憩室炎とは何か?内科医が総合的に解説します
「憩室」とは?
「憩室(けいしつ)」とは、大腸の壁の一部が袋状に外側へ膨らんだ構造のことを指します。特にS状結腸や上行結腸にできやすく、日本人では右側(上行結腸~盲腸付近)の憩室が多いことが知られています。
高齢者ほど憩室の保有率は高く、70代以上では過半数に見られるとも言われていますが、憩室自体は無症状のことがほとんどです。
しかし、**この憩室が炎症を起こした状態が「憩室炎(diverticulitis)」**であり、適切な診断と治療が必要です。
主な症状と特徴
憩室炎の代表的な症状は以下のとおりです:
-
腹痛(痛む場所は憩室の位置による。右下腹部または左下腹部)
-
発熱
-
圧痛(お腹を押すと痛い)
-
下痢、または一部に便秘
-
吐き気、食欲不振
日本人では特に右下腹部痛(上行結腸の憩室炎)として発症する例が多く、虫垂炎との鑑別が重要になります。一方で、欧米では左側(S状結腸)の憩室が多く、左下腹部痛で受診することが多い傾向があります。
高齢者では症状が不明瞭なこともあり、炎症が進行してから気づかれるケースもあります。
なぜ憩室炎が起こるのか?
憩室自体は無症状ですが、以下の要因で炎症を起こすことがあります:
-
便や食物残渣の憩室内停滞
-
腸内圧の上昇(便秘やいきみなど)
-
食物繊維不足・高脂肪食
-
加齢・肥満・喫煙・運動不足
憩室に詰まった便が感染源となり、細菌性の炎症を引き起こすのが典型的な病態です。
診断方法
診断は以下の流れで進みます。
-
問診・身体診察:痛みの部位、発熱の有無、便通の異常などを確認
-
血液検査:白血球増加、CRP上昇などの炎症所見
-
画像検査(CT):憩室の存在、周囲の脂肪織濃度上昇、膿瘍、穿孔の有無を確認
※急性期には大腸内視鏡を避けるのが原則ですが、出血や悪性疾患との鑑別のため、炎症が落ち着いた後に施行することがあります。
治療方針
軽症(非複雑性憩室炎)
-
外来治療が可能
-
絶食または食事制限(腸管安静)
-
経口抗菌薬(例:クラリス+フラジール、ニューキノロン系など)
-
症状が改善すれば徐々に食事を戻し、再発予防指導へ
重症(複雑性憩室炎)
-
膿瘍、穿孔、腸閉塞、出血などの合併症がある場合
-
入院管理+点滴抗菌薬(カルバペネム系など)+絶食
-
CTガイド下ドレナージや外科的切除が必要になるケースもある
憩室炎の重症度は**Hinchey分類(I~IV)**で評価され、治療方針の指針になります。
再発リスクと予防法
-
憩室炎は初回治療で8~30%が再発すると言われます
-
ただし、2回目も軽症で済むことが多く、再発=手術とは限りません
予防の基本は以下の通り:
-
食物繊維の多い食事(野菜・果物・全粒穀物)
-
便通のコントロール(便秘を避ける)
-
禁煙・適度な運動・肥満是正
なお、「ナッツ・トウモロコシ・種子などを食べると憩室炎になる」という説は、現在では否定されています(後述エビデンス参照)。
よくある質問(FAQ)
Q. 憩室炎と虫垂炎はどう見分ける?
A. 両者とも右下腹部痛で発症することがあり、臨床症状だけでは見分けにくいです。**画像検査(特にCT)**が診断の決め手になります。
Q. 再発したら手術しないといけないの?
A. 原則として**繰り返す重症例(穿孔・狭窄など)**や、日常生活への支障が大きい場合を除き、**手術は慎重に判断されます。**初回での手術適応は少数です。
当院での対応
ひろつ内科クリニックでは、
-
血液検査・尿検査・腹部超音波を即日実施可能
-
CTや内視鏡が必要な場合は近隣病院に迅速紹介
-
初期対応後の生活指導や再発予防も丁寧にサポート
など、スピーディかつ丁寧な対応を重視しています。右下腹部痛や発熱などでお困りの方は、早めの受診をおすすめします。
エビデンス・参考資料
-
日本消化器病学会. 大腸憩室症診療ガイドライン(2021年版)
-
American Gastroenterological Association. Guidelines on the management of acute diverticulitis. Gastroenterology. 2015;149(7):1944–1949.
-
Strate LL, Liu YL, Syngal S, Aldoori WH, Giovannucci EL. Nut, corn, and popcorn consumption and the incidence of diverticular disease. JAMA. 2008;300(8):907–914.
ひろつ内科クリニック受診予約はこちらから
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874