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低血圧とは?原因・症状・治療方針を医学的に正確にまとめました【総説】

[2025.10.29]

1. 低血圧とは

低血圧とは、収縮期血圧100 mmHg未満を指すことが多いですが、医学的には「症状を伴う低血圧」が臨床的意義を持ちます。
日本高血圧学会や欧州心臓病学会(ESC)は、「絶対値よりも臨床症状の有無を重視すべき」としています。

主な分類

  • 一次性(体質性)低血圧

  • 起立性低血圧

  • 食後低血圧

  • 二次性低血圧(薬剤性、内分泌疾患、脱水など)


2. 症状

  • めまい、ふらつき、倦怠感

  • 立ちくらみ、失神

  • 集中力低下、冷え、頭痛

  • 重症例では意識障害、ショック状態へ進行することもあります。


3. 原因(エビデンス分類別)

分類 主な原因 エビデンスレベル
脱水・下痢・出血 循環血液量減少 A
起立性低血圧 自律神経機能低下、パーキンソン病、糖尿病性ニューロパチー A
薬剤性 降圧薬、抗うつ薬、利尿薬、α遮断薬 A
内分泌性 副腎不全、甲状腺機能低下症 A
心原性 不整脈、心不全、弁膜症 A
体質性(本態性) 若年女性に多い傾向、明確な器質的原因なし B

4. 起立性低血圧の診断と評価

定義(日本自律神経学会・ESC 2022)

  • 起立後3分以内に収縮期血圧が20 mmHg以上、または拡張期が10 mmHg以上低下。

推奨される評価法

  • 起立試験またはティルト試験(tilt-table test)

  • 自律神経障害の有無(Valsalva試験など)

  • 薬剤・脱水の評価

エビデンス:J Am Coll Cardiol 2022;79:3070–3091(ESC起立性低血圧ガイドライン)


5. 治療方針(症候性低血圧の場合)

(1) 生活習慣の改善(First-line, エビデンスA)

  • 水分・塩分摂取の適正化(1日2〜2.5Lの水分)

  • 弾性ストッキングの使用

  • 徐々に起立する・朝の急な動作を避ける

  • 食後低血圧対策としては、少量多回の食事

(2) 原因薬剤の見直し(エビデンスA)

  • 降圧薬や利尿薬の減量・中止を検討

  • 抗うつ薬・α遮断薬・硝酸薬なども対象

(3) 薬物治療(エビデンスB〜C)

  • ミドドリン塩酸塩(昇圧剤)
    有効性:NEJM 1997;336:180–186

  • ドロキシドパ(ノルアドレナリン前駆体)
    有効性:J Neurol Neurosurg Psychiatry 2018;89:132–138

  • フルドロコルチゾン(鉱質コルチコイド)
    エビデンス:Ann Intern Med 2017;166:285–294


6. 注意が必要な病態

  • 心不全や重度不整脈を伴う低血圧(器質的疾患)

  • 副腎不全、敗血症、甲状腺機能低下症による二次性低血圧

  • 起立性低血圧の背後にある自律神経疾患(パーキンソン病など)

これらは単なる「血圧が低い」ではなく、全身性疾患のサインとして精査が必要です。


7. まとめ

  • 低血圧は「症状を伴うかどうか」で臨床的意義が変わる。

  • 起立性低血圧は高齢者・糖尿病・神経疾患患者に多く、診断基準が明確。

  • 生活指導と薬剤見直しが第一選択。薬物治療は補助的。

  • 背景に重篤な疾患が隠れていないか常に評価することが重要。


参考文献(エビデンスレベルA〜B)

  1. Freeman R, et al. "Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension." Clin Auton Res 2011;21:69–72.

  2. Gibbons CH, et al. "Evidence-based guideline: treatment of orthostatic hypotension." Neurology 2017;88:95–100.

  3. Fanciulli A, et al. "Diagnosis and management of orthostatic hypotension." J Am Coll Cardiol 2022;79:3070–3091.

  4. 日本自律神経学会. 起立性低血圧診療ガイドライン 2022.

  5. 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2024(低血圧に関する章を含む).

  6. Kaufmann H, et al. "NEJM 1997;336:180–186." (midodrine trial)

  7. Jordan J, et al. Ann Intern Med 2017;166:285–294. (fludrocortisone evidence)


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