B型インフルエンザは年明け以降に増えてきた——9月に打ったワクチンの効果がそこまで残るかは、まだ決着していません
冬の後半にはB型が流行すると聞いた、9月に打ったワクチンはそこまで効いているのか。接種を始めてから、こうしたご質問をいただくようになりました。
先にお答えを書きます。B型の検出がここ数シーズン年明け以降に偏っていたのは、データでそのとおりです。ただし、9月に打ったワクチンの効果がその時期まで残るかは、現時点では決着していません。そして、決着していないことを理由に接種を後ろへずらす判断は、当院では取っていません。この3つを順に説明します。
ここ数シーズン、B型の検出は年明け以降に偏っていました
国立健康危機管理研究機構の週別のウイルス分離・検出報告数では、昨シーズン(2025/26)に検出されたB型3,962件のうち、94.7%が年明け以降、90.4%が2026年1〜3月でした。ピークも、A(H3)が2025年第47週(622件)、B/ビクトリアが2026年第7週(478件)と、13週(およそ3か月)離れています。同じ形は2023/24シーズン、2024/25シーズンにも見られました。
ただし、いつ来るかと、どれだけ来るかは別の話です。シーズン全体の中でB型が占める割合は、年によって2.3%から45.0%まで動いています。2022/23シーズンは2.3%(91件)でした。B型が目立つ年と、ほとんど見られない年があります。
前提も変わりました。B/山形系統は2020/21シーズン以降、6シーズン連続で国内の検出がありません。日本のワクチンは2025/26シーズンから3価になり、いま「B型」と言えばB/ビクトリアを指します。2026/27シーズンの日本のB株はB/東京/EIS13-175/2025で、前シーズンのB/オーストリア/1359417/2021から変更されました。これは世界保健機関が2026年2月27日に推奨した卵培養用の推奨株そのものです。
変更の背景として、米国の2025/26シーズンのB/ビクトリア1,162株のうち69.2%が新株と同じ系統(C.3.1)を占めた一方、前シーズンのワクチン株をもとにした血清で十分に反応した株は190株中62株(32.6%)だったと報告されています。前シーズンの株が流行の主流から離れつつあったことを示す数字で、株が入れ替わった理由にあたります。今季のワクチンが実際にどの程度合うかは、流行が出てみないと分かりません。合いにくいと見込む根拠も、よく合うと見込む根拠も、現時点ではありません。
論点は、2回打つかどうかではありません
インフルエンザHAワクチンの添付文書の用法は、13歳以上が0.5mLを1回、またはおよそ1〜4週間の間隔で2回、13歳未満がおよそ2〜4週間の間隔で2回です。記載されている2回接種はこの間隔のもので、9月に打って数か月空けてもう一度、という打ち方は添付文書の用法には記載されていません。成人のシーズン中の追加接種を推奨している公的機関も、私が確認した範囲では見当たりませんでした。
ですから論点は、2回打つかどうかではありません。1回の効果がいつまで残るかです。
先に書いておきます。9月に接種された方について、冬の後半に向けてもう一度接種することを当院からおすすめすることはありません。9月に打たれた方は、このシーズンのワクチン接種としてはそれで完了とお考えいただいて差し支えありません。ご本人が希望される場合には、用法の範囲や費用をご説明したうえで対応しますので、接種の前にご相談ください。
その「いつまで」が、決着していません
健常な成人18〜65歳を対象に、接種から5か月を超えた時点を解析した2025年の報告(Nazarethら)を見ます。以下の数字は、値が1より小さいほど接種した人のほうが感染が少なかったことを示す指標(調整オッズ比)です。あわせて示す95%信頼区間は、その値が取りうるおおよその幅で、幅が1をまたぐ場合は「差があるともないとも決められなかった」という読み方になります。
A(H1N1)pdm09は0.66(95%信頼区間0.51〜0.87)で、幅が1をまたいでいません。防御が残っていると読める値です。一方でA(H3N2)は1.16(0.70〜1.62)、B型は0.75(0.49〜1.16)で、どちらも幅が1をまたいでいます。B型の値は防御の側を向いていますが、残っていたとは言い切れません。
ここは誤解されやすいところです。「有意ではなかった」は「効果がなかった」という意味ではありません。この解析の範囲では、どちらとも決められなかった、という意味です。同じ理由で、「B型も問題なく持ちます」と言い切る根拠もありません。
