重症熱性血小板減少症候群(SFTS)とは?マダニ媒介感染症の症状・診断・治療を解説【2025年診療の手引参照】
SFTSとは——マダニから感染する重篤な感染症
重症熱性血小板減少症候群(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome:SFTS)は、SFTSウイルス(SFTSV)を保有するマダニに咬まれることで発症する感染症です。
日本では2013年に初めて報告され、感染症法では四類感染症に指定されています。致死率が高く、屋外活動が盛んになる時期は特に注意が必要な病気です。
本記事は「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引 2025年版」を参照しています。
疫学と感染経路
主な感染源
- SFTSV保有マダニの吸血により人に感染
- マダニはシカ・イノシシ・アライグマなどの野生動物を吸血してウイルスを保有
- これらの動物の移動距離が広く、感染源が拡大しやすい
- イノシシ・シカの生息域では感染リスクが高い
- ヒト以外にネコ・イヌ・チーターなども発症する
- 感染動物の咬傷・体液暴露(特にネコからの感染事例が報告されている)でも感染しうる
流行時期
4〜10月に発症が多く、マダニの活動期と一致します。春から秋にかけての屋外活動で注意が必要です。
問診で聞くべきこと
SFTSを疑う際の問診ポイントは以下の通りです。
- 屋外活動の有無
- 草刈り
- 農作業
- 登山・釣り
- 動物接触(特に野外の飼い猫・野良猫との接触)
これらのエピソードと発熱・消化器症状がセットであれば、SFTSを鑑別に入れる必要があります。
症状の経過
潜伏期(6〜14日)
マダニに刺されてから発症までの期間。マダニに刺された場合は熱型を記録(検温の習慣づけ)しておくことが診断の手がかりになります。
発熱期(0〜7日)
以下の症状が出現します。
- 発熱・頭痛・倦怠感・食欲不振
- 嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状
- 所属リンパ節腫大・痂皮・刺し口(マダニ咬傷の痕)
特に「刺し口(痂皮・黒いかさぶた)」が見つかれば診断の重要な手がかりになります。体のどこに刺されたか、本人が気づいていないことも多いため全身の皮膚をくまなく確認します。
臓器不全期(発症7日目以降)
重症化するとこの時期に多臓器不全が進行します。
- ショック
- ARDS(急性呼吸窮迫症候群)
- 脳症・意識障害
- 腎障害・心障害
- 横紋筋融解
- 出血傾向
- 血球貪食症候群(HLH)——血小板著減・フェリチン著増が特徴
この時期に入ると致死率が非常に高くなるため、発熱期の早期診断・早期治療が極めて重要です。
血液検査の典型パターン
SFTSの血液検査には特徴的な所見があります。
- 白血球(WBC)低下・血小板(PLT)低下、異型リンパ球(ATL)の出現
- AST・ALT・LDHが上昇。特にAST/ALTと比較してLDHが数倍高いのが特徴的
- フェリチンが著増——500以上どころか1万を超えることも
- CRPが陰性(細菌感染との大きな違い)
- 血尿・蛋白尿を合併することがある
検査値の推移パターン
- ピークアウトの順序は WBC → フェリチン・LDH → PLT
- 凝固異常の延長は軽度にとどまる
- 経過中にCRP上昇や再発熱が見られた場合は細菌感染の二次感染に注意
SFTSを疑う決め手——CRP陰性+血球減少+肝酵素上昇
発熱+消化器症状+屋外活動歴という病歴に加えて、「CRPが上がらないのに血球が減って肝酵素・LDH・フェリチンが跳ね上がる」という血液検査パターンは、一般的な細菌感染やウイルス感染と明らかに異なります。
このミスマッチに気づけるかどうかが、SFTS診断の鍵になります。
診断——保健所経由のPCR検査
SFTSの確定診断はPCR検査で行います。
- 検体:全血(EDTA採血)・咽頭ぬぐい液・尿
- 提出先:保健所経由で地方衛生研究所へ
- 結果:提出日または翌日に結果が判明
- その他、血清での抗体検出も可能
四類感染症のため診断したら直ちに最寄りの保健所へ届出が必要です。
治療
ファビピラビル(アビガン)
- ファビピラビル(アビガン)がSFTSの治療薬として承認されています
- 薬価:1症例あたり約358万円と高額
- 使用時は尿酸値の測定が必要(副作用として高尿酸血症)
- 処方にはe-learningの受講・登録が必要(富士フイルム富山化学)
- 軽快例を除き、早期投与が推奨される
支持療法
- 解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンを使用(NSAIDsは出血リスクから避ける)
- 血小板低下時は消化管出血予防が重要
- ショック・多臓器不全時には集中治療(輸液・昇圧剤・人工呼吸管理)
感染対策
医療機関・家族内での感染拡大を防ぐため、以下の対策が必要です。
- 接触感染対策(手袋・ガウン)
- エアロゾルが発生する処置時は空気感染対策(N95マスク)
- 遺体・排泄物の取り扱いにも注意
- ネコからヒトへの感染事例があるため、SFTSが疑われるペット(特に血便・嘔吐・発熱を伴うネコ)との濃厚接触に注意
予防——マダニに咬まれないために
SFTSに特異的なワクチンや予防薬はないため、マダニ咬傷の予防が最も重要です。
- 草地・山林・農地に入る際は長袖・長ズボン・帽子・手袋
- DEETやイカリジン配合の虫除け剤を使用
- ズボンの裾を靴下に入れる
- 帰宅後はシャワーを浴びて全身をチェック(耳の後ろ・脇・股間・膝裏などマダニが好む部位)
- 衣服は高温乾燥機にかける(マダニは高温に弱い)
マダニに咬まれたら——無理に引き抜かない
- マダニは口器を皮膚に深く差し込んでおり、無理に引き抜くと口器が残って感染・炎症の原因になる
- 自分で取らず、皮膚科や外科を受診して適切に除去してもらう
- 除去後は2週間程度は発熱・体調変化に注意し、体調不良があれば「マダニに咬まれた」ことを必ず医師に伝える
受診の目安
- 屋外活動・草刈り・農作業の後に発熱と消化器症状が出た
- マダニに咬まれた後の発熱
- 野外飼育のネコ(とくに体調不良のネコ)と接触した後の発熱
- 発熱なのに普通の風邪薬で治らず、倦怠感・食欲低下が強い
このような場合は早めに医療機関を受診し、屋外活動歴・動物接触歴を必ず伝えてください。
まとめ
- SFTSはマダニ媒介のウイルス感染症で、感染症法四類
- 好発期は4〜10月、潜伏期6〜14日
- 発熱+消化器症状+屋外活動歴、そしてCRP陰性・血球減少・LDH/フェリチン著増が診断の鍵
- 治療はファビピラビル(アビガン)を早期投与(e-learning登録が必要)
- 予防はマダニに咬まれないこと——長袖長ズボン・虫除け・帰宅後のチェック
- 咬まれた場合は自己除去せず受診、2週間は発熱に注意
屋外活動が増えるこの季節、農作業や登山、ペット(特に猫)の世話のあとに原因不明の発熱と倦怠感が出た場合は、SFTSを含めた鑑別を意識していただければと思います。
※本記事は「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引 2025年版」を参照して作成しました。