医療DXは「道具より組織改革」と言われるけれど——医師一人のクリニックで先に変えた「誰がどこまで」の線
まず自分の条件を書いておきます。2024年開院の内科クリニック、12時から21時、日曜も開けて火曜が休み、医師は私一人です。ブログは2025年5月からAIと一緒に書き、道具は2025年12月にGPTで作り始め、2026年2月からClaude Codeで組んでいます。病院や勤務医の方にはそのまま当てはまらない話だと思います。
「DはXに従う」
医療DXについて、よく言われる整理があります。DXのDはデジタル、XはTransformation、つまり組織の変革を指す。医療DXで道具だけ増えて何も変わらないのは、Dを入れてXを後回しにしているからだ、という話です。
読んで、そうだと思いました。そして同時に、「組織変革」という言葉が少し遠く感じました。私のクリニックは、医師の私と、事務長・看護師・事務という小さな所帯です。10月から事務がもう1人入ります。変革するほどの組織があるのかどうか、というところから考えることになりました。
開業医ならどうなの、というのが今回の問いです。
道具を入れる前に引いた線
うちで実際に変えたのは、道具よりも先に「誰がどこまでやるか」の線でした。
具体的には3つあります。健診の書類は、事務と看護師が直接入力し、私は所見だけ書きます。診断書や紹介状の下書きは、共同編集の形にして誰でも触れるようにしました。受付の状況は1画面に集約して、全員が同じ画面を見ています。
この3つに共通しているのは、AIが書いたり並べたりする部分と、私が決める部分を分けたことです。書類の下書きをAIが拾ってきて、私が確認して確定する。受付の状況をシステムが1画面に集約して、判断は全員がそれを見てする。道具が変わったのは結果であって、先に変えたのは「誰がどこまでやるか」の線のほうでした。
人に残したのは、患者さんへの説明、触診・聴診、最終確認、電話です。これは変えていません。変えるつもりもありません。
「私専用システム」にしたくなかった理由
なぜ線を引き直すことを先にしたのか、と聞かれると、動機は一つです。私がいなくてもクリニックシステムで回るようにしたい、私専用システムにしたくない、というのが出発点でした。
私専用システムになると何が起きるか。私が倒れたとき、あるいは単純に私が席を外したとき、そこで止まります。道具の使い方を私しか知らない状態は、道具を増やすほど脆くなります。
線を引き直すとは、私がやっていたことを人に渡すことです。渡せるように整理して、渡した後に私が確認する形にする。その整理をするのは私の仕事で、AIはその線に沿って動くだけです。ここを逆にすると、道具が増えるほど私への依存が深まります。
「XがないままDだけ増える」状態は、私の文脈で言えば「院長専用の道具が増えていく」状態のことだと思います。
変革と呼ぶには小さすぎるかもしれないが
この規模のクリニックで「組織変革」という言葉を使うのは、少し大げさかもしれません。ただ、線を引き直す作業そのものは、規模に関係なく起きます。
「することにした」と「守れていること」を分けて書くと、線を引き直すこと自体はできています。ただ、引いた線が適切かどうかの見直しはまだ途中です。10月に事務が1人増えれば、また線を引き直すことになります。そのときに今の線が邪魔になるかもしれないし、そのまま使えるかもしれない。まだわかりません。
Xの中身は、道具を増やすことではなく、自分の仕事を減らして人に渡す線を引くことでした。少なくとも私のクリニックでは、そういう話でした。
第6回(最終回)は「シャドーAIは禁止しても消えない」と言われている件について書きます。
この記事はnoteの連載「開業医ならどうなの?」第5回を、当院のブログ用に整えたものです。
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