低血圧とは?原因・症状・治療方針を医学的に正確にまとめました【総説】
1. 低血圧とは
低血圧とは、収縮期血圧100 mmHg未満を指すことが多いですが、医学的には「症状を伴う低血圧」が臨床的意義を持ちます。
日本高血圧学会や欧州心臓病学会(ESC)は、「絶対値よりも臨床症状の有無を重視すべき」としています。
主な分類
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一次性(体質性)低血圧
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起立性低血圧
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食後低血圧
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二次性低血圧(薬剤性、内分泌疾患、脱水など)
2. 症状
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めまい、ふらつき、倦怠感
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立ちくらみ、失神
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集中力低下、冷え、頭痛
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重症例では意識障害、ショック状態へ進行することもあります。
3. 原因(エビデンス分類別)
| 分類 | 主な原因 | エビデンスレベル |
|---|---|---|
| 脱水・下痢・出血 | 循環血液量減少 | A |
| 起立性低血圧 | 自律神経機能低下、パーキンソン病、糖尿病性ニューロパチー | A |
| 薬剤性 | 降圧薬、抗うつ薬、利尿薬、α遮断薬 | A |
| 内分泌性 | 副腎不全、甲状腺機能低下症 | A |
| 心原性 | 不整脈、心不全、弁膜症 | A |
| 体質性(本態性) | 若年女性に多い傾向、明確な器質的原因なし | B |
4. 起立性低血圧の診断と評価
定義(日本自律神経学会・ESC 2022)
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起立後3分以内に収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期が10 mmHg以上低下。
推奨される評価法
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起立試験またはティルト試験(tilt-table test)
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自律神経障害の有無(Valsalva試験など)
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薬剤・脱水の評価
エビデンス:J Am Coll Cardiol 2022;79:3070–3091(ESC起立性低血圧ガイドライン)
5. 治療方針(症候性低血圧の場合)
(1) 生活習慣の改善(First-line, エビデンスA)
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水分・塩分摂取の適正化(1日2〜2.5Lの水分)
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弾性ストッキングの使用
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徐々に起立する・朝の急な動作を避ける
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食後低血圧対策としては、少量多回の食事
(2) 原因薬剤の見直し(エビデンスA)
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降圧薬や利尿薬の減量・中止を検討
-
抗うつ薬・α遮断薬・硝酸薬なども対象
(3) 薬物治療(エビデンスB〜C)
-
ミドドリン塩酸塩(昇圧剤)
有効性:NEJM 1997;336:180–186 -
ドロキシドパ(ノルアドレナリン前駆体)
有効性:J Neurol Neurosurg Psychiatry 2018;89:132–138 -
フルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド)
エビデンス:Ann Intern Med 2017;166:285–294
6. 注意が必要な病態
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心不全や重度不整脈を伴う低血圧(器質的疾患)
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副腎不全、敗血症、甲状腺機能低下症による二次性低血圧
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起立性低血圧の背後にある自律神経疾患(パーキンソン病など)
これらは単なる「血圧が低い」ではなく、全身性疾患のサインとして精査が必要です。
7. まとめ
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低血圧は「症状を伴うかどうか」で臨床的意義が変わる。
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起立性低血圧は高齢者・糖尿病・神経疾患患者に多く、診断基準が明確。
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生活指導と薬剤見直しが第一選択。薬物治療は補助的。
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背景に重篤な疾患が隠れていないか常に評価することが重要。
参考文献(エビデンスレベルA〜B)
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Freeman R, et al. "Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension." Clin Auton Res 2011;21:69–72.
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Gibbons CH, et al. "Evidence-based guideline: treatment of orthostatic hypotension." Neurology 2017;88:95–100.
-
Fanciulli A, et al. "Diagnosis and management of orthostatic hypotension." J Am Coll Cardiol 2022;79:3070–3091.
-
日本自律神経学会. 起立性低血圧診療ガイドライン 2022.
-
日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(低血圧に関する章を含む).
-
Kaufmann H, et al. "NEJM 1997;336:180–186." (midodrine trial)
-
Jordan J, et al. Ann Intern Med 2017;166:285–294. (fludrocortisone evidence)
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