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マダニとSFTS(重症熱性血小板減少症候群)について総説

マダニとSFTS(重症熱性血小板減少症候群)について総説

[2025.10.23]

マダニは草むらや藪などに生息する吸血性のダニで、人や動物の血を吸う際に病原体を媒介することがあります。家庭内のダニとは種類が異なり、屋外での活動を通じて人が刺咬されるケースが増加しています。特に近年は、マダニが媒介する感染症として「日本紅斑熱」と「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」が問題となっています。


1. マダニの生態と感染リスク

マダニは春から秋にかけて活動が盛んになり、森林や草地、畑の周辺などに多く見られます。吸血の際に皮膚に強く噛みつき、数日間にわたって血を吸い続けます。その過程で、体内に保有する細菌やウイルスが人へと感染することがあります。

日本国内では、特に西日本を中心にマダニ媒介感染症の報告が続いていましたが、近年は北海道や関東など東日本でも発生例が増加しています。気候変動による生息域の拡大、野生動物やペットを介した移動が一因と考えられています。


2. マダニが媒介する主な感染症

(1)日本紅斑熱

原因はリケッチア・ジャポニカ(Rickettsia japonica)というリケッチア属の細菌です。感染後2〜8日で発症し、高熱、頭痛、全身倦怠感に加え、特徴的な「刺し口」と「発疹」が出現します。発疹は体幹から四肢に広がり、手のひらや足の裏にまで及ぶことがあります。

治療にはテトラサイクリン系抗菌薬(主にドキシサイクリン)が有効で、早期治療により予後は良好です。ワクチンは存在しません。

(2)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

SFTSはSFTSウイルス(バンダウイルス科)による感染症です。潜伏期間は6〜14日で、38℃以上の発熱、嘔気・下痢・腹痛などの消化器症状、頭痛、倦怠感などで発症します。血液検査では白血球と血小板の減少、肝酵素の上昇がみられるのが特徴です。

致死率は約30%と高く、高齢者や基礎疾患のある人では重症化リスクが高まります。現時点で特効薬やワクチンはなく、主に支持療法が行われています。重症例では抗ウイルス薬(ファビピラビルなど)が検討される場合もあります。


3. 最近の国内動向(2025年時点)

2025年は全国的にSFTSの報告数が増加しており、8月時点で135例に達しました。これは2024年を上回るペースで、静岡県、京都府、熊本県など、従来少なかった地域でも感染例が報告されています。

また、東京都では犬におけるSFTS感染が確認されており、ペットを介した感染リスクが現実的な問題として注目されています。

このように、SFTSは「西日本中心の感染症」から「全国的な感染症」へと変化しつつあります。


4. 感染経路とペットを介した感染

マダニからの直接感染が主経路ですが、動物の血液や体液を介して人に感染した例もあります。特に猫・犬などのペットがマダニに刺されて感染し、その動物の体液との接触を通じて人が発症する事例が報告されています。

ペットを屋外に連れ出す場合は、動物用のマダニ予防薬を使用し、帰宅後に毛や皮膚を丁寧にチェックすることが重要です。


5. 予防と対策

厚生労働省などが推奨する予防策は次の通りです。

  • 草むらや藪に入る際は、長袖・長ズボンを着用し、裾を靴下や長靴の中に入れる
  • 肌の露出を避け、帽子や手袋を着用する
  • 虫よけスプレー(ディートやイカリジン含有)を使用する
  • 帰宅後は入浴・シャワーを行い、全身(特に脇、足の付け根、膝裏、髪の毛の中など)を確認する
  • ペットにもマダニ予防薬を使用し、草むらを避ける

もしマダニに刺されているのを見つけた場合、自分で無理に取り除くと口器が皮膚内に残り、感染リスクが高まります。医療機関で安全に除去を依頼してください。


6. 早期発見のポイント

マダニ刺咬後、数日〜2週間以内に以下の症状が出た場合は、すぐに受診が必要です。

  • 38℃以上の発熱
  • 頭痛、倦怠感
  • 吐き気、下痢、腹痛などの消化器症状
  • 発疹や刺し口の発赤
  • 出血傾向、神経症状

これらはSFTSや日本紅斑熱の初期症状と一致することが多く、早期に抗菌薬や支持療法を開始することで重症化を防げる場合があります。


7. まとめ

マダニによる感染症は、国内で確実に増加傾向にあります。特にSFTSは致死率が高く、ペットや野生動物を介した感染も問題視されています。

「山に入らないから関係ない」と油断せず、日常の散歩や庭作業などでも予防策を心がけることが大切です。


参考文献(エビデンス)

  • 厚生労働省:マダニが媒介する感染症について(2025年改訂版)
  • 国立感染症研究所:感染症発生動向調査 IASR Vol.46 No.7(2025年7月号)
  • 京都府感染症情報センター:SFTS・日本紅斑熱発生状況(2025年7月)
  • 東京都福祉保健局:犬におけるSFTS感染確認について(2025年10月)
  • 鹿児島県感染症対策課:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(2025年)

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