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EBウイルス感染後に紫斑が出た——血小板減少性紫斑とはどんな状態か

[2026.02.28]

 

はじめに

「EBウイルスに感染した後、皮膚に赤い斑点が出てきた」——そのような訴えで受診される患者さんが一定数います。発熱・咽頭痛・リンパ節腫脹という典型的な伝染性単核球症の症状が落ち着き始めた頃に、今度は皮膚の出血斑が目立ち始める——この経過を踏まえると、EBウイルス感染に関連した血小板減少が背景にある可能性を考える必要があります。

本記事では、EBウイルス(Epstein-Barr virus、以下EBV)感染後に生じる紫斑の機序・症状・診断・対応について、内科医の立場から解説します。


EBウイルス感染症(伝染性単核球症)とは

EBVはヘルペスウイルス科に属するウイルスで、主に唾液を介して感染します。日本では2〜3歳児の抗体保有率がすでに80%前後とされており、乳幼児期に不顕性感染(症状なし)として経過することが大半です。

一方、初感染が思春期以降にずれ込むと、発熱・滲出性扁桃炎・後頸部リンパ節腫脹を三主徴とする伝染性単核球症として発症します。咽頭痛で受診した16〜20歳の患者のうち約8%がこの診断に至るとされており、内科外来でも一定の頻度で遭遇します。


なぜ紫斑が出るのか——血小板減少の機序

EBV感染に伴う皮膚出血(紫斑)の背景には、主に以下の機序が関与します。

① 免疫性血小板減少(ITP様機序)

EBVに感染したBリンパ球が活性化し、抗血小板自己抗体が産生されます。この抗体が血小板に結合することで、主に脾臓のマクロファージによる血小板破壊が亢進し、血小板数が低下します。これは二次性ITP(続発性免疫性血小板減少症)に分類される病態です。

MSDマニュアルによると、EBV感染症における一過性かつ軽度の血小板減少は約50%の患者に認められるとされています。ただし、重症の出血を伴う例はこれよりも低頻度です。

② 血球貪食症候群(HLH)への進展

まれな経過として、マクロファージが過剰活性化し血球を貪食する血球貪食症候群に進展することがあります。この場合は血小板のみならず赤血球・白血球も著減し、全身状態の急激な悪化をきたすため、別個の緊急対応が必要です。

③ 脾機能亢進

EBV感染に伴う脾腫により、脾臓での血小板捕捉が亢進することも血小板減少に寄与します。


紫斑の特徴

EBV関連の血小板減少による皮疹は以下の特徴を示します。

  • 点状出血(petechiae):直径1〜3mm程度の小さな出血点
  • 斑状出血(purpura):不整形で圧迫しても色が変わらない(消退しない)
  • 分布:下腿・膝周囲などの重力依存部位に出やすいが、体幹・上肢にも及ぶ
  • 掻痒感はほぼなし:蕁麻疹や接触皮膚炎との鑑別に有用
  • 出現時期:感染急性期〜回復期にかけて。感染後1〜4週を目安に出現することがある

なお、EBV感染でペニシリン系抗菌薬(アンピシリン・アモキシシリン)を使用した場合、麻疹様・薬疹様の広範な発疹が高率に出現しますが、これは血小板減少とは異なる機序(薬剤アレルギー類似反応)によるものです。出血斑か薬疹かの区別は、圧迫消退の有無(ガラス板試験)で確認できます。


どこで診断するか——必要な検査

EBV感染後に紫斑が出現した場合、以下の検査を優先的に行います。

1. 血液検査(CBC) 血小板数の確認が最優先です。5万/μL未満で出血傾向が明確となり、1〜2万/μL以下では治療介入を検討します。白血球分画で異型リンパ球の増加が認められれば、EBV感染を強く示唆します。

