ブレインフォグや慢性疲労にアリセプト(ドネペジル)は効く?日本の最新研究と医師の見解
「コロナにかかってから、ずっと頭がぼーっとしている」
「原因がわからない疲れや集中力低下が何か月も続いている」
そんな“ブレインフォグ”や“慢性疲労”に悩む方が増えています。
最近、**認知症の治療薬として知られる『アリセプト(一般名:ドネペジル)』が、こうした症状に効果があるのでは?**という話題が注目を集めています。
実はこのテーマ、日本と海外で実際に臨床研究が行われており、科学的な検証が進められている分野です。
本記事では、ブレインフォグ・慢性疲労症候群(ME/CFS)に対するドネペジルの効果と副作用、そして医師としての見解をわかりやすく解説します。
アリセプト(ドネペジル)とは?
ドネペジルは、アルツハイマー型認知症に使用される薬です。
脳内の「アセチルコリン」という神経伝達物質の分解を抑えることで、記憶力や集中力の改善に寄与します。
このアセチルコリンが覚醒・注意力・意欲などにも関与することから、
「ブレインフォグや慢性疲労にも有効では?」という仮説のもと、研究が進められてきました。
コロナ後遺症(Long COVID)に対する日本の臨床試験
日本の研究チームによる多施設試験(2022〜2024年)
- 対象者:新型コロナ感染後、12か月以内の慢性疲労を訴える成人110名
- 投与法:ドネペジル3mg/日から開始、1週間後に5mg/日に増量(3週間投与)
- 評価:疲労スコア・QOL・不安抑うつ・睡眠・集中力などを3週・8週時点で評価
結果
- 疲労スコア改善はプラセボ群と差なし
- ブレインフォグや心理的QOLにも有意な差は確認されず
- 重篤な副作用はなし、軽度の消化器症状などが報告された
(出典:JAMA Network Open, 2025年3月)
つまり、現時点では「コロナ後の疲労やブレインフォグに対してドネペジルが有効」とは言えないというのが科学的結論です。
慢性疲労症候群(ME/CFS)にも効く?
コロナとは無関係に、もともと「慢性疲労症候群(ME/CFS)」という難治性の疾患があります。
強い全身倦怠感・思考力低下・睡眠障害などが長期間持続し、生活に大きな支障をきたします。
米国での小規模研究(2001年)
- 対象:ME/CFS患者10名
- 介入:ドネペジル5mg/日を4週間投与
- 結果:集中力や睡眠の改善を自覚する患者もいたが、統計的な有意差は得られず
(出典:Patarca-Montero R. J Chronic Fatigue Syndr. 2001)
この研究もまた、**「効果があるかもしれないが、決定的ではない」**という段階にとどまっています。
なぜ効果があるように感じる人がいるのか?
いくつかの仮説があります:
- アセチルコリンの不足が症状の一因になっているタイプの人が一部にいる
- 軽度の認知機能低下やうつ状態が隠れており、それに作用して改善した
- プラセボ効果
いずれにしても、万人に効くとは言えず、診断と使い方を誤ると副作用のリスクもある薬です。
副作用と注意点
ドネペジルには以下のような副作用が報告されています:
- 胃のむかつき、下痢、食欲不振
- 寝つきの悪さ、不眠
- 徐脈(脈が遅くなる)
- めまいや立ちくらみ
- 稀に、幻覚・不安感などの精神症状
特に高齢者や心疾患がある方、徐脈気味の方には注意が必要です。
医師としての結論
- 現時点で、ブレインフォグや慢性疲労に対する「ドネペジルの明確な効果」は示されていません
- 「効いた」と感じた方が一定数いるのも事実ですが、個人差が大きく、再現性に乏しい状況です
- 専門医の診断のもと、ごく一部の患者に限定的に投与されることはありえますが、一般的には推奨されません
- 特にネットでの個人輸入や自己判断での使用は危険です
まとめ
- ドネペジルは認知症の薬ですが、ブレインフォグや慢性疲労に応用されるケースがあります
- ただし、日本を含む最新の臨床研究では有効性は確認されていません
- 使用する際は副作用に十分注意し、医師の管理のもとで行うべきです
- 疲労や集中力低下の背景に別の疾患(貧血、甲状腺異常、ビタミン欠乏など)が隠れていることもあるため、まずは医療機関での評価をおすすめします
ひろつ内科クリニックでは、原因不明の疲労や集中力低下に対し、迅速な血液検査・甲状腺検査・ビタミン評価を行い、必要に応じて自由診療による対策も提案しています。
疲れが取れない、ぼーっとする、仕事に集中できない…そんなお悩みは、お気軽にご相談ください。
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