スタチン系薬剤とは
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)は、肝臓でのコレステロール合成を抑制し、血中LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させる薬剤群です。
動脈硬化性疾患予防の中心的薬剤であり、日本でも一次予防・二次予防の両方で広く用いられています。
日本で使用可能なスタチン一覧(2025年時点)
| 一般名 | 主な商品名 | 作用時間 | 標準投与量 | 最大投与量 | 代謝経路 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ロスバスタチン | クレストール、ロスバスタチン | 長時間型 | 2.5〜5mg/日 | 20mg/日 | 一部CYP2C9 | 最も強力。日本人では低用量でも効果大。腎排泄比率がやや高い。 |
| アトルバスタチン | リピトール、アトルバスタチン | 中時間型 | 10mg/日 | 40mg/日 | CYP3A4 | 強力かつ安定。CKDや糖尿病にもよく用いられる。 |
| ピタバスタチン | リバロ、ピタバスタチン | 中時間型 | 1〜2mg/日 | 4mg/日 | CYP2C9 | HDL上昇作用が比較的強い。日本発のスタチン。 |
| プラバスタチン | メバロチン、プラバスタチン | 短時間型 | 10〜20mg/日 | 40mg/日 | CYP非依存 | 相互作用が少なく高齢者・多剤併用例に安全。 |
| シンバスタチン | リポバス、シンバスタチン | 短時間型 | 5〜10mg/日 | 20mg/日 | CYP3A4 | 古典的スタチン。強力ではないが実績豊富。 |
| フルバスタチン | ローコール、フルバスタチン | 短時間型 | 20〜40mg/日 | 80mg/日 | CYP2C9 | 効果は穏やかだが副作用が少ない。 |
| ロバスタチン | メバロチンと同系(国内販売終了) | ― | ― | ― | ― | 国内では実質使用なし。 |
LDL低下効果の強さ(メタ解析による比較)
| スタチン | LDL-C低下率(目安) |
|---|---|
| ロスバスタチン 20mg | 約55% |
| アトルバスタチン 40mg | 約50% |
| ピタバスタチン 4mg | 約45% |
| シンバスタチン 20mg | 約35% |
| プラバスタチン 20mg | 約30% |
| フルバスタチン 80mg | 約25% |
(引用:Cholesterol Treatment Trialists’ Collaboration, Lancet 2019)
投与の考え方(日本動脈硬化学会ガイドライン2022年版)
-
一次予防:LDL-C 160mg/dL以上で、生活習慣改善後も高値が続く場合に検討。
-
二次予防(冠動脈疾患、脳梗塞、PAD既往など):LDL-C 70mg/dL未満を目標にスタチンを基本とする。
-
高リスク例(糖尿病・CKD・家族性高コレステロール血症):より厳格な管理(LDL-C 100mg/dL未満を目標)。
併用療法と強化戦略
-
エゼチミブ併用(例:ロスバスタチン+エゼチミブ=ロスーゼット®)
→ LDL-C追加低下10〜20%。二次予防例で推奨。 -
PCSK9阻害薬併用(エボロクマブ、アリロクマブ)
→ スタチンで十分に下がらない例に使用。LDL低下60%以上。 -
ベムペド酸(2023年承認、日本でも使用可能)
→ スタチン不耐例に有効。
代表的な臨床試験とエビデンスレベル
| 試験名 | 薬剤 | 対象 | 主要結果 | 雑誌・年 |
|---|---|---|---|---|
| 4S試験 | シンバスタチン | CAD患者 | 総死亡率30%減 | Lancet 1994 |
| CARE試験 | プラバスタチン | 心筋梗塞後 | 二次予防効果確認 | NEJM 1996 |
| LIPID試験 | プラバスタチン | 冠動脈疾患 | 再発率低下 | NEJM 1998 |
| TNT試験 | アトルバスタチン | CAD患者 | 高用量群で再発率減 | NEJM 2005 |
| JUPITER試験 | ロスバスタチン | 炎症高値・LDL正常例 | 一次予防効果示唆 | NEJM 2008 |
| REAL-CAD試験(日本) | ピタバスタチン | 安定冠動脈疾患 | 二次予防効果を確認 | JAMA 2017 |
→ スタチンの心血管イベント抑制効果は一次・二次予防ともエビデンスレベルA(最上位)。
副作用と注意点
| 主な副作用 | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| 筋障害(筋肉痛、CK上昇) | 頻度1〜5%、重篤な横紋筋融解症は稀 | CK・腎機能モニタリング |
| 肝機能障害 | ALT上昇など(1〜3%) | 定期採血で経過観察 |
| 糖尿病発症リスク | 軽度上昇報告あり | 高リスク例では注意 |
| 薬物相互作用 | CYP3A4阻害薬併用注意(マクロライド系、アゾール系など) | プラバスタチン・ピタバスタチンは安全 |
内科臨床での実用的な選択指針
| 状況 | 推奨スタチン |
|---|---|
| 高LDL(強力に下げたい) | ロスバスタチン、アトルバスタチン |
| 糖尿病併発 | ピタバスタチン(HDL改善・耐糖能影響少) |
| 多剤併用・高齢者 | プラバスタチン、フルバスタチン |
| 腎機能低下 | アトルバスタチン(腎排泄少) |
| 国産薬で安全性重視 | ピタバスタチン(リバロ) |
まとめ
日本で使用可能なスタチンは6種類。いずれもエビデンスレベルAの心血管疾患予防効果を持ち、患者背景に応じた使い分けが重要です。
特にロスバスタチン・アトルバスタチン・ピタバスタチンが現在の主力3剤です。
投与後は肝機能・CK・血糖値の定期確認を行い、筋症状が出た場合は速やかに中止・評価します。
参考文献(エビデンス)
-
日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.
-
Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaboration. Lancet 2019;393:407–415.
-
Ridker PM et al. JUPITER Trial. N Engl J Med 2008;359:2195–2207.
-
Taguchi I et al. REAL-CAD Study. JAMA 2017;317(7):713–722.
-
LaRosa JC et al. TNT Trial. N Engl J Med 2005;352:1425–1435.
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