若い方の「口が渇く・トイレが近い」は糖尿病のサインかもしれません|内科医が解説
「最近やたら喉が渇く」「トイレの回数が増えた気がする」
20〜40代の方がこうした症状で受診されることがあります。多くの場合、水分の摂りすぎや季節的なものと思い込んでいますが、実は糖尿病が隠れていることがあります。
糖尿病は中高年の病気というイメージがありますが、若年での発症は珍しくありません。特に口渇と多尿が同時に出現している場合は、早めに血液検査を受けることが推奨されます。
この記事では、若い方の口渇・多尿を主訴とした糖尿病の診断について、日本糖尿病学会の診断基準に基づいて解説します。
なぜ口が渇いて、トイレが近くなるのか
糖尿病では、血液中のブドウ糖(血糖)が異常に高い状態が続きます。
血糖値が一定の濃度を超えると、腎臓で処理しきれなくなったブドウ糖が尿中に漏れ出します(尿糖)。尿に糖が出ると浸透圧の関係で水分も一緒に引き込まれ、尿量が増加します(浸透圧利尿)。
体内の水分が失われるため、強い口渇感が出現します。その結果、水分を大量に摂取するようになりますが、根本的な高血糖が改善されない限り多尿は続きます。
この「高血糖→尿糖→多尿→口渇→多飲」の悪循環が、糖尿病の典型的な初期症状です。
糖尿病の診断基準(糖尿病診療ガイドライン2024)
日本糖尿病学会が2024年5月に改訂した「糖尿病診療ガイドライン2024」に基づく診断基準は以下の通りです。
糖尿病型と判定される血糖値の基準(いずれか1つ):
- 空腹時血糖値 126 mg/dL以上
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値 200 mg/dL以上
- 随時血糖値 200 mg/dL以上
- HbA1c 6.5%以上(NGSP値)
口渇・多尿・体重減少といった典型症状がある場合、血糖値が糖尿病型であれば1回の検査で糖尿病と診断可能とされています。
つまり、「喉が渇いてトイレが近い」という症状で受診した方の随時血糖が200 mg/dL以上であれば、その場で糖尿病と診断されることがあります。
若い方で糖尿病が見逃されやすい理由
若年層で糖尿病が見逃されやすい背景には、いくつかの構造的な問題があります。
健診受診率の低さが挙げられます。20〜30代、特に自営業者や非正規雇用の方は健診受診率が2〜4割程度にとどまるとされています(厚生労働省 国民健康栄養調査)。無症状のうちに発見される機会が少ないのが実情です。
40歳代男性の治療受診率が他年代より低いことも報告されています。健診で指摘を受けても、仕事の多忙さや自覚症状の乏しさから受診しない方が一定数存在します。
日本人の特性として、欧米人に比べてインスリン分泌能が低いことが知られています。そのため、軽度の肥満であっても糖尿病を発症するリスクがあります。「太っていないから糖尿病にはならない」という思い込みは危険です。
注意すべき急性発症パターン
若年者の口渇・多尿で特に注意すべきなのが、急性発症のパターンです。
HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖値を反映する指標です。そのため、発症から数週間以内の急激な高血糖では、HbA1cが正常あるいは軽度上昇にとどまることがあります。
「HbA1cが正常だから糖尿病ではない」という判断は、急性発症型では誤りとなる場合があります。随時血糖値との組み合わせが重要です。
清涼飲料水ケトーシス(ペットボトル症候群)
若年男性に多いパターンとして、清涼飲料水の大量摂取による高血糖があります。
口が渇くためにスポーツドリンクやジュースを大量に飲む。しかしこれらの飲料には糖分が含まれているため、さらに血糖値が上昇して口渇が悪化する。この悪循環がケトーシス(体内に有害なケトン体が蓄積する状態)にまで進行することがあります。
清涼飲料水ケトーシスの場合、補液とインスリン投与で比較的早期に改善するケースが多いとされています。ただし、もともと2型糖尿病の素因を持っている方が多く、その後の生活指導と定期的な経過観察が必要です。
1型糖尿病の可能性も考慮する
若年者で新規に糖尿病と診断された場合、2型糖尿病だけでなく1型糖尿病の可能性を検討することが推奨されています。
1型糖尿病は、免疫の異常によって膵臓のインスリンを作る細胞が破壊される疾患です。急性発症型と緩徐進行型(SPIDDM)があり、SPIDDMは初期に2型糖尿病と臨床像が酷似するため、GAD抗体(膵島関連自己抗体)の測定なしには鑑別が困難とされています。
日本糖尿病学会のSPIDDM診断基準(2023年改訂)では、膵島関連自己抗体の陽性が診断の必須条件とされています。新規糖尿病診断時には、2型に見えるケースでもGAD抗体の測定を考慮すべきとする見解があります。
また、劇症1型糖尿病は発症から1週間前後でケトアシドーシスに陥る非常に緊急性の高い病態です。発熱や腹痛といった前駆症状を伴うことが多く、血糖値が著明に高いのにHbA1cが比較的低い(8.7%未満)という特徴があります。
口渇・多尿の鑑別――糖尿病以外の原因
口渇と多尿を引き起こす疾患は糖尿病だけではありません。
中枢性尿崩症は、脳下垂体から分泌される抗利尿ホルモン(ADH)の分泌低下により、腎臓で水分を再吸収できなくなる疾患です。突然発症し、冷水を好む傾向があり、昼夜を問わず大量の尿が出ます(1日10リットル以上になることもあります)。
心因性多飲は、精神的な要因で水分を過剰に摂取する状態です。日中の多飲・多尿が主体で、夜間は正常化する傾向があります。
高カルシウム血症も口渇・多尿の原因となります。悪性腫瘍や副甲状腺機能亢進症などが背景にある場合があります。
鑑別には尿検査(尿糖、尿比重、尿浸透圧)と血液検査(血糖値、HbA1c、血清ナトリウム)が有用です。
まとめ
口渇・多尿が持続する場合、特に若年の方であっても糖尿病を含む内科的疾患を疑う必要があります。
日本糖尿病学会の診断基準では、典型的な症状がある場合は1回の血糖検査で糖尿病と診断できるとされています。HbA1cだけでは急性発症型を見逃す可能性があり、随時血糖値と組み合わせた評価が重要です。
清涼飲料水の大量摂取による高血糖(ペットボトル症候群)は若年男性に多いパターンで、早期の対応で改善が期待できます。一方、1型糖尿病(急性発症型、劇症型、緩徐進行型)との鑑別も重要であり、新規診断時にはGAD抗体の測定を考慮することが推奨されています。
「若いから糖尿病にはならない」ということはありません。口渇や多尿が気になる場合は、まず血液検査を受けることをおすすめします。
参考文献
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」
- 日本糖尿病学会「SPIDDM(緩徐進行1型糖尿病)の診断基準(2023年)」
- 日本糖尿病学会「劇症1型糖尿病の診断基準(2012年)」
- 糖尿病標準診療マニュアル2025(一般社団法人日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会)
- 厚生労働省「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」糖尿病
- NEJM 2021「若年発症2型糖尿病における長期合併症」
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