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眠剤・抗不安薬はなぜ精神科・心療内科での処方が推奨されるのか|内科医が解説

「眠れない」を内科で相談すること自体は、おかしくない

不眠や不安を感じたとき、まずかかりつけの内科に相談する方は多いと思います。

実際、内科でも睡眠薬や抗不安薬を処方すること自体は可能です。法律上の制限はありません。

ただし、これらの薬には「なぜ精神科・心療内科での処方が推奨されるのか」という明確な理由があります。

この記事では、内科医の立場からその理由を丁寧に解説します。

睡眠薬・抗不安薬の多くは「向精神薬」に分類される

睡眠薬や抗不安薬として広く使われてきたベンゾジアゼピン系薬剤(デパス、マイスリー、レンドルミン、ハルシオンなど)は、法律上「向精神薬」に分類されます。

向精神薬は脳の中枢神経に直接作用する薬であり、以下のような特性を持っています。

  • 治療用量(通常の処方量)でも、長期連用により身体依存が形成されることがある
  • 急な中止により、不安の増悪・不眠の悪化・けいれん・せん妄などの離脱症状が出現することがある
  • 高齢者では転倒・骨折・認知機能低下のリスク因子となることが報告されている

厚生労働省もPMDA(医薬品医療機器総合機構)を通じて「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存」に関する重篤副作用対応マニュアルを公表しており、依存形成リスクは公的に認知されています。

「不眠の原因」は睡眠薬だけでは解決しない

不眠を訴える患者さんの背景には、さまざまな疾患が隠れていることがあります。

  • うつ病・双極性障害
  • 不安障害・パニック障害・PTSD
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • むずむず脚症候群
  • 甲状腺機能異常などの身体疾患

精神科・心療内科では、不眠そのものだけでなく、その背景にある原因疾患を評価・診断する専門的なトレーニングを受けています。原因疾患の治療が優先されるケースでは、睡眠薬を出すだけでは根本的な解決にならないことがあります。

診療報酬上のルール:長期処方にはペナルティがある

厚生労働省は2018年度の診療報酬改定で、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の漫然とした長期処方に対する減算規定を導入しました。

具体的には、不安または不眠の症状に対してベンゾジアゼピン受容体作動薬を1年以上、同一成分・同一用量で連続処方した場合、処方料・処方箋料が減算されます。

この減算が免除されるのは、以下のいずれかを満たす場合です。

  • 不安・不眠に関する適切な研修を修了した医師が処方している
  • 精神科の医師から直近1年以内に助言を受けた上で処方している

つまり、制度として「内科医が長期的にベンゾジアゼピンを出し続けるなら、精神科との連携か専門研修が必要」という設計になっています。

さらに、向精神薬の多剤処方(睡眠薬+抗不安薬で合計4種類以上など)に該当する場合は、処方料が50%に減算され、四半期ごとの報告義務も課されます。

ガイドラインが推奨する不眠症治療の第一選択

日本睡眠学会の「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」では、不眠症の薬物療法として以下が推奨されています。

  • オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ、ベルソムラ):覚醒を促すオレキシンをブロックして自然な眠りを促す。依存性が低いとされる
  • メラトニン受容体作動薬(ロゼレム):体内時計に作用し、睡眠リズムを整える。依存性の報告は少ない

従来のベンゾジアゼピン系薬剤は、メタ解析においてリスク・ベネフィット比が不利と評価されており、特に高齢者では慎重な使用が求められています。

また、薬物療法だけでなくCBT-I(不眠症の認知行動療法)の併用が推奨されており、メタ解析では薬物療法単独に比べて睡眠薬の中止成功率が有意に向上することが報告されています。2024年にはサスメド社のCBT-Iアプリが保険適用のプログラム医療機器として承認され、治療選択肢が広がっています。

精神科・心療内科が持つ「減薬」の専門性

睡眠薬や抗不安薬は、始めるよりもやめるほうが難しい薬です。

精神科医は以下のような減薬管理に精通しています。

  • 漸減法:1〜2週間ごとに10〜25%ずつ慎重に減量する
  • 置換法:半減期の短い薬から長い薬に切り替えてから漸減する
  • 離脱症状への対処:一時的な増量や代替薬への変更で症状をコントロールする
  • CBT-Iの併用:睡眠衛生指導・刺激制御法・睡眠制限法などを組み合わせて、薬に頼らない睡眠の再構築を支援する

内科医の多くは、こうした漸減プロトコルの実施経験が限られているのが実情です。

内科医としてできること、すべきこと

内科に不眠で相談に来られた場合、当院では以下のように対応しています。

  • 身体疾患(甲状腺機能異常、睡眠時無呼吸症候群など)の除外
  • 生活習慣・睡眠衛生の確認と指導
  • 必要に応じて、依存性の低い薬剤(オレキシン受容体拮抗薬・メラトニン受容体作動薬)の短期処方
  • 症状が慢性化している場合や、背景にうつ・不安障害が疑われる場合は、精神科・心療内科への紹介

「内科で眠剤をもらえますか?」という質問に対しては、「処方自体は可能ですが、長期管理が必要な場合は専門科での治療をお勧めしています」というのが正直な回答です。

まとめ

  • 睡眠薬・抗不安薬の処方自体は内科でも可能だが、長期管理には専門的な知識と制度上の要件がある
  • ベンゾジアゼピン系薬剤は通常量でも依存が形成されうるため、開始・継続・減薬いずれも慎重な判断が必要
  • 厚労省は長期処方に対する減算措置を設けており、精神科との連携を事実上の要件としている
  • 不眠の背景にある原因疾患の診断・CBT-Iの導入・減薬プロトコルの実施は精神科・心療内科の専門領域
  • 内科の役割は、身体疾患の除外と適切なタイミングでの専門科紹介

参考文献

  • 厚生労働省 PMDA「重篤副作用疾患別対応マニュアル ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存」(令和4年2月改訂)
  • 日本睡眠学会「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」
  • 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」
  • 厚生労働省 令和6年度診療報酬改定 向精神薬処方に関する規定

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