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カルテから紹介状が出るまで3分──「コピペゼロ」の仕組み|内科医が解説

開業医にとって、紹介状は日常的な仕事です。

患者さんの症状を聞いて、「これはうちでは対応しきれない」と判断したら、専門の医療機関に紹介する。そのとき書くのが診療情報提供書──いわゆる紹介状です。

やることは単純に見えます。患者さんの名前、病歴、今の症状、検査結果、処方内容、紹介する理由。これらを紙にまとめて、宛先の先生に渡す。

ただ、実際に書こうとするとすごく面倒です。

カルテを開いて患者情報を確認する。SOAPを読み返す。採血データを探す。処方を確認する。それらを一つずつコピーして、紹介状のフォーマットに貼り付けて、文章として整える。宛先の病院名や先生の名前を調べて入力する。

1通あたり、どんなに手早くやっても5分。丁寧に書けば15分。それが1日に3通、4通と重なると、診療の合間がどんどん消えていきます。

「コピペゼロ」を本気で目指した

当院で作ったのは、この工程を極力なくすツールです。

仕組みはこうなっています。

まず、電子カルテ(CLINICS)のブックマークレットを押します。すると、その患者さんの名前、年齢、性別、住所、カルテ番号がツールに自動で渡されます。同時に、当日のSOAPと処方内容も読み込まれます。

次に、カルテ番号をもとにして、採血データを検査システム(PrimePartner)から自動で取得します。院内のローカルネットワーク内で完結するので、採血結果が外部に出ることはありません。

ここまでが自動。医師がやるのは、紹介先と紹介目的を入力することだけです。

宛先は過去に紹介した病院名や先生の名前がオートコンプリートで出てきます。「福岡大学」と2文字打てば候補が並びます。紹介目的も同様で、「精査加療」「セカンドオピニオン」など、よく使うフレーズが補完されます。

「生成」ボタンを押すと、AIがこれらの情報をもとに紹介状の本文を書きます。

紹介目的、主訴、既往歴、現病歴、当院での処置、現在の処方、検査結果、お願い事項。この順番で、勤務医が書くような文体で出力されます。

処方はRp表記で整形されますし、検査値は紹介目的に関連する項目を選んで具体的な数値で載せてくれます。

大事なのは「編集できる」こと

AIが書いた紹介状は、そのまま使うわけではありません。

出力された本文は、すべて編集可能な状態で表示されます。読んでみて、表現が気に入らなければ直す。情報が足りなければ追記する。不要な部分は消す。

これが絶対に必要な設計だと考えています。

AIに書かせて、医師が確認して、必要なら修正して、最終的に医師の判断で送る。「AIが自動で紹介状を送ってくれる」ではなく、「AIが下書きを作ってくれるので、医師が仕上げる」という設計です。

確認が終わったら、そのまま印刷するか、PDFかWordで保存します。紹介状を出したことは履歴データベースに自動記録されます。

3分で出る、という体感

実際に運用してみると、ブックマークレット→宛先入力→生成→確認→印刷、で3分ほどで終わります。

以前は5〜15分かかっていた作業が3分。これは単に時間が短くなっただけではなくて、「紹介状を書くか……」という心理的なハードルが消えたことが大きいです。

必要だと思ったらすぐ書ける。「あとで書こう」と思って後回しにすることがなくなりました。結果として、患者さんへの紹介提案が早くなりました。

患者データはどこに行くのか

ここは正直に書きます。

紹介状の本文をAIに生成させるとき、患者さんのSOAP、処方、検査値、基本情報をAIのAPIに送信しています。

使っているのはAWS Bedrock上のClaude(Sonnet)。AWSの東京リージョンで、ZDR(ゼロデータリテンション)が標準適用されています。つまり、送信したデータがAI側の学習に使われたり、AWSに保持されたりすることはありません。処理が終わったらデータは消えます。

3省2ガイドライン(厚労省・経産省・総務省の「AI開発ガイドライン」)で求められている安全管理措置──データの非保持、国内処理、アクセス制御──に準拠する設計にしています。

ただし、外部APIにデータを送信していること自体は事実です。そのため、生成ボタンを医師が明示的に押さない限りデータは送信されない設計にしています。カルテを開いた瞬間にAIが勝手に動く、ということはありません。

採血データについては、院内のPACS/検査システムからローカルプロキシ経由で取得しているので、外部には一切出ません。

コピペがなくなると何が変わるか

紹介状を書くのが速くなる──というのは、わかりやすい効果です。でも本質はそこではないと考えています。

コピペ作業がなくなると、医師は「何を伝えるべきか」だけに集中できます。

どの検査値を載せるか、経過をどう要約するか、紹介先に何をお願いするか。カルテの文字を拾ってペーストする作業に頭を使う必要がなくなると、臨床的な判断に意識を向けられます。

それは結局、紹介状の質が上がるということだと考えています。

まとめ

紹介状は、医師と医師をつなぐ手紙です。地味ですが、患者さんの治療を左右する大事な書類です。

それが10分かかるか3分で終わるかで、外来の風景はけっこう変わります。

  • 電子カルテからの患者情報・SOAP・処方の自動取込
  • 検査システムからの採血データ自動取得(院内完結)
  • 宛先のオートコンプリート
  • AIによる紹介状本文の下書き生成
  • 医師による最終編集→印刷/PDF/Word保存

AI構成:AWS Bedrock Claude Sonnet(ZDR・東京リージョン)、3省2ガイドライン準拠設計

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