物が二重に見えて、ふらつく——ギラン・バレーの仲間「フィッシャー症候群」を内科医が解説【シリーズ第2回】
「物が二重に見える」「まっすぐ歩けない」「まぶたが開かない」——この組み合わせで発症する、ギラン・バレー症候群の「仲間」の病気があります。フィッシャー症候群(ミラー・フィッシャー症候群)です。前回の記事(ギラン・バレー症候群の初期症状)に続き、シリーズ第2回はこの病気を取り上げます。まれな病気ですが、知っていれば「これはただの疲れ目ではない」と気づける、知識が身を守るタイプの病気です。
フィッシャー症候群の「三つぞろい」
この病気には、特徴的な3つの症状(三徴)があります。
- 外眼筋麻痺:目を動かす筋肉が麻痺し、物が二重に見える(複視)。まぶたが下がる(眼瞼下垂)ことも
- 運動失調:手足の力はあるのに、酔ったようにふらついてまっすぐ歩けない
- 腱反射の消失:診察でハンマーを使って調べる膝などの反射が出なくなる(これは診察で分かる所見です)
ギラン・バレー症候群と同じく、発症の1〜3週間前に下痢や風邪などの先行感染があることが多く、免疫が誤って自分の神経を攻撃することで起こります。ギラン・バレーが「手足の脱力」を主体とするのに対し、フィッシャー症候群は「目とバランス」から始まるのが違いです。日本人の報告が比較的多い病気としても知られています。
「急にものが二重に見える」の鑑別は時間との勝負
ここで大事なことをお伝えします。急に物が二重に見える・ふらつくという症状は、フィッシャー症候群だけでなく、脳梗塞や脳幹の病気でも起こります。つまりこの症状は、原因が何であれ「今日中に調べるべき症状」です。
- 突然(分単位)に複視・ふらつき・ろれつの回りにくさが出た→救急要請(119番)。脳卒中の可能性をまず除外します
- 数日かけて複視やふらつきが進んできた、1〜3週間前に下痢や風邪をした→フィッシャー症候群などを念頭に、その日のうちに神経内科(脳神経内科)へ
「眼科に行くべきか迷った」という方も多いのですが、複視の原因が目そのものではなく神経にある場合、最終的な行き先は神経内科になります。どちらに行くか迷う場合は、かかりつけの内科で交通整理を受けるのも一つの方法です。
診断と治療は神経内科の領域です
フィッシャー症候群の診断では、この病気に特徴的な抗GQ1b抗体という自己抗体の血液検査が重要な役割を果たします。加えて髄液検査や、脳の病気を除外するためのMRIも必要です。これらの検査と解釈は、神経内科のある病院の領域で、一般のクリニックで完結させることはできません。
治療もギラン・バレー症候群と同様、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)などが行われます。幸い、フィッシャー症候群はギラン・バレーの中でも比較的経過が良いタイプとされ、多くの方が数か月で回復に向かいます。ただし、まれにギラン・バレー症候群へ移行して手足の脱力や呼吸の症状が出てくることがあるため、初期の段階で専門医の管理下に入ることが大切です。
当院の役割は前回の記事と同じです。症状の出方と経過から疑い、脳卒中などの緊急疾患との交通整理をして、疑わしければ即日、神経内科へ紹介状を書いてつなぐ。この病気を当院で診断・治療することはできませんが、「気づいて、正しい場所へ最短で送る」ことはできます。
受診の目安まとめ
- 突然の複視・ふらつき・ろれつ困難→救急要請(まず脳卒中の除外)
- 数日単位で進む複視・ふらつき、特に下痢や風邪の1〜3週間後→その日のうちに神経内科へ(迷ったら当院で交通整理します)
- まぶたが両方とも下がってきた、飲み込みにくい→急いで受診を
次回のシリーズ第3回は、ギラン・バレー症候群と診断されたあとの話——「入院で何が行われるのか、どこまで回復するのか」を解説します。
参考文献
- 日本神経学会「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」
- 難病情報センター「フィッシャー症候群」
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