冬の加湿は風邪・インフルエンザ予防になる?——湿度とウイルスの関係、室内湿度の目安、加湿器の手入れと加湿器肺
冬になると、「加湿器を使うと風邪やインフルエンザの予防になる」という話をよく耳にします。厚生労働省も、空気の乾燥は気道の防御機能を弱めるとして、加湿を予防策のひとつに挙げています。一方で、手入れをしていない加湿器は、肺の病気の原因になることがあります。湿度とウイルスについて分かっていること、室内湿度の目安、加湿器を安全に使うための手入れ、加湿器が原因となる肺の病気について整理します。
乾燥すると、なぜ風邪をひきやすくなるのか
厚生労働省の「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」では、空気が乾燥すると気道粘膜の防御機能が低下し、急性呼吸器感染症にかかりやすくなると説明されています。鼻やのど、気管の表面は粘液でおおわれており、細かい毛(線毛)の動きによって、吸い込んだ異物を外へ送り出しています。
この仕組みと湿度の関係を調べた研究に、2019年に発表されたマウスの実験があります。乾いた空気の中で飼育したマウスは、適度な湿度で飼育したマウスに比べて、線毛が異物を運び出す働き(粘液線毛クリアランス)や、ウイルスに対する初期の防御反応が弱まり、インフルエンザが重くなりやすかったと報告されています。ほかにも、湿度によってインフルエンザウイルスの伝わりやすさが変わることを示した動物実験や、湿度と流行の季節との関係を調べた研究があります。保育施設の教室を加湿した研究では、空気や子どもが触れる物から見つかるインフルエンザウイルスが減ったとする報告もあります。
ただし、これらは動物や、環境中のウイルスを調べた研究が中心です。加湿だけで人の感染をどの程度減らせるかについては、まだ十分には分かっていません。
室内湿度の目安は50〜60%
先ほどの厚生労働省のQ&Aでは、特に乾燥しやすい室内では、加湿器などを使って適切な湿度(50〜60%)を保つことも効果的とされています。また、多くの人が利用する一定の建物を対象とした「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(いわゆるビル管理法)に基づく管理基準では、空気調和設備のある居室の相対湿度を40%以上70%以下としています。
冬は外の空気が乾いているうえ、暖房で室温を上げると、室内の湿度(相対湿度)はさらに下がりやすくなります。換気をすると湿度は下がりますが、換気も感染対策として大切ですので、やめるのではなく加湿と組み合わせて考えるとよいでしょう。体感だけでは分かりにくいため、湿度計を置いて数字で確かめると調整しやすくなります。
反対に、湿度を上げすぎるのも好ましくありません。日本呼吸器学会は、カビが増える条件のひとつとして湿度60%以上を挙げ、カビの増殖を抑える対策として、湿度を下げる、ものを乾かす、換気をよくする、掃除をすることなどを挙げています。加湿は「多いほどよい」ものではなく、目安の範囲に収めることが大切です。
加湿器の種類と、毎日の手入れ
家庭用の加湿器には、水を加熱して蒸気を出すスチーム式(加熱式)、超音波で水を細かい粒にして出す超音波式、水を含ませたフィルターに風を当てる気化式、これらを組み合わせたハイブリッド式などがあります。
加湿器では、タンクなどに生物膜(ぬめり)ができると、レジオネラ属菌をはじめとする微生物が増えやすくなります。厚生労働省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」では、家庭用加湿器のタンクの水は毎日完全に換えるとともに、タンク内を清掃することとされています。厚生労働省は、水を加熱して蒸気を出すタイプはレジオネラ属菌の感染源となる可能性は低いとする一方、超音波式などの加湿器を使うときは、毎日水を入れ替えて容器を洗うよう呼びかけています。超音波式は、タンクの水をそのまま細かい粒にして空気中に出す仕組みのため、水が汚れていると、その汚れも部屋に広がってしまいます。
- タンクの水は毎日すべて捨てて入れ替え、継ぎ足しで済ませない
- タンクやトレーのぬめり・水あかを洗い落とす
- フィルターなどの部品は、取扱説明書に従って掃除・交換する
- タンクに入れる水は取扱説明書の指定に従い、指定されていない薬剤などを入れない
- 使わないときは、水を残したままにしない
また、スチーム式など熱い蒸気やお湯を使う加湿器については、製品評価技術基盤機構(NITE)が、子どもが蒸気の吹き出し口に触れたり、本体が倒れて中のお湯がこぼれたりしてやけどをする事故について注意を呼びかけています。小さなお子さんがいるご家庭では、置き場所にも気を配ってください。
加湿器が原因になる肺の病気
過敏性肺炎(加湿器肺)
過敏性肺炎は、カビや細菌、鳥のフンに含まれるたんぱく質などを繰り返し吸い込むことで、肺にアレルギー性の炎症が起きる病気です。細菌やウイルスに感染して起こる肺炎とは、起こる仕組みが異なります。加湿器の中で増えたカビや細菌を吸い込んで起こるものは「加湿器肺」と呼ばれ、日本呼吸器学会の『過敏性肺炎診療指針2022』でも、わが国の代表的な過敏性肺炎のひとつとして挙げられています。
主な症状は乾いた咳、息切れ、発熱で、風邪と見分けにくいことがあります。入院などで原因から離れると、症状が改善することが知られています。程度が軽い場合は原因を避けることで改善することがありますが、重くなると酸素やステロイド薬による治療が必要になることがあります。加湿器を使い始めてから咳や息切れが続く場合は、そのまま使い続けず、医療機関に相談してください。
レジオネラ症
レジオネラ症は、レジオネラ属菌による細菌感染症で、重い肺炎を起こす「レジオネラ肺炎」と、一過性で自然に改善する「ポンティアック熱」が知られています。菌に汚れた水から生じた細かい水の粒(エアロゾル)を吸い込むことで感染し、加湿器もその発生源のひとつに挙げられています。先に挙げた毎日の水の交換と清掃は、この予防にもつながります。
加湿は予防策の「ひとつ」
厚生労働省のQ&Aでは、湿度の保持のほかに、流水と石けんによる手洗い、ワクチン接種、人混みや繁華街への外出を控えることなどが予防策として挙げられ、咳やくしゃみが出るときは周りにうつさないよう咳エチケットを守ることも求められています。インフルエンザワクチンについては、発症の可能性を下げる効果と、発症した場合の重症化を防ぐ効果があると報告されています。流行してきたら、特に高齢の方、持病のある方、妊娠中の方、体調の悪い方は、人混みや繁華街への外出を控えるよう呼びかけられています。加湿器を置いたから安心、ではなく、ほかの対策と組み合わせて考えていただければと思います。
受診の目安
- 発熱や咳が続き、息苦しさがある
- 高い熱が続く、呼吸が苦しい、意識の状態がおかしい、ぐったりしている(早めに受診してください)
- 加湿器を使い始めてから、乾いた咳・息切れ・発熱をくり返す
- 家を離れると症状が軽くなり、帰宅するとまた悪くなる
- 高齢の方や持病のある方で、風邪の症状がいつもより長引く
受診の際は、加湿器を使っているかどうか、その種類や手入れの状況も伝えていただくと、原因を考える手がかりになります。
参考文献
- 厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」
- 厚生労働省「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」(平成15年厚生労働省告示第264号)
- 日本呼吸器学会『過敏性肺炎診療指針2022』(2022年)
- Kudo E, Song E, Yockey LJ, et al. Low ambient humidity impairs barrier function and innate resistance against influenza infection. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019;116(22):10905-10910.
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