痔(いぼ痔・切れ痔)——冷え・便秘・長く座ることとの関係、種類ごとの症状、出血があるときに大腸の病気を確かめる大切さを内科医が解説
朝晩が冷え込むようになり、暖かい部屋で長く座って過ごす時間が増える季節です。おしりからの出血や痛み、排便のときに何かが出てくる感じがあっても、「痔だろう」と様子を見ている方は少なくありません。この記事では、いぼ痔(痔核)と切れ痔(裂肛)の症状の違い、冷えや便秘、長く座ることとの関係、毎日の排便習慣で気をつけたいことをまとめました。あわせて、「痔だと思っていたら別の病気だった」ということを防ぐために、出血があるときに大腸を確かめる大切さと、受診の目安をお伝えします。
痔にはいくつかの種類があります
日本大腸肛門病学会は、肛門の3大疾患として痔核(いぼ痔)、痔瘻(あな痔)、裂肛(切れ痔)を挙げ、このうち頻度が高いのは痔核だとしています。学会は専門家向けに、痔核・痔瘻・裂肛と直腸脱の診療ガイドライン(2020年版)も公開しています。
痔核のもとになる構造は、正常な肛門の中にもともとあるものです。学会は、何らかの症状が出て初めて病気の痔核として扱うと説明しており、症状がなければ通常は治療の対象になりません。
痔核は、肛門の内側1〜2cmのところにできる「内痔核」と、それより外側や肛門の外にできる「外痔核」に分けられます。
裂肛は、肛門の出口近くの皮膚(肛門上皮)が切れてできる傷で、特に20〜40歳代の女性に多くみられるとされています。
種類ごとの症状の違い
いぼ痔(内痔核)の主な症状は次のとおりです。
- 出血——鮮やかな赤い血が排便のときに出て、排便が終わると自然に止まるのが特徴です。
- 脱出——排便のときに強くいきむと、内痔核が肛門の外に出てきます。いわゆる「脱肛」はこの状態の別名で、別の病気ではありません。
- 痛み——内痔核ができる場所には痛みを感じる神経がないため、ふつうは痛みを感じません。
脱出の程度は4段階に分けられます。排便時に肛門の中でふくらむ(Ⅰ度)、排便時に出るが自然に戻る(Ⅱ度)、指で押し戻す必要がある(Ⅲ度)、完全には戻らない(Ⅳ度)で、程度に応じて治療法が選ばれます。
一方、急に強い痛みと腫れが出る痔もあります。血栓性外痔核は、肛門の出口付近に血のかたまり(血栓)ができて、ぷっくりと腫れるものです。嵌頓(かんとん)痔核は、以前から脱出をくり返していた痔核が戻らなくなり、激しい痛みとともに大きく腫れた状態です。
切れ痔(裂肛)の主な症状は次のとおりです。
- 痛み——排便のときだけでなく、排便後に長引く強い痛みを伴うこともあります。
- 出血——色は鮮やかな赤で、量は紙に付く程度のことが多いのですが、便器が真っ赤になることもあります。
裂肛をくり返すと、肛門が狭くなって便が細くなることがあります。排便時の痛みを避けて便意を我慢すると、便が硬くなって傷がさらに悪くなるという悪循環に陥ります。
冷え・便秘・長く座ること——痔を悪くする生活の要因
日本大腸肛門病学会は痔核の原因として、排便時の強いいきみ、重い荷物を持つ仕事、筋力トレーニングなどで腹圧がかかること、長時間の座り仕事、お酒の飲みすぎ、トウガラシなどの辛いものの食べすぎ、お尻を冷やすことなどを挙げています。
痔核は突然できるものではなく、もとになる構造が便秘やいきみによって大きくなり、症状が出るようになると説明されています。
切れ痔は、硬い便を無理に出すことで起こりやすくなります。毎日排便があっても、便が硬い方や排便の間隔が長い方に多くみられます。また、切れた後に下痢が続くと治りにくくなります。
便秘は排便の回数だけで判断できるものではなく、毎日出ていても出しにくい、残った感じがするという状態も含まれます。
生活でできること——排便習慣・食物繊維・水分・いきみ
学会は、果物や食物繊維をとり、便通をよくしていきみを避けることを、症状のある痔核の保存的治療(手術をしない治療)の基本としています。毎日の暮らしでは、次のような点を意識してみてください。
- トイレは我慢せず、短く——便意を感じたらトイレに行き、排便は3分以内を目安にします。長くいきみ続けないことが大切です。
