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ローカルAIは小さなクリニックには無理なのか——一人開業医が院内で動かし続けて分かった「運用負債」の中身は技術ではなく時間だった【連載 開業医ならどうなの? 第2回】


まず自分の条件を書いておきます。2024年開院の内科クリニック、12時から21時、日曜も開けて火曜が休み、医師は私一人です。ブログは2025年5月からAIと一緒に書き、道具は2025年12月にGPTで作り始め、2026年2月からClaude Codeで組んでいます。病院や勤務医の方にはそのまま当てはまらない話だと思います。

「動かせるか」と「動かし続けられるか」は別の問い

大田原正幸先生(救急集中治療医・産業医)が2026年3月2日のnoteに書いておられます。

「院内で動かせるかどうか」と「院内で動かし続けられるかどうか」は、まったく別の問いです

日本の病院の70%は200床未満で専任の情報システム担当がいない。真のボトルネックはハードウェアではなく、①メンテナンスを担う人材、②維持運用の体制、③外注を管理する余力、この三つが積み重なる「運用負債」だ、という整理です。

読んで、正しいと思いました。そして、この整理は一人の開業医にも、ほぼそのまま当てはまります。

開業医ならどうなの、が今回の問いです。

当院では院内で動いている。壊れた話をします

当院では、院内のパソコンで動くAIを診療の道具の一部に使っています。データは外に出さずに処理しています。専任の情報システム担当はいません。メンテナンスをしているのは私と、私が使っているAIコーディング環境だけです。

壊れたことは何度もあります。

7月と9月、診療中に動いているものを触って止めました。どちらもその場で前の版に戻しました。止めたのは私で、戻したのも私です。9月の上旬に自分の道具を一度棚卸しして、機能は玩具ではないが守り方は玩具だった、と自分で判断しました。バックアップの取り方、変更を加える前に机上で確かめること、診療の後に配布すること。これらを「することにした」のが9月です。

守れている実態は第1回に書いた通り、半分です。

「無理」の中身は技術ではなく時間だった

大田原先生の言う運用負債という言葉は、私には正確に刺さります。

一人でやる以上、私の時間が唯一の予算です。その時間は診療の後にしかありません。

「動かし続ける」ために実際にやったことを書きます。パソコンを再起動した後に自動で立ち上がるよう設定しました。1つのコマンドで全部の生存確認ができるようにしました。毎朝、決まった順で目視します。ファイルのパスを絶対パスに頼るのをやめました。止まるべき時に止まる設計にしました。戻せるようにしておく、を最初の条件にしました。これらは第40回で一度まとめて書いています。

どれも地味です。診察の動線を1秒も縮めません。ただ、これをやっておくと、壊れた日に自分で止めて戻せます。

「無理」は正しい言葉だと思います。ただし、無理の中身は技術ではありませんでした。時間です。その時間を、診療の後に少しずつ払っています。払えない日に触ると、7月と9月の繰り返しになるので、触らないのが正解だと分かってはいます。

「動かし続けられるか」に正直に答えると

大田原先生の三つのボトルネックに当てはめると、当院の現状はこうなります。

  • メンテ人材 — 私一人。AIコーディング環境が補助しているが、判断するのは私
  • 維持運用体制 — 毎晩のバックアップは動いている。決まった順で目視する日を作ったが毎朝とは言えない。診療後の配布はまだ半分
  • 外注を管理する余力 — 外注していないので、この問いは今のところ発生していない

三つ目だけ、少し補足します。外注していないのは余力があるからではなく、外注の管理も時間を使うからです。自分で作って自分で壊して自分で戻す、という構造は、管理の手間を省いているのではなく、管理の対象を自分の手の届く範囲に絞っている、という判断です。

運用負債は確かに積み上がっています。9月の棚卸しはその確認でした。ゼロにはなっていません。ただ、負債の中身が見えていれば、どこから返すかを自分で決められます。見えていない負債より、見えている負債のほうが扱いやすい、と今は思っています。

「無理」は正しい。ただし、無理の中身が時間だとわかれば、時間をどこに使うかを決める話になります。私にとってそれは、診療の後に少しずつ払うか、払えない日は触らないか、の二択です。

第3回は「音声からカルテの下書きを作るAIは、電子カルテ直結から始めないほうがいい」と言われている件について書きます。

※連載「開業医ならどうなの?」は、病院や制度の側で語られている医療AIの論点を一つ借りて、開業2年目の内科クリニックの実際で答える読み物です。道具は院内で内製し、患者データの扱いは三省二ガイドライン・ZDR準拠の設計を基本にしています。

この記事はnoteの連載「開業医ならどうなの?」第2回として公開したものを、公式ブログにも掲載しています。note版はこちら

参考文献

  • 大田原正幸 note(2026年3月2日)ローカルLLMの「動かせるか」と「動かし続けられるか」——運用負債
  • 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」ほか三省二ガイドライン

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