2. EBV抗体検査(VCA-IgM/IgG、EA-IgG、EBNA) VCA-IgMが陽性かつEBNAが陰性であれば初感染(現感染)と判定します。EBNAは感染後3〜6か月で陽性化するため、初感染と既往感染の鑑別に有用です。

3. 肝機能(AST/ALT、LDH) EBV感染ではほぼ全例で何らかの肝機能異常を伴います。AST/ALTは感染第2週頃にピークを迎えることが多く、300〜500 IU/L程度の上昇が典型的です。

4. 尿検査 血尿・蛋白尿がある場合、IgA血管炎(Henoch-Schönlein紫斑病)の合併も念頭に置きます。腎糸球体への免疫複合体沈着を評価するための手がかりになります。

5. 凝固検査(PT、APTT、フィブリノゲン) DIC(播種性血管内凝固症候群)の除外に必要です。血小板単独の低下ならITP様機序と考えやすいですが、凝固異常を伴う場合は別の重篤な病態を考慮します。


鑑別すべき疾患

EBV感染後の紫斑として典型的でも、必ず以下の疾患と鑑別します。

疾患 鑑別のポイント
IgA血管炎(HSP) 下腿優位の触れる紫斑、腹痛・関節痛・血尿
薬剤性血小板減少 抗菌薬・NSAIDs等の使用歴
DIC 凝固系異常・フィブリノゲン低下
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) 溶血性貧血・腎障害・神経症状の併存
白血病・悪性リンパ腫 白血球系・赤血球系の異常、骨髄所見

治療と経過

EBV関連の血小板減少の多くは、EBV感染症本体と同様に自然寛解します。

血小板数が3万/μL以上で出血症状が軽度な場合は、基本的に経過観察が原則です。無理な運動・外傷のリスクを避け、数週間以内に血小板数が回復するかを定期的な血液検査でフォローします。

2万/μL以下、あるいはそれ以上でも活動性の出血がある場合は治療介入を検討します。第一選択は副腎皮質ステロイドの全身投与です。緊急に血小板数を増やす必要がある重症例では、**ガンマグロブリン大量静注療法(IVIG)**が用いられます。

なお、EBVそのものに対する有効な抗ウイルス薬は現時点で確立していません。アシクロビルは咽頭からのウイルス排出を一時的に減らしますが、臨床症状の改善を明確に示すエビデンスはなく、ルーチン投与は推奨されていません。


注意すべき症状——こんなときはすぐに受診を

以下の症状があれば、速やかに医療機関を受診してください。

  • 紫斑が急激に拡大・増加している
  • 歯肉からの出血が止まりにくい、鼻血が頻回に出る
  • 血尿・血便が出る
  • 突然の激しい頭痛・意識の変容(頭蓋内出血の可能性)
  • 左側腹部の急激な痛み(脾破裂の可能性)

特に脾破裂は発症後10〜21日に脾腫が最大となる時期に起こりやすく、外傷の有無にかかわらず起こり得ます。EBV感染中はコンタクトスポーツや重量物の持ち上げを避けることが重要です。


 

まとめ

EBウイルス感染後の紫斑は、自己免疫性の血小板減少を主な機序として生じます。軽度であれば自然寛解することが多い一方、血小板が著しく低下した場合や出血が活動性の場合はステロイド・IVIGによる治療介入が必要です。IgA血管炎・DIC・TTPなどの重篤な疾患との鑑別も重要で、血液検査・尿検査を含めた系統的な評価が求められます。


参考文献

  1. MSDマニュアル プロフェッショナル版「伝染性単核球症」(Merck & Co., 2023)
  2. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「伝染性単核症」(NIID)
  3. 柏木浩和 他「成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド 2023年版」臨床血液 64(10):1245-1257, 2023
  4. 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版」
  5. 日本小児血液・がん学会血小板委員会「小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版」
  6. 難病情報センター「特発性血小板減少性紫斑病(指定難病)」厚生労働省

【ひろつ内科クリニック】 〒 福岡市博多区 診療時間:12:00〜21:00(火曜休診)/土日祝も診療 ご予約はこちら:https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874

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