2026年春、溶連菌感染症(扁桃炎)が増えている?内科の現場から見た流行の実感と注意点
外来で溶連菌の扁桃炎が目立っています
2026年4月に入り、当院の外来でA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)による扁桃炎の患者さんが増えている実感があります。
「喉が痛くて熱が出た」という受診で迅速検査をすると陽性——こうしたケースが週に何件も出ています。子どもの病気というイメージが強い溶連菌ですが、大人でも普通にかかります。今回は、現場で感じている流行の傾向と、溶連菌感染症について改めて整理します。
溶連菌感染症とは
A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus:GAS)は、主に咽頭・扁桃に感染し、急性咽頭炎・扁桃炎を引き起こす細菌です。
飛沫感染と接触感染で広がり、潜伏期は2〜5日。通年性ですが、春と冬に流行のピークがあることが知られています。
主な症状
- 突然の喉の痛み(飲み込むときに強い)
- 38〜39℃台の発熱
- 扁桃の発赤・腫大、白い膿栓(白苔)がつくことも
- 前頸部リンパ節の腫脹・圧痛
- 咳・鼻水がない(ウイルス性の風邪と区別するポイント)
このほか、舌がイチゴのようにブツブツになる「イチゴ舌」や、細かい紅斑(猩紅熱)を伴うこともあります。
今年の流行——現場の肌感覚
統計的な全国データとは別に、当院の外来で感じている傾向をお伝えします。
- 成人の溶連菌扁桃炎が目立つ。20〜40代の受診が多い
- 「子どもが先に溶連菌と診断された→数日後に親が同じ症状」という家族内感染のパターン
- 「喉が痛いけど咳は出ない、熱が急に出た」という典型的な病歴の方が多い
- 市販の風邪薬で様子を見ていたが良くならず受診→迅速検査で陽性、というケースも
コロナ禍以降、感染症の流行パターンが変化していると言われています。溶連菌も例外ではなく、従来のピーク時期がずれたり、規模が大きくなったりする傾向が指摘されています。
Centor基準——「溶連菌っぽさ」のスコア
咽頭痛の患者さんに対して、溶連菌感染の可能性を推定するための臨床スコアがあります。
- ①発熱 38℃以上(+1点)
- ②咳がない(+1点)
- ③前頸部リンパ節の腫脹・圧痛(+1点)
- ④扁桃の腫脹・滲出物(白苔)(+1点)
- ⑤年齢 15歳未満(+1点)/45歳以上(-1点)
修正Centor基準(McIsaac基準)で3点以上なら迅速検査を行い、2点以下でも症状が強ければ検査を検討します。0〜1点の場合はウイルス性の可能性が高く、抗菌薬は不要です。
迅速検査の注意点
溶連菌の診断には咽頭の迅速抗原検査が広く使われています。綿棒で扁桃をこすり、5〜10分で結果が出ます。
感度と特異度
- 特異度:95%以上(陽性ならほぼ溶連菌)
- 感度:70〜90%(偽陰性がある)
つまり、「陽性→信頼できる」「陰性→完全には否定できない」という特性を理解しておく必要があります。
偽陰性を減らすために
- 綿棒でしっかり扁桃をこする(軽くなぞるだけでは菌を十分に採取できない)
- 臨床的に溶連菌を強く疑う場合は、迅速検査が陰性でも咽頭培養を提出する
- 発症直後すぎると抗原量が不十分な場合がある
なぜ抗菌薬治療が重要なのか
溶連菌による咽頭炎は、実は抗菌薬なしでも多くの場合は自然に症状が改善します。しかし、抗菌薬治療が強く推奨される理由があります。
1. 合併症の予防
- 急性リウマチ熱:溶連菌感染後2〜4週で発症。心臓弁膜症に進行するリスク。先進国では稀になったが、治療しなければゼロではない
- 溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN):感染後1〜3週で血尿・蛋白尿・浮腫。抗菌薬で予防できるかは議論があるが、感染コントロールの意義はある
- 扁桃周囲膿瘍:扁桃の周囲に膿が溜まり、口が開けられなくなる。穿刺排膿や入院が必要になる
2. 症状の早期改善
適切な抗菌薬を投与すると、発熱・咽頭痛が約24〜48時間で改善します。無治療だと改善まで5〜7日かかることも。
3. 周囲への感染拡大防止
抗菌薬開始から24時間で感染力が大幅に低下します。学校・職場での集団感染防止のためにも早期治療が有効です。
治療——抗菌薬の選択と期間
第一選択
- アモキシシリン(サワシリン等):10日間
- ペニシリンアレルギーがある場合:第一世代セフェム(セファレキシン等)、またはアジスロマイシン5日間
なぜ10日間も飲むのか
溶連菌の抗菌薬治療で最も重要なのは内服期間を守ることです。
- 症状は2〜3日で改善しますが、扁桃に残存する菌を完全に除菌するには10日間必要
- 途中で中止すると、菌の残存→再発→合併症のリスクが高まる
- 「もう元気だから」と自己判断で中止する方が多いのが課題
治療後の注意
- 抗菌薬開始後48〜72時間で改善がなければ、診断の見直しや合併症の検索を
- 全身状態が悪い、口が開けにくい、片側だけ腫れているなどの場合は扁桃周囲膿瘍を疑う
- 治療後2〜3週間に血尿やむくみが出た場合は腎炎の可能性→尿検査が必要
ウイルス性咽頭炎との見分け方
喉が痛いからといってすべてが溶連菌ではありません。以下はウイルス性を示唆する所見です。
- 咳・鼻水・鼻づまり・くしゃみがある
- 結膜充血がある
- 声がかれている(喉頭の炎症)
- 口の中に小さな水疱がある(ヘルパンギーナ・手足口病)
- 下痢を伴う
これらの症状が目立つ場合はウイルス性の可能性が高く、抗菌薬は不要です。不要な抗菌薬使用は耐性菌の問題につながるため、適切な鑑別が大切です。
家庭でできる対策
- 手洗い・うがいの徹底:飛沫・接触感染の予防に最も有効
- 家族内感染に注意:同居家族に咽頭痛+発熱が出たら受診を
- コップやタオルの共有を避ける
- 発症者は抗菌薬開始後24時間は自宅安静(学校・職場への復帰目安)
- 処方された抗菌薬は最後まで飲みきる——これが最重要メッセージ
受診の目安
- 喉の痛みと38℃以上の発熱が急に出た
- 咳・鼻水がないのに喉だけ痛い
- 子どもが溶連菌と診断されたあと、自分にも同じ症状が出た
- 市販薬で3日以上改善しない
- 口が開けにくい、片方だけ喉が腫れている(膿瘍の疑い→緊急)
まとめ
2026年春、溶連菌による扁桃炎が当院でも増加傾向にあります。溶連菌感染症は適切な抗菌薬治療で速やかに改善し、合併症も予防できる病気です。
- 急な喉の痛み+発熱、咳なし→溶連菌を疑う
- 迅速検査陽性→抗菌薬(アモキシシリン)10日間を必ず飲みきる
- 家族内感染に注意、同じ症状が出たら受診を
- 治療後に血尿やむくみが出たら腎炎の可能性→再受診
「ただの喉風邪」と放置せず、咳がなく喉だけ痛い場合は一度検査を受けていただければと思います。