マイコプラズマ肺炎とは?原因・症状・検査・治療を医学的に解説
マイコプラズマ肺炎は、Mycoplasma pneumoniae(マイコプラズマ・ニューモニエ)という細菌によって引き起こされる非定型肺炎の代表的な感染症です。主に小児や若年成人に多いものの、成人でも発症します。日本では毎年秋から冬にかけて流行する傾向があります。
原因と感染経路
病原体であるマイコプラズマは、細胞壁を持たない非常に小型の細菌です。通常の抗菌薬(βラクタム系など)が効きにくいのは、この構造によるものです。
感染は主に飛沫感染で、咳やくしゃみなどで排出された飛沫を吸い込むことにより広がります。潜伏期間は2〜3週間と比較的長いのが特徴です。
症状の特徴
発症はゆるやかで、初期は風邪に似た症状から始まります。
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発熱(多くは38〜39℃前後)
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持続する乾いた咳(特徴的)
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倦怠感
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頭痛・咽頭痛
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胸痛(胸膜炎を伴う場合)
特に咳が長引くのが特徴で、発症から数週間続くことがあります。重症例では肺炎像が広がり、胸水や呼吸苦を伴うこともあります。
診断
診断は臨床症状と検査結果を総合して行います。
1. 画像検査
胸部X線では、スリガラス状陰影や斑状陰影が両側肺に広がることがあります。肺葉性肺炎とは異なり、明確な境界を持たないことが多いです。
2. 血液検査
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白血球数は正常または軽度上昇
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CRP(炎症反応)は軽〜中等度上昇
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肝機能異常(AST, ALT軽度上昇)が伴うこともあります
3. 特異的検査
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マイコプラズマ抗体(PA法、CF法、ELISA法)
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迅速抗原検査(イムノクロマト法)
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PCR法:近年では最も感度・特異度が高いとされる(保険適用あり)
PCRによる遺伝子検出は確定診断に有用ですが、施設によっては外注検査となるため結果判明までに数日かかります。
治療
1. 抗菌薬治療
マイコプラズマはβラクタム系抗菌薬(ペニシリン・セフェムなど)が効かないため、細胞内に作用する抗菌薬が選択されます。
日本のガイドライン(日本呼吸器学会・日本感染症学会)では以下が推奨されています。
| 薬剤分類 | 主な薬剤例 | 備考 |
|---|---|---|
| マクロライド系 | クラリスロマイシン、アジスロマイシン | 小児・妊婦に推奨 |
| テトラサイクリン系 | ミノサイクリン、ドキシサイクリン | 8歳以上で使用可 |
| ニューキノロン系 | レボフロキサシン、モキシフロキサシン | 成人に有効、マクロライド耐性株にも対応可 |
2. 耐性株の問題
日本ではマクロライド耐性マイコプラズマが高頻度に確認されています。特に小児では40〜60%と報告されており、治療効果が不十分な場合には早期に薬剤変更が必要です。
治療経過と合併症
咳は抗菌薬治療後もしばらく続くことがありますが、多くは2〜3週間で改善します。
まれに以下のような合併症を起こすことがあります。
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中耳炎、咽頭炎
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肝機能障害
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溶血性貧血
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髄膜炎、脳炎
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心筋炎
登校・出勤の目安
学校保健安全法では、マイコプラズマ肺炎は登校停止の対象疾患ではないため、症状が改善すれば登校・出勤可能です。ただし、咳が強い間は飛沫感染防止のためマスク着用が推奨されます。
予防
現時点で有効なワクチンは存在しません。
感染拡大防止のために以下が推奨されます。
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咳エチケットの徹底
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手洗い・うがい
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十分な休養と栄養
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感染者との密接接触を避ける
まとめ
マイコプラズマ肺炎は、通常の風邪や一般的な肺炎とは異なる経過をたどる非定型肺炎です。
咳が長引く場合や家族内感染が疑われる場合は、早めの医療機関受診が重要です。適切な抗菌薬治療により、ほとんどの例は後遺症なく回復します。
参考文献(エビデンス)
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日本感染症学会・日本呼吸器学会「成人市中肺炎診療ガイドライン2017」
-
日本小児感染症学会「マイコプラズマ感染症診療ガイドライン2021」
-
Miyashita N, et al. Mycoplasma pneumoniae pneumonia in adults: epidemiology, diagnosis, and management. J Infect Chemother. 2020;26(2):113-121.
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Waites KB, et al. Mycoplasma pneumoniae: current clinical and diagnostic perspectives. Clin Microbiol Rev. 2017;30(3):747–809.
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