研究そのものが割れています
B型への効果が時間とともに落ちるかについては、落ちると検出した報告と、証拠はなかったとする報告が並んでいます。まず、検出した側です。
- 2016年の報告(Kisslingら)。B型への有効性は接種44日後で70.7%(95%信頼区間51.3〜82.4)、シーズン末の値は21.4%(−57.4〜60.8)でした。シーズン末の信頼区間は0をまたぐため、「21%まで落ちた」とは読めません。言い切れない水準まで下がった、というのが正確です。
- 2018年の報告(Youngら)。B型の有効性の変化量は−19(95%信頼区間−33〜−6)でした。A(H1N1)は−8(−27〜21)で、信頼区間が0をまたいでいます。
次に、検出しなかった側です。
- 英国の計21万件の解析(Whitakerら、2025年)。A型では接種からの時間経過に伴う効果の低下が認められた一方、B型では低下の証拠はなかったと報告されています。
- 米国の入院例を対象にした報告(Lewisら、2025年)。B型が67%(35〜84)、A(H1N1)が36%(21〜48)、A(H3N2)が19%(−8〜39)でした。A(H3N2)の信頼区間は0をまたいでいます。
49の研究をまとめた2026年のレビュー(Doyon-Plourdeら)には、効果の減衰はB型よりA型、とくにA(H3N2)でより一貫して観察された、と記載されています。
つまり、「B型は早く落ちる」も「B型は落ちない」も、いまの材料では言い切れません。結論の大きさではなく、向きすら揃っていないのが現状です。
ここで決着していないのは、B型に対する効果が冬の後半にどの程度残るか、という程度の問題です。9月に接種したことが無駄だったという意味ではありませんし、いま流行しているA型に対する備えは、接種した時点から働いています。
分かっていないことを、そのまま並べます
- 観測された効果の低下が、本当に免疫の低下によるものなのか、研究の方法に由来する偏りなのかが切り分けられていません。
- ここに挙げた研究の多くは、B/山形系統がまだ流行していた時期を含む期間のものです。その系統は2020/21シーズン以降、国内では検出されていません。B/ビクトリアに限って、接種からの経過日数別に有効性を見たデータは見当たりません。
- 日本国内には、接種からの経過日数で層別したB型の有効性のデータがありません。ここに並べた数字はすべて海外の報告で、日本に当てはめて考えているものです。
- 9月に打った場合と11月に打った場合とで、B型に対する結果が変わるかを直接検証した無作為化比較試験は、ここまでに挙げた報告の中には見当たりません。
- 今シーズンB型が来るかどうかも分かりません。今季の国内検出(2026年第32〜36週)は、A(H1N1)pdm09が56件(98%)、A(H3)が1件(2%)で、B型は0件です。一方で、決められた医療機関1か所あたりの週の報告数(流行開始の目安とされる指標)は2026年第34週(8月17〜23日)に1.00を超え、1999年の感染症法の施行以降では2009年に次いで2番目に早い流行入りとなりました。確率を示せる予測はないため、数字は書きません。
では、接種を後ろにずらすのか
国内では、季節性インフルエンザワクチンの接種は10月中旬から下旬に始め、12月上旬までに終えることが目安として示されています。当院が9月12日から接種を行っているのは、この時期に接種を希望される方に対応するためで、この目安を置き換えるものではありません。
そのうえで、「B型が年明けなら、11月まで待ってはどうか」という考え方について。2020年のモデル研究(Ferdinandsら)では、接種を10月まで遅らせた場合、それまで8〜9月に打っていた人の14%以上が打ち損ねると、かえって入院が増えると試算されています。ずらすという判断は、ずらした人があらためて打ちに来ることが前提で、打ち損ねが一定の割合を超えると差し引きで損になりうる、という条件つきの試算です。米国のモデル研究であり、日本の試算ではありません。
ここからは海外の勧告で、日本の推奨を置き換えるものではありません。米国の予防接種の諮問委員会は、効果の減衰を理由に7月と8月の接種は勧めていませんが、9月と10月は理想的な時期としています。カナダの2026-27シーズンの勧告にも、早い秋の接種でシーズンの大半は防御が持続する、と記載されています。
