院長ブログ |

「急に太った、内分泌の検査をしてほしい」と来られた方へ——まず疑うこと・考えられる病気・検査の限界を内科医が解説

最近、「急に太ったので、何かホルモンの病気ではないか。内分泌の検査をしてほしい」というご相談が増えています。スマートフォンやAIで調べてから来られる方も多く、自分の体を気にかけて調べる姿勢は、とても良いことだと思います。そのうえで、体重増加と内分泌検査について、少し整理してお伝えします。

まず疑うのは「食べ過ぎ・運動不足」——多くはエネルギーバランス

身もふたもない話に聞こえるかもしれませんが、体重が増える原因の大多数は、摂取するエネルギー(食事)が、消費するエネルギー(活動や基礎代謝)を上回っていることです。生活の変化、間食や飲酒の増加、運動量の減少、睡眠不足、ストレス、加齢による代謝の低下、禁煙のあとなど、心当たりが重なっていることがよくあります。内分泌(ホルモン)の病気による体重増加は、実際には全体のごく一部です。まずはここを一緒に見直すことが出発点になります。

それでも考える内分泌・代謝の病気

もちろん、体重増加の背景に病気が隠れていることもあります。代表的なものを挙げます。

  • 甲状腺機能低下症:代謝が落ちて、むくみや倦怠感、寒がり、便秘などを伴います。ただし、この病気での体重増加は数kg程度のことが多く、その多くはむくみです。血液検査(TSHなど)で比較的調べやすい病気です。
  • クッシング症候群:副腎のホルモン(コルチゾール)が過剰になる病気で、顔や体幹を中心に太る、顔が丸くなる、赤紫色の皮膚の線(線条)、あざができやすい、高血圧や高血糖などの特徴があります。まれな病気です。
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS):若い女性で、月経不順や多毛、にきびなどを伴うことがあります。
  • 薬剤性:ステロイドや一部の精神科の薬など、体重が増えやすい薬もあります。

このほか、睡眠時無呼吸、うつ状態、更年期なども体重に影響します。大事なのは、「ありうる病気」と「実際に多い原因」「今すぐ検査が必要な状況」は別だ、ということです。

内分泌検査は「自由に全部」受けられるわけではない

「とりあえずホルモンを全部調べてほしい」というご希望もよくいただきます。お気持ちはわかるのですが、いくつかの理由から、誰でも自由に網羅的なホルモン検査を受けられるわけではありません。

保険診療の考え方

日本の保険診療では、検査は「症状や所見があって、その病気を疑う理由があるとき」に適応になります。これといった症状や手がかりがないのに、念のためホルモンを一通り、というのは保険の対象になりにくく、医学的にも推奨されません。医師は、お話と診察から「調べる意味のある検査」を選びます。

検査手技の問題

ホルモンは、そもそも測りにくい性質があります。たとえばコルチゾールは1日の中で大きく変動し(朝に高く夜に低い)、ストレスや採血の時間でも値が変わります。多くのホルモンは、1回の採血で「異常あり・なし」を断定できず、時間を決めた採血、複数回の測定、負荷試験(薬を使って反応をみる検査)、24時間の尿をためる検査など、手間のかかる専門的な方法が必要になります。「1回の血液検査で内分泌を全部チェック」とはいかないのです。

やみくもな検査の落とし穴(事前確率)

病気の可能性が低い人にたくさんの検査をすると、本当は病気でないのに「異常な値」が出てしまう(偽陽性)ことが増えます。すると、必要のない追加検査や不安、費用が連鎖していきます。検査は多ければよいわけではなく、必要なものを必要なときに、が原則です。

現実的な進め方

当院では、まずお話(いつから、どれくらい増えたか、生活や薬の変化、ほかの症状)と診察、必要に応じた基本的な検査(血圧、血糖やHbA1c、脂質、状況によって甲状腺の検査など)から始めます。そのうえで、病気を強く疑う手がかり(たとえば中心性の肥満に皮膚の線条や高血圧が重なるなど)があれば、専門的な検査や専門医への紹介を検討します。多くの場合は、生活習慣の見直しが本筋になります。

AIで調べて来られることについて

AIやインターネットで調べてから受診されること自体は、まったく悪いことではありません。むしろ関心を持つことは大切です。ただ、AIは「ありうる病気」を幅広く挙げる傾向があり、それが「自分に当てはまる」「すぐ検査が必要」とは限りません。可能性の広さと、実際の確からしさ・検査の必要性は、別物です。そこを一緒に整理するのが、私たちの役割だと思っています。気になることは、調べた内容も含めて、遠慮なくご相談ください。

まとめ

急な体重増加の多くは、エネルギーの摂りすぎや生活の変化が原因です。内分泌の病気が隠れていることもありますが、それは一部で、ホルモン検査は手技や保険の面から、自由に網羅的に受けられるものではありません。だからこそ、お話と診察から必要な検査を選ぶことが大切です。「太った=ホルモン検査」と急がず、まずは一緒に原因を整理させてください。

参考文献

  • 日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン」
  • 内分泌・代謝学の標準的テキスト、各疾患の診療ガイドライン

ひろつ内科クリニック受診予約はこちらから
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08874

ページ上部へ戻る