高血圧治療の第一選択薬は?日本と欧米のガイドライン比較
「血圧が高いですね。今日からお薬を始めましょう」
そう言われて処方された薬、なぜその薬が選ばれたのか、考えたことはありますか?
高血圧治療の第一歩である「第一選択薬」は、医師が何となく選んでいるわけではありません。実は、国際的なガイドラインと科学的な研究に基づいて決まっているのです。
今回は、日本と欧米のガイドラインを比較しながら、どんな薬が最初に使われるのかをわかりやすく解説します。
日本高血圧学会ガイドライン(JSH 2024)の推奨
日本では、以下の4種類の降圧薬が第一選択薬とされています。
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ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
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ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
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Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)
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利尿薬(サイアザイド系など)
これらは等価に推奨されており、患者の年齢・腎機能・合併症などによって最適なものを選びます。
たとえば、
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若年者や糖尿病合併例ではARBやACE阻害薬が優先される傾向があります。
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高齢者や脳卒中の既往がある方にはCa拮抗薬が使われやすいです。
アメリカのガイドライン(ACC/AHA 2017)
一方、米国のガイドラインでは少し違った特色があります。
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第一選択薬として推奨されているのは、
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ACE阻害薬またはARB
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サイアザイド系利尿薬
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Ca拮抗薬(DHP系)
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特に注目すべき点は、「ARBとACE阻害薬は併用しないこと」が明確に記載されている点です(腎機能悪化リスクがあるため)。
また、米国では「人種によっても第一選択薬が異なる」という独自の考え方があります。
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黒人の高血圧患者では、ARB/ACEよりも利尿薬やCa拮抗薬が優先される傾向があります。
欧米での実臨床における主流は?
実際の臨床現場では、
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欧米では利尿薬が比較的多く使われており、
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日本ではCa拮抗薬やARBが主流です。
この違いには、食塩摂取量や体型、医療費制度の違いなどが影響していると考えられています。
メタアナリシスでの比較研究
2018年に発表されたThe Lancet誌の網羅的メタアナリシスでは、主要降圧薬の効果を以下の観点から比較しました:
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脳卒中リスクの減少
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心不全予防効果
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心筋梗塞リスク低下
結果として、すべての薬剤群において大きな有効性の差はありませんでしたが、利尿薬がやや心血管イベント抑制効果で優位という結果もありました。
ひろつ内科クリニックでの考え方
当院では、患者さんの
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年齢
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腎機能や電解質バランス
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糖尿病・心疾患などの合併症
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生活スタイル(食塩摂取・仕事など)
を総合的に判断し、ガイドラインに準拠しつつ、個別最適化された処方を行っています。
まとめ
高血圧治療薬は「どれが一番よい」という単純な話ではなく、患者ごとに“最適解”が異なるのが特徴です。
「なぜこの薬なのか」「ほかの薬との違いは?」と疑問を持ったら、ぜひ医師にご相談ください。
【参考文献】
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日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(JSH2024)
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Whelton PK et al. 2017 ACC/AHA Hypertension Guideline. Hypertension. 2018.
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Law MR et al. "Use of blood pressure lowering drugs in the prevention of cardiovascular disease: meta-analysis of 147 trials in the context of expectations from prospective epidemiological studies." Lancet. 2009.
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