ミドドリンによる高血圧の副作用 ― 起立性調節障害で処方される前に知っておきたいこと
ミドドリンとは
ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン)は、交感神経を刺激して血管を収縮させることで血圧を上げる薬です。
もともと 神経因性起立性低血圧 や 起立性調節障害(OD) に対して使用され、立ちくらみやふらつきを改善する目的で処方されます。
作用機序
ミドドリンは体内で活性代謝物「デスメチルミドドリン」に変換され、α1アドレナリン受容体を刺激して末梢血管を収縮させます。
これにより血圧が上昇し、立位時の脳血流低下を防ぐのが主な作用です。
高血圧の副作用が起きる理由
本来、ミドドリンは「座位・臥位時の血圧」を上げすぎないように設計されています。
しかし、以下の条件では 過剰な昇圧 が起き、頭痛・動悸・顔面紅潮などの副作用が出やすくなります。
1. 夜間服用や頻回投与
ミドドリンの半減期はおよそ3〜4時間。
就寝前に服用すると臥位高血圧(supine hypertension) が起こりやすくなります。
2. 高用量または自己調整服用
1回2.5〜5mgを1日2〜3回が標準ですが、独断で増量すると過昇圧を起こす。
3. 脱水や塩分摂取過多
循環血液量が多い状態で投与されると、血圧上昇作用が相乗して現れる。
4. 他の昇圧薬との併用
フルドロコルチゾン、NSAIDs、抗うつ薬などとの併用で昇圧リスクが増大。
有害事象の内容(臨床報告より)
主な有害事象 | 発現機序 | 重症度 |
---|---|---|
臥位高血圧 | 末梢血管収縮の持続 | ★★★ |
頭痛・後頭部痛 | 血圧上昇による脳血流圧変化 | ★★ |
動悸・頻脈 | 反射性心拍上昇 | ★★ |
顔面紅潮・ほてり | 血管収縮後の反射性拡張 | ★ |
排尿障害・尿閉 | α1刺激による膀胱頸部収縮 | ★★ |
厚生労働省の医薬品副作用データベース(PMDA, 2024年改訂)によると、ミドドリンによる高血圧関連副作用の報告頻度は約2〜3%。
特に「臥位高血圧」は高齢者だけでなく若年者でも報告されています。
服薬時の注意点
-
服用は日中のみ(朝・昼が原則。夜間は避ける)
-
服用後4〜5時間以内に横にならない(臥位高血圧の予防)
-
血圧を定期的に測定(特に自宅血圧で座位・立位の両方)
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頭痛や動悸を感じたら中止して医師に相談
-
脱水を避け、塩分過剰摂取には注意
若年者の注意点
若者では自律神経の反応性が高く、少量でも強い昇圧反応が出る場合があります。
また「疲れやすい」「朝起きられない」などの症状に対して、
本来の病態が自律神経過敏型(交感神経優位)である場合、ミドドリンが逆効果になる こともあります。
このため、若年者への漫然投与は避けるべきとされています(日本小児心身医学会ガイドライン 2015)。
代表的な研究報告
-
Freeman R et al., Clin Auton Res. 2011
起立性低血圧患者における臥位高血圧はミドドリン使用例で有意に増加。 -
Low PA et al., N Engl J Med. 1997
ミドドリン投与群で血圧改善効果を認めたが、臥位高血圧は11.6%に発現。 -
日本自律神経学会ガイドライン 2023
ミドドリン使用時は就寝前投与を避け、座位・立位時血圧を定期評価すべきと明記。
まとめ
ミドドリンは起立性調節障害に有効な薬ですが、過度な昇圧による副作用(臥位高血圧など) を起こすことがあります。
特に若年層では自律神経の反応性が高く、少量でも強い効果が出るため、自己判断での増量や夜間服用は厳禁です。
生活習慣改善(塩分・水分摂取、運動、睡眠リズム)を並行し、定期的な血圧測定を行うことで安全に治療を続けることが大切です。
参考文献
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日本自律神経学会. 起立性低血圧診療ガイドライン 2023.
-
日本小児心身医学会. 小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン 2015.
-
Freeman R et al. Clin Auton Res. 2011;21:69–72.
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Low PA et al. N Engl J Med. 1997;336:1–7.
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PMDA医薬品副作用情報集積データベース(2024年更新版).
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