「水分の摂りすぎ」ってある?夏の脱水と低ナトリウム血症の境界線
「熱中症対策には水分補給を」とよく言われますよね。
もちろん大切なことなのですが、実は水を飲みすぎても体に悪影響が出ることがある――そんな事実をご存知でしょうか?
特に夏場は「脱水になってはいけない」と意識しすぎて、水を大量に飲みすぎることで起こる低ナトリウム血症に注意が必要です。
今回は、医師の立場から「水分の摂りすぎ」がどう体に影響するのか、また**脱水と低ナトリウムの“見えない境界線”**について、わかりやすく解説します。
そもそも「水分を摂りすぎる」とどうなる?
私たちの体液は、電解質(ナトリウム・カリウムなど)の濃度が厳密に調整されています。
大量の水だけを摂取し続けると、体内のナトリウム濃度が下がってしまい、いわゆる低ナトリウム血症(血清Na<135 mEq/L)が起きる可能性があります。
軽度であれば疲労感や頭痛、重度になると以下のような症状が現れます:
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吐き気・おう吐
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意識がぼんやりする
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けいれん
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昏睡(まれだが重症例)
実際、マラソン大会や高温多湿の環境で「水だけを飲み続けた結果、意識障害を起こして搬送された」という事例は少なくありません。
なぜ夏場は「低ナトリウム血症」が起こりやすいのか?
夏は発汗が多くなり、ナトリウムも一緒に体外へ失われます。
このとき、水だけを補給すると血液中のナトリウム濃度がさらに薄まってしまうのです。
また、日本人はもともと「減塩」が叫ばれる文化もあり、ナトリウム摂取が必要以上に制限されている人も。
「たくさん汗をかいた→水をガブ飲み→食塩は摂っていない」
という流れが、低ナトリウム血症を引き起こす典型的なパターンです。
どれくらい飲んだら“飲みすぎ”なの?
水の「飲みすぎ」の基準は体格や発汗量にもよりますが、一般的には以下が目安になります。
状況 | 適切な水分摂取量(成人) |
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通常の活動 | 約1.5〜2.0L/日(食事含まず) |
発汗多い時 | 体重1kgあたり 30〜40mL/日 |
危険ライン | 一度に1L以上の「水のみ」を短時間で飲むことを繰り返す場合 |
特に、1時間に1L以上の水を連続摂取すると、水中毒のリスクが高まります。
「のどが渇いたから一気に500mlを何本も飲む」ような習慣には要注意です。
スポーツドリンクや経口補水液との違い
ここで「じゃあ水じゃなくてスポーツドリンクを飲めばいいの?」という疑問が出てくるかもしれません。
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スポーツドリンク:糖分が多く、ナトリウム濃度はやや低い
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経口補水液(OS-1など):ナトリウム・カリウムが多く、脱水対応に適する
つまり、普段使いには水や麦茶+塩分補給、
脱水が心配なときは経口補水液がおすすめです。
糖分が多いスポーツドリンクを常用すると、かえって血糖値や虫歯のリスクにもつながるので注意が必要です。
水分補給の正しいコツ5つ
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「のどが渇く前」に少しずつ飲む
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塩分もセットで摂取(梅干し・味噌汁・塩タブレットなど)
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一度にガブ飲みせず、こまめに飲む
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汗をかいたら“水+塩”の意識で
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アルコールは水分補給にはならない(むしろ脱水を促す)
こんな症状があれば一度ご相談ください
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水分は摂っているのにフラフラする・頭痛がある
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足がつる、倦怠感が強い
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吐き気やおう吐がある
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冷房の中でも異常に汗が出る
これらは軽度の低ナトリウム血症や脱水のサインかもしれません。
当院では、必要に応じて血液検査や点滴による補正も行っています。
まとめ:水分補給は「水だけ」では足りない
「水分は大事」と言われがちですが、実は“水だけを飲みすぎる”のも危険です。
夏場は特に、水分と電解質(ナトリウム)をバランスよく補うことが、体調管理の鍵になります。
気になる症状がある方は、早めに医師に相談してください。
特に高齢の方、持病をお持ちの方、スポーツをされる方は注意が必要です。
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