そして今季、いま検出されているのはA(H1N1)pdm09です。先ほどのレビューでは効果の減衰はA型でより一貫して観察されており、A型なら心配がないという意味ではありません。それでも、決着していないB型を理由に、いま動いている流行への備えを後ろへずらす判断は、当院では取っていません。
冬の後半に向けて、いまからできること
- 年明け以降に熱が出たときは、打ったからインフルエンザではない、とご自身で判断せずにご相談ください。
- ご家族そろって接種しておくことも一つの方法です。海外の集団を対象にした無作為化比較試験では、子どもへの接種が、接種していない周囲の人の感染を間接的に減らしたと報告されています。家庭でも同じ結果になると確かめられているわけではありませんが、考え方の一つとしてご説明しています。
- 手洗いや換気は、冬の後半まで続けていただく形になります。
当院での接種について
当院では9月12日から接種を行っています。診療時間は12:00〜21:00、火曜休診で、土曜・日曜・祝日も21時まで接種できます。65歳以上の方などを対象とした自治体の公費助成(定期接種)にも対応しており、この場合の自己負担額や対象となる条件は自治体の定めによりますので、ご予約時または受付でお尋ねください。公費助成の対象とならない方の任意接種(自費)は1回4,000円(税込・診察料込み)です。なお13歳未満のお子さんの接種は、当院では行っておりません。
公費助成の対象とならない方の接種は任意接種(自費)です。添付文書の用法では13歳以上が0.5mLを1回またはおよそ1〜4週間の間隔で2回とされており、当院では13歳以上の方に1回接種で対応しています。接種後には、注射した部位の赤み・腫れ・痛み、発熱、頭痛、倦怠感などがみられることがあります。まれに重いアレルギー反応が起こることがあります。当日37.5℃以上の発熱がある方、過去にインフルエンザワクチンで強いアレルギー反応が出た方は接種を見合わせます。詳しくは添付文書の記載に基づいて、接種の前にご説明します。
ここまでをまとめます。B型の検出がここ数シーズン年明け以降に偏っていたことは、データではっきりしています。今シーズンB型が来るかも、9月のワクチンの効果がそこまで残るかも、分かっていません。分からないことは分からないとお伝えしたうえで、それを理由にいまの備えを後ろへずらすことはしない、というのが当院の考え方です。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構「週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数」「感染症週報(IDWR)2026年第36週」
- 厚生労働省 報道発表(2026年第34週の発生状況)/2026/27シーズン 季節性インフルエンザワクチンに関する資料
- インフルエンザHAワクチン 添付文書(用法及び用量、副反応)
- Nazareth J, et al. Lancet Microbe. 2025;6(11):101136(健常成人・接種5か月超)
- Kissling E, et al. Euro Surveill. 2016;21(16):30201
- Young B, et al. J Infect Dis. 2018;217(5):731-741
- Whitaker HJ, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2025;19(12):e70194
- Lewis NM, et al. J Infect Dis. 2025;232(4):e626-e636
- Doyon-Plourde P, et al. CCDR. 2026;52(6):231-245(49研究のレビュー)
- Ferdinands JM, et al. Clin Infect Dis. 2020;70(8):1550-1559(接種時期を遅らせた場合の試算)
- Grohskopf LA, et al. MMWR. 2025;74(32):500-507/カナダ 2026-2027シーズン勧告, CCDR. 2026;52(9)
- Loeb M, et al. JAMA. 2010;303(10):943-950(小児接種による集団内の間接防御)
- 世界保健機関 2026/27北半球用インフルエンザワクチン株の推奨(2026年2月27日)
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