ポスト・マンジャロ時代の抗肥満薬:次世代インクレチン製剤の台頭とその科学的根拠
GLP-1受容体作動薬の登場によって、抗肥満治療はかつてない進化を遂げました。特にGIPとのデュアルアゴニストであるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)は、SURMOUNTシリーズ試験により糖尿病非併存の肥満患者でも20%を超える体重減少を実証し、「薬による減量」の限界を一段階引き上げた薬剤として注目されています。
では、このマンジャロの次に来る薬剤は何か?
2023〜2024年にかけて、複数の次世代薬が高いエビデンスとともに報告されており、「ポスト・マンジャロ時代」の到来を予感させています。本稿では、現時点で最もエビデンスレベルの高い次世代ダイエット薬候補を、作用機序・臨床試験結果・今後の展望を交えてご紹介します。
マンジャロ(チルゼパチド)の実績と限界
チルゼパチドは、GLP-1に加えGIP(グルコース依存性インスリノトロピックポリペプチド)受容体にも作用するデュアルアゴニストであり、SURMOUNT-1〜4試験でいずれも**−15〜21%の体重減少**を記録しました。
一方で、以下のような課題も指摘されています。
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一部の患者で**耐性(減量効果の頭打ち)**が早期に出現する
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**消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)**が高頻度でみられる
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注射製剤であることから、服薬継続率が低下する症例もある
これらの点から、より強力かつ忍容性の高い新薬への期待が高まっています。
次世代ダイエット薬:注目の4候補
① レトラセパチド(Retatrutide)【最有力】
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作用機序:GLP-1、GIP、グルカゴン受容体のトリプルアゴニスト
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エビデンス:NEJM 2023年報告
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52週で平均体重減少 −24.2%(最大−26.6%)
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HbA1c低下、脂肪肝改善、空腹感の抑制においても優位
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特徴:グルカゴン受容体活性によるエネルギー消費の亢進が加わる
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課題:高頻度の消化器症状、耐糖能悪化の懸念
② カグリセマ(CagriSema)
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作用機序:GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)+アミリンアナログ(カグリントド)
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エビデンス:Phase II試験でHbA1c低下と−15%前後の体重減少
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特徴:満腹中枢刺激と胃排出遅延の二重効果
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課題:アミリンアナログの製剤安定性と注射の煩雑さ
③ Orforglipron(オルフォグリプロン)
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作用機序:初の非ペプチド型GLP-1受容体作動薬(経口薬)
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エビデンス:NEJM 2023年
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36週で−14.7%の体重減少を記録
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特徴:注射製剤がネックだった層に対して大きな転換点となり得る
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課題:消化器症状がGLP-1注射剤とほぼ同等、忍容性に個人差あり
④ LY3437943
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作用機序:次世代トリプルアゴニスト(Eli Lilly開発)
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進捗:Phase I/II試験にて顕著な体重減少作用を確認
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特徴:グルカゴン作用を意図的に強化、褐色脂肪活性の増加を狙う
作用メカニズムの進化:なぜ「トリプル」が効くのか?
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GLP-1:インスリン分泌促進、食欲抑制、胃排出遅延
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GIP:脂肪組織に対するインスリン感受性増強作用が注目
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グルカゴン:エネルギー消費促進、脂肪分解促進、肝糖放出促進
特に褐色脂肪細胞活性化や、基礎代謝の増加による減量効果が「トリプルアゴニスト」の大きな鍵となっています。GLP-1単独では“節食”のみでしたが、“燃焼”も起こすという点が根本的な進化です。
日本での導入はいつ?現実的な見通し
薬剤名 | 国内導入予測 | 承認段階 |
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レトラセパチド | 2027年以降 | 米国:Phase III進行中、日本未申請 |
カグリセマ | 未定(海外先行) | Phase II後期 |
オルフォグリプロン | 未定 | Phase III進行中 |
LY3437943 | 2030年以降? | 前期臨床段階 |
現時点では、チルゼパチド(マンジャロ)が唯一のGIP/GLP-1デュアルアゴニストとして日本で使える薬剤です。新薬導入までは数年かかると予想され、当面はマンジャロを軸とした治療戦略が続くでしょう。
まとめ
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マンジャロ(チルゼパチド)は現時点で最強の抗肥満薬
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しかし、次世代では**「GLP-1+GIP+グルカゴン」**という三重作用が新たなトレンドに
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レトラセパチドを筆頭に、複数の新薬が強力なエビデンスをもとに登場間近
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国内導入は数年先だが、将来を見据えた医師・患者の情報アップデートが鍵
関連リンク
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