南半球のインフルエンザはどうやって日本にやってくるのか?
毎年冬になると日本で流行するインフルエンザ。
「今年の流行株はどんなタイプか?」と耳にすることもありますが、その答えは実は南半球の流行と密接につながっています。日本の流行は、数か月前に南半球で猛威をふるったウイルス株がもとになっていることが少なくないのです。
では、オーストラリアや南米で流行したウイルスが、どんな経路で日本に入ってくるのでしょうか。
インフルエンザは世界をめぐる「旅人」
インフルエンザウイルスは、地球規模で絶え間なく循環しています。
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日本(北半球の温帯地域):毎年12月から3月にかけて大流行
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南半球(オーストラリア、ニュージーランド、南米など):6〜8月が流行シーズン
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熱帯・亜熱帯地域(東南アジア、南アジア、中南米の一部など):年間を通じて小規模な流行が持続
まるでリレー競走のように、ある地域の流行が次の地域へとバトンを渡しながら、世界を一周しているイメージです。
南半球から日本へ:2つのルート
1. 直行ルート
南半球で流行した株が、旅行者や出張者によってそのまま日本に持ち込まれるケースです。
オーストラリアや南米と日本を結ぶ直行便や短時間の乗継便があり、こうしたルートでのウイルスの移動は十分考えられます。
ただし、渡航者の絶対数は限られているため、日本全体の大流行を引き起こす“主役”になることは少ないとされています。
2. 東南アジア経由ルート
こちらが研究的にも有力とされるルートです。
南半球で流行したウイルス株は、まず東南アジアなどの熱帯地域に入り込み、そこで小規模に循環しながら変異を続けます。そして冬を迎える北半球に向かって広がっていき、日本の冬の大流行に結びつきます。
実際、遺伝子解析を用いた研究では「東南アジアから温帯地域への輸出」が繰り返し確認されており、国際線の航空便ネットワークとも一致しています。
なぜ東南アジアが中継地点になるのか?
東南アジアはインフルエンザの「ハブ空港」のような存在です。
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人口密度が高い:大都市圏に人が集中し、流行が途切れにくい
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気候が温暖で流行が持続:雨季・乾季に応じて小さなピークを繰り返し、一年中ウイルスが生き残れる
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国際的な移動の中心地:観光客やビジネス渡航者が多く、南北をつなぐトランジットが集中する
そのため「南半球で流行した株 → 東南アジアで持続・変異 → 北半球に拡散」という流れが、インフルエンザの典型的なルートになっています。
日本に入ってきた後の広がり方
日本では、沖縄など一部地域で夏場にインフルエンザが流行することがあります。これは、東南アジアから比較的早く流入したウイルスが原因と考えられています。
その後、気温が下がる秋から冬にかけて、全国で一気に感染が拡大。例年1月から2月が流行のピークになります。つまり、日本の冬の大流行は、南半球・東南アジアを経て運ばれてきた株が本格的に広がった結果なのです。
歴史的な視点:世界的大流行の例
1918年の「スペインかぜ」や2009年の「新型インフルエンザ(H1N1)」など、歴史的大流行の際にも、人の移動ルートが大きく関与しました。特に航空ネットワークが整備された現代では、数週間のうちに新しい株が世界各地に拡散することが可能です。
日本も例外ではなく、海外からの渡航者を通じて新しい株が持ち込まれるリスクは常に存在しています。
まとめ:南半球から日本への道筋
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南半球の流行株は、数か月遅れて日本の冬の流行に反映される
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直接持ち込まれるケースもあるが、東南アジア経由ルートが主流
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東南アジアは「ウイルスの温床」と「国際的な中継地」の両方の役割を果たしている
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日本では沖縄などで夏流行が見られ、その後全国で冬に大流行へとつながる
インフルエンザは、まさに地球規模で旅を続けるウイルス。私たちがワクチンや予防策を整える背景には、この国際的なウイルスの動きがあるのです。
参考文献(エビデンス)
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Bedford T, et al. “Global circulation patterns of seasonal influenza viruses vary with antigenic drift.” Nature. 2008.
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Bedford T, et al. “The global circulation of seasonal influenza A (H3N2) viruses.” Science. 2015.
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Qiu W, et al. “Tropical Asia as a persistent source for influenza A/H3N2 virus.” Nat Commun. 2023.
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Sugawara T, et al. “Epidemiology of influenza in Okinawa, Japan.” Infect Dis Now. 2020.
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