粘血便が出たらどうする?原因の鑑別と受診すべき症状【内科医が解説】
この記事の要点
- 粘血便(ねんけつべん)とは、粘液と血液が混じった便のことで、「イチゴゼリー状」と表現されることがある
- 原因は感染性腸炎・潰瘍性大腸炎・クローン病・大腸がん・虚血性腸炎など多岐にわたる
- 「痔だろう」と自己判断して放置するのはリスクが高い
- 発熱・激しい腹痛・大量出血を伴う場合は緊急受診が必要
- 症状が2〜3日以上続く場合や繰り返す場合は、内科を受診して大腸カメラの適応を判断してもらうことが推奨される
そもそも「粘血便」とは何か
便に含まれる粘液は、腸の粘膜から分泌されるタンパク質の一種で、便が腸内をスムーズに移動するために必要なものです。健常な状態では腸に再吸収されるため、通常は便の中に目立つ形では現れません。
粘液が肉眼でわかるほど増えている場合、腸粘膜に何らかの炎症や損傷が生じているサインです。さらにそこに血液が混じったものを「粘血便」と呼びます。
「少しぬるっとした感じ」から「まるでイチゴジャムのような見た目」まで程度はさまざまで、原因によって色・量・性状も異なります。
粘血便の主な原因疾患
粘血便を来す疾患は大別すると以下のように分類できます。
感染性腸炎(大腸型)
細菌が腸管粘膜に侵入・損傷を起こす「大腸型腸炎」では、少量頻回の粘血便が特徴的です。主な起因菌は以下の通りです。
- 腸管出血性大腸菌(O157など):溶血性尿毒症症候群(HUS)移行のリスクがあり、小児・高齢者では特に注意が必要です
- 細菌性赤痢(赤痢菌):渡航歴がある場合に考慮します
- カンピロバクター:ペットの鳥や加熱不十分な鶏肉が感染源となることが多い
- サルモネラ:食中毒の代表的原因菌の一つ
- アメーバ赤痢:海外渡航歴や免疫抑制状態での粘血便は念頭に置きます
亀田感染症ガイドライン(急性下痢症 外来編)では、38.5℃以上の高熱・頻回の粘血便・腸炎危険地域への渡航歴のある症例では便培養の適応があるとされています。
炎症性腸疾患(IBD)
潰瘍性大腸炎は大腸粘膜にびまん性の潰瘍が生じ、粘血便・腹痛・しぶり腹(残便感)が主症状です。20〜30代と60〜70代に発症のピークがあり、症状が繰り返し出現する慢性疾患です。
クローン病は小腸から大腸まで消化管のさまざまな部位に斑状の潰瘍が生じます。大腸病変が優位な症例では血便・下痢が認められます。
日本消化器病学会の炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第二版)では、慢性の粘血便・腹痛・体重減少を認める場合に大腸内視鏡検査による組織確認が推奨されています。
大腸がん
大腸がんは日本人のがん罹患数で男女ともに上位の疾患です(国立がん研究センター 最新がん統計)。初期は無症状のことが多く、血便・粘血便・便通異常が出現した段階では進行していることもあります。特に50歳以上や大腸がん家族歴のある方では、粘血便が続く場合に大腸カメラによる精査が必要です。
虚血性腸炎
動脈硬化や便秘を背景に大腸への血流が一時的に低下し、粘膜が障害される疾患です。比較的高齢の方に多く、突然の左下腹部痛とその後の鮮血〜粘血便が特徴的な経過です。軽症例は絶食・補液で改善しますが、壊死・穿孔に至る重症例では外科治療が必要です。
その他
- 大腸ポリープ:若年者でも出血するポリープが存在することがあります
- 薬剤性:NSAIDs・抗菌薬・抗がん剤などによる腸炎でも粘血便が生じることがあります
- 偽膜性腸炎:抗菌薬使用後のClostridium difficile感染症を考慮します
「痔だろう」と判断してはいけない理由
肛門付近の出血(痔核・裂肛など)では、便の表面や拭いたときにティッシュに血が付く程度の鮮紅色出血が典型的で、通常は粘液を伴いません。
一方、粘液を伴う血便の場合、出血源が大腸内部である可能性が高く、痔との鑑別が重要です。「以前から痔があるから」という理由で受診を先延ばしにするうちに、大腸がんや潰瘍性大腸炎の診断が遅れるケースがあります。
緊急受診が必要な状態
以下のいずれかに該当する場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 大量出血(便器が赤く染まる・めまい・失神)
- 激しい腹痛を伴う粘血便
- 38.5℃以上の発熱を伴う頻回の下痢
- 急速に増悪する症状(1〜2時間単位で悪化)
- 意識が朦朧とする・脈が速い・顔色が悪い
腸管出血性大腸菌感染症(O157など)では、抗菌薬投与がHUS発症リスクを高める可能性があるとする報告もあるため、自己判断での抗菌薬服用は避け、医療機関での診断を受けることが重要です。
内科受診の目安
以下に該当する場合は、数日以内に内科を受診することが推奨されます。
- 粘血便が2〜3日以上続いている
- 繰り返し出現する
- 体重減少・食欲低下・腹部不快感を伴っている
- 大腸がん検診の便潜血が陽性だった
- 50歳以上で一度も大腸カメラを受けたことがない
受診時の検査と診断の流れ
内科受診では、問診(症状の経過・発熱の有無・渡航歴・薬剤使用歴・家族歴など)をもとに、以下の検査が検討されます。
血液検査では炎症反応(CRP・白血球数)・貧血の有無を確認します。便培養は大腸型腸炎の疑いがある場合に適応があります。腹部超音波検査は腸管壁の肥厚・炎症像の簡易確認に有用です。確定診断が必要な場合や出血源の同定には大腸内視鏡検査が推奨されます。
まとめ
- 粘血便は「粘液+血液が混じった便」であり、感染性腸炎・炎症性腸疾患・大腸がん・虚血性腸炎など多彩な疾患が原因となる
- 「痔だから大丈夫」と自己判断せず、症状が2〜3日以上続く・繰り返す場合は内科を受診する
- 激しい腹痛・高熱・大量出血を伴う場合は緊急受診が必要
- 診断の確定には大腸カメラが有用であり、50歳以上や家族歴のある方は定期的な検診が推奨される
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参考文献
[1] 日本消化器病学会. 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020(改訂第二版). https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/ibd2020.pdf
[2] 亀田感染症ガイドライン. 急性下痢症(外来編)2018年11月最終更新. https://medical.kameda.com/general/medical/assets/12.pdf
[3] 国立がん研究センター. 最新がん統計(大腸がん). https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
[4] 日本消化管学会. 大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン 2017. https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/daityoukeiHI.pdf
[5] Hassam Z, et al. Amebiasis. StatPearls. National Library of Medicine. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK519535/
[6] 日本消化器病学会. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020. https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/Syo2020.pdf
