定を確認するため、**定期的な画像フォロー(3〜6か月間隔)**が推奨されます。


日常生活での注意

  • 首を強くひねる、マッサージや整体などの過度な刺激を避ける

  • 高血圧や喫煙などの血管リスクを管理する

  • 痛みやめまい、言語障害などが再発した場合はすぐに受診する


まとめ

椎骨動脈解離は「若くても起こる脳卒中の原因」です。
突然の後頭部痛やめまいを「肩こり」や「寝違え」と見誤ることも多く、早期診断が重要です。
MRIやMRAの進歩により、近年は軽症例でも早期に発見されるケースが増加しています。
首の違和感や後頭部痛が急に強く出た際は、神経内科や脳神経外科への受診をためらわないことが大切です。


参考文献(エビデンス)

  1. 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021.

  2. Kim YK, Schulman S. Cervical artery dissection: Pathology, epidemiology and management. Thromb Res. 2020; 194: 1–10.

  3. Debette S, Leys D. Cervical-artery dissections: predisposing factors, diagnosis, and outcome. Lancet Neurol. 2009; 8(7): 668–678.

  4. Yamaura A, et al. Clinical features and outcomes of spontaneous cervicocephalic arterial dissection in Japan. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017; 26(5): 1044–1052.


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