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熱中症で人が亡くなるとき──死亡リスクを高める危険因子とは?

[2025.07.25]

毎年、夏になると「熱中症で○人搬送」「高齢者が死亡」といったニュースが繰り返されます。
しかし、なぜ熱中症で命を落とすのでしょうか?
そして、誰が亡くなりやすいのか?

今回は私が救急医時代に経験した死亡例を振り返りながら、熱中症の死亡リスクを高める危険因子について、最新のエビデンスに基づいて丁寧に解説します。


【臨床現場より】私が救急集中治療医時代経験した2例の熱中症死亡例

  1. 70代・女性、高齢者独居、エアコン不使用、脱水・意識障害で搬送 → DIC併発・死亡

  2. 30代・男性、BMI35以上の高度肥満、高温多湿の工場屋内作業中にショック状態で搬送 → 多臓器不全で死亡

どちらのケースも「誰にでも起こりうる」背景がありました。
単に「暑かったから」ではなく、個人のリスク要因が重なった結果なのです。


【科学的エビデンス】熱中症で死亡しやすい人の特徴

1. 高齢者(特に75歳以上)

  • 加齢により体温調節機能(汗や皮膚血流の調節)が低下

  • のどの渇きに気づきにくい

  • 認知機能の低下により「暑さに気づかない」「水を飲まない」ケースも多い。

  • 総務省の統計でも、熱中症死亡者の約8割は65歳以上

引用:Ministry of Internal Affairs and Communications, Japan. Annual Heatstroke Statistics 2023.

2. 高度肥満(BMI 35以上)

  • 皮下脂肪が熱の放散を妨げる

  • 体表面積に対して熱産生が大きく、深部体温が急激に上がる

  • 呼吸・循環への負担も大きく、重症化・死亡リスクが高い(JAMA, 2022)。

3. 慢性疾患を持つ人(特に心不全・糖尿病・腎不全)

  • 循環調節の予備力が低下。

  • 利尿薬・SGLT2阻害薬などの脱水を助長する薬剤を内服しているケースも多い。

  • 腎機能障害があると体温調整も困難に

4. 脱水・暑熱順化不足の人

  • 若くても、「急に暑くなった日(梅雨明け直後)に屋外で作業」という条件は非常に危険。

  • 暑熱順化には数日〜2週間かかるため、梅雨明けの土日などは搬送が急増する。

5. アルコール多飲者・抗精神病薬使用者

  • アルコールや一部薬剤は体温上昇への感受性を高める

  • 精神疾患を持つ方は熱への気づきが遅れやすいため要注意。


【見逃されがち】死亡リスクが急激に上がる「サイン」

  • 39.5℃以上の体温持続

  • 意識障害(呼びかけに応じない、錯乱など)

  • 発汗の停止(乾いた皮膚)

  • ショック徴候(血圧低下、頻脈、冷感)

  • けいれん・不整脈・腎不全の兆候

これらの症状は、すでに**重度の熱中症(Ⅲ度)**であり、入院どころかICU管理や血液浄化が必要なレベルです。


【予防と対策】特にリスクが高い人はこう守る

  1. 室内でもエアコンは必須(28℃設定でもOK)

  2. 「のどが渇いていなくても」定期的に水分補給

  3. 一人暮らし高齢者には、周囲が声かけ・訪問を

  4. SGLT2阻害薬・利尿薬を服用中の人は夏場に注意

  5. 外作業やスポーツ時は30分ごとに休憩と水分・塩分補給


【まとめ】熱中症で亡くなるのは、特別な人ではない

熱中症による死亡は「若くて健康なら無縁」という話ではありません。
「暑さ+個人リスク」が重なると、誰にでも起こりうる重篤な病態です。

私自身、救急現場で命を落とす方を何人も見てきました。
「ちょっとしんどい」「今日は特別に暑いな」と思ったときこそ、自分の体に意識を向けてください。


文献・参考資料(エビデンスレベルA〜B)

  1. Hifumi T, et al. "Prognostic factors in heatstroke patients in Japan: a multicenter retrospective study." Acute Medicine & Surgery. 2020.

  2. Bouchama A, et al. "Heatstroke." NEJM. 2002.

  3. Kodera S, et al. "Age-related vulnerability to heat stress." Environmental Health Perspectives. 2021.

  4. Watanabe Y, et al. "Effect of obesity on thermoregulation during heat exposure." JAMA. 2022.

  5. Ministry of Internal Affairs and Communications, Japan. "2023 Annual Heatstroke Report."


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https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874

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