人はどれくらい短い睡眠で生きていけるのか——「本物のショートスリーパー」がごくまれである理由を内科医が解説
「自分は4時間睡眠でも平気なタイプなんです」——外来でときどき伺う言葉です。短い睡眠で活躍した偉人の逸話もあり、「睡眠は削って慣れるもの」というイメージは根強くあります。
では実際のところ、人はどれくらい短い睡眠で生きていけるのでしょうか。そして「ショートスリーパー」とは何なのか。この記事では、短時間睡眠の実像を内科医の視点で整理します。
まず結論——「本物のショートスリーパー」はごくまれです
医学的な意味でのショートスリーパーとは、毎日6時間未満の睡眠でも、日中の眠気や体調不良がなく、休日に寝だめも必要としない体質の方を指します。家族性に見られることがあり、睡眠に関わる特定の遺伝子の変異を持つ家系の報告があります。
重要なのは、この体質がごくまれだということです。「自分は短くても平気」と感じている方の大多数は、体質的なショートスリーパーではなく、慢性的な睡眠不足に「慣れて」しまっている状態と考えられています。
「慣れ」の正体——眠気の感覚だけが鈍くなる
睡眠を削り続けると、不思議なことに「眠い」という自覚は次第に薄れていきます。ところが、注意力や判断力を客観的に測ると、自覚のないままパフォーマンスの低下が積み重なっていくことが、睡眠制限の実験で繰り返し示されています。6時間睡眠を2週間続けた場合の成績低下が、徹夜明けに匹敵するレベルに達したという報告もあります。
つまり「短くても平気」の多くは、平気なのではなく、低下した状態が本人の中で「普通」になっているということです。ここが短時間睡眠のいちばん怖いところだと思います。
睡眠を削り続けると何が起こるか
慢性的な短時間睡眠は、高血圧・糖尿病・肥満・心血管疾患のリスク上昇と関連することが多くの研究で報告されています(睡眠と肥満の関係は当院ブログの別記事でも解説しています)。ほかにも、免疫機能の低下、気分の落ち込み、そして居眠り運転など事故のリスクが挙げられます。
必要な睡眠時間には個人差がありますが、成人ではおおむね6〜8時間が目安とされ、国際的には7時間以上を推奨する学会もあります。「何時間がベストか」は一律に決められないものの、4〜5時間で長期間問題なく過ごせる人は、統計的に見て例外中の例外です。
自分が「本物」かどうかを見分けるチェック
次の質問に答えてみてください。
- 休日、平日より2時間以上長く寝ていないか(寝だめは睡眠負債のサインです)
- 目覚まし時計なしで、平日も自然に起きられるか
- 会議中・移動中・食後に、強い眠気に襲われることはないか
- カフェインがないと午後がもたないことはないか
- 横になって5分以内に眠りに落ちることが多くないか(寝つきが「良すぎる」のは不足のサインのことがあります)
寝だめが必要・アラームが必須・日中の眠気がある——ひとつでも当てはまるなら、あなたは体質的なショートスリーパーではなく、睡眠が足りていない可能性が高いと考えられます。
「短くても平気」の裏に病気が隠れていることも
注意していただきたいのは、短時間睡眠の背景に病気が隠れている場合です。
- いびき・睡眠中の呼吸の乱れ+日中の強い眠気——睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。睡眠時間の長さにかかわらず、睡眠の質が大きく損なわれます
- 眠ろうとしても眠れない——不眠症は「短くても平気」とは別の問題で、治療の対象になります
- 年齢とともに睡眠が短くなった——加齢による変化は自然なものですが、早朝覚醒が気分の落ち込みを伴う場合は、うつ状態のサインのことがあります
睡眠の悩みは「怠け」でも「気合の問題」でもなく、内科で相談できるテーマです。日中の眠気やいびきの指摘など、気になることがあればご相談ください。
まとめ
- 毎日6時間未満で寝だめも眠気もない「本物のショートスリーパー」は、ごくまれな体質です
- 「短くても平気」の大多数は、眠気の自覚だけが鈍った慢性的な睡眠不足です。パフォーマンス低下は自覚のないまま蓄積します
- 慢性的な短時間睡眠は、高血圧・糖尿病・肥満・心血管疾患のリスク上昇と関連します
- 寝だめ・アラーム必須・日中の眠気があれば、睡眠は足りていません
- いびきや強い日中の眠気を伴う場合は、睡眠時無呼吸など病気が隠れていることがあります。内科でご相談ください
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 米国睡眠医学会(AASM)・睡眠研究会(SRS)による成人の推奨睡眠時間に関する合意声明
- 睡眠制限と認知機能に関する実験研究の報告
- 家族性自然短時間睡眠(ショートスリーパー)の遺伝学的報告
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