中性脂肪高値で何が起こる?(何が危ない?何を防ぐ?)
結論から。高トリグリセライド(TG)血症で臨床的に重要なのは大きく3つです。
1)動脈硬化(残余リスク)の増大、2)急性膵炎リスク、3)脂肪肝・代謝異常の進行。日本ではLDL管理を大黒柱としつつ、TG高値は「残余リスク」として扱い、随時(非空腹時)測定を含めた管理の枠組みが明確化されています。j-athero.org+2j-athero.org+2
1. 動脈硬化リスク(残余リスク)
TG高値はリモナントコレステロール増加・small dense LDL増加と結びつき、既にスタチンでLDLを十分に下げていても心血管イベントの「残余リスク」として残ります。日本ではまずLDL管理が最優先ですが、TG高値が持続する場合は生活習慣是正と二次原因の是正を合わせて行います。非空腹時の評価を含むTG管理が2022年版JASガイドラインに整理されています。j-athero.org+1
補足(海外の知見): スタチン内服中でTG高値(多くは150–499 mg/dL)を対象に、イコサペント酸エチル(純EPA)を追加したREDUCE-ITは主要心血管イベントを有意に低減しました。一方、同じω-3系でもEPA+DHA配合のSTRENGTHは有意差を示さず、薬剤・製剤差が重要と解釈されています。JAMA Network+3nejm.org+3jacc.org+3
さらに補足(薬剤ごとのイベント抑制エビデンス): フィブラートの一種ペマフィブラートはTGを大きく低下させましたが、PROMINENT本試験では主要心血管イベントを減らせませんでした。TGを下げる=イベント減少、では必ずしもありません。nejm.org+2jwatch.org+2
2. 急性膵炎リスク
TGが高度(とくに≥1000 mg/dL[約11.3 mmol/L])になると急性膵炎のリスクが急増します。米国内分泌学会ガイドラインは、≥500 mg/dLでも膵炎予防の観点から薬物療法を含む対策を推奨し、≥1000 mg/dLでは食事・体重・糖尿病コントロールなど集中的介入が基本と述べています。endocrine.org+1
臨床では「腹痛+著明なTG高値」を見たら急性膵炎を強く疑い、絶食・輸液・原因薬剤中止などを迅速に行います(妊娠・糖尿病失調・アルコール・遺伝性脂質異常症などの誘因検索も重要)。endocrine.org
3. 脂肪肝・代謝異常の進行
TG高値は内臓脂肪肥満・インスリン抵抗性と共に動くため、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/代謝関連脂肪性肝疾患(MASLD)の進行と併走しがちです。対処は減量(目標5–10%)、糖質・アルコール・飽和脂肪の調整、身体活動の増量が基礎になります。日本の実臨床でもまず生活習慣・二次原因(糖尿病、甲状腺機能低下症、腎症候群、薬剤[エストロゲン、ステロイド、レチノイド、プロテアーゼ阻害薬など])の評価・是正を行います。j-athero.org
どの数値から何をする?(運用の目安)
日本ではLDL管理が主軸です。そのうえでTGが持続的に高い場合、下の順で介入を重ねます。j-athero.org
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まずは非空腹時も含む反復測定で把握(随時TGの基準枠が設定済み)。生活習慣と二次原因の是正をセットで。j-athero.org+1
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TG 150–499 mg/dLが持続:食事(総エネルギー、単純糖、アルコール、飽和脂肪の調整)、運動、体重最適化。LDL管理最適化(高リスクなら強力スタチン)。日本ではまずここが基本です。j-athero.org
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TG ≥500 mg/dL:膵炎予防の観点から薬物療法併用を検討(食事・体重・糖尿病コントロールが前提)。endocrine.org
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TG ≥1000 mg/dL:急性膵炎高リスク域。禁食や入院下管理を含む集中的介入を低閾値で。endocrine.org+1
薬物療法の位置づけ(要点だけ)
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スタチン:LDL低下が第一。残余リスク対策の土台。j-athero.org
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イクサペント酸エチル(EPA):スタチン下でTG高値の一部患者でイベント減少(REDUCE-IT)。ただし同じω-3でも製剤により成績は異なります(STRENGTH陰性)。nejm.org+1
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フィブラート:TG低下効果は強いが、近年の大規模試験(PROMINENT)で主要イベント減少は示されず。個別化して使う。nejm.org+1
まとめ(診療の現場感)
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まず「LDL最適化+生活習慣+二次原因是正」。
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TGは非空腹時評価を含めて追跡し、膵炎域(≥1000 mg/dL)は救急的に扱う。
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「TGを下げれば必ずイベントが減る」とは言えない。介入はエビデンスに沿って選ぶ(EPAの位置づけ、フィブラートの限界など)。j-athero.org+2nejm.org+2
参考文献(エビデンス)
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日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版(および正誤表, 2024年6月). 非空腹時TGの取り扱いを含む管理指針。j-athero.org+1
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Endocrine Society 2020 Lipid Management Guideline:TG≥500 mg/dLで膵炎予防目的の薬物療法を推奨、≥1000 mg/dLでは集中的な生活介入が要。endocrine.org
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Berglund L, et al. Endocrine Society 2012指針:重症高TGと膵炎リスクの関係。OUP Academic
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Bhatt DL, et al. REDUCE-IT(NEJM 2019):スタチン下TG高値でEPAが主要心血管イベントを低減。nejm.org
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Nicholls SJ, et al. STRENGTH(JAMA 2020):EPA+DHA製剤は主要イベント低減せず。JAMA Network+1
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Das Pradhan A, et al. PROMINENT(NEJM 2022):ペマフィブラートはTGを下げたが主要イベントを低減せず。nejm.org
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