- 水分・食物繊維・朝食——十分な水分と食物繊維をとり、朝食を抜かないようにします。
- 決まった時間にトイレへ——便秘の治療とあわせて、決まった時間、特に食後にトイレに行く習慣をつけます。
- 座りっぱなしと冷えに注意——長く座り続けない、お尻を冷やさない、お酒や辛いものをとりすぎないようにします。
- お尻を温める——痛みや出血のある痔核には、お尻を温める温浴(入浴)が良いとされています。
塗り薬や坐薬などの薬は痛みや出血を和らげますが、痔核そのものが消えるわけではなく、脱出を治す効果はないとされています。脱出をくり返す場合は、注射による治療や手術が検討されることがあります。また、治療の後も、便秘や下痢をしない生活習慣を続けることが再発を防ぐうえで大切です。
「痔だと思っていたら別の病気」を防ぐために
おしりからの出血は痔でよくみられますが、日本大腸肛門病学会は、痔核や裂肛、直腸ポリープなどからの出血は、大腸がん、とくに直腸がんの出血ととてもよく似ているため、出血が続くときには大腸内視鏡検査などの精密検査が必要だとしています。
国立がん研究センターによると、大腸がんは早い段階では自覚症状がほとんどありません。進むと、便に血が混じる、便の表面に血が付く、貧血によるめまい、便秘や下痢、便が細くなる、便が残る感じ、おなかが張るといった症状が出ることがあります。なかでも多いのは便に血が混じる・付くという症状で、痔などの良性の病気でも起こりますが、自己判断せず早めに身近な医療機関を受診するよう勧められています。
出血の原因は大腸がんだけではありません。血液に粘液が混じる、下痢を伴うといった場合には、潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に炎症が続く病気)を考える必要があります。炎症性腸疾患のクローン病でも、腹痛や下痢、血便、体重減少などの症状がみられます。強い腹痛を伴う下痢の後に血便が出る虚血性大腸炎や、タールのように黒い便が出る胃・十二指腸潰瘍など、肛門から離れた場所の病気が出血の原因になることもあります。
便潜血検査と大腸内視鏡検査
大腸がん検診は、40歳から1年に1度、定期的に受けることが勧められています。検査は便潜血検査(2日法)で、2日分の便をとり、目には見えないほど微量な血液が混じっていないかを調べます。
- 1日分だけでも陽性になったら、精密検査を受ける必要があります。便潜血検査をもう一度受けても、精密検査の代わりにはなりません。
- もともと痔がある場合でも、痔からの出血か、大腸がんやポリープからの出血かは、精密検査をしないと分かりません。
- 精密検査では、まず全大腸内視鏡検査が行われます。肛門から内視鏡を入れて直腸から盲腸まで大腸全体を観察し、がんやポリープがないかを確かめます。
なお、血便や腹痛、便の状態や回数の変化といった症状がすでにある場合は、検診を待たずに、すぐに医療機関を受診するよう案内されています。
受診の目安
初期であれば手術をしない治療で治ることもあるため、症状があれば早めの受診が勧められています。次のような場合は、内科や消化器内科、肛門科などの医療機関にご相談ください。
- おしりからの出血が続く、くり返す
- 便に粘液が混じる、下痢や腹痛を伴う
- 便が細くなった、便が残る感じがする、便秘や下痢が続くなど、便通が変わった
- 体重が減っている、めまいなど貧血の症状がある、血縁者に大腸がんの方がいる
- 健診や検診の便潜血検査で「要精密検査」と言われた(1日分だけの陽性でも)
- 排便のときに出てくるものが自然に戻らず、指で押し戻している
- 排便後も痛みが長く続く
- おしりが急に腫れて強く痛む
- 痛みが日ごとに強くなり、腫れや熱がある
痛みが少しずつ強くなる、腫れや熱があるという場合は、肛門のまわりに膿がたまる肛門周囲膿瘍のことがあります。痔の坐薬や塗り薬は効かず、膿を出す処置が必要になるため、我慢せず早めに受診してください。
厚生労働省は、消防庁のリーフレットをもとに、大人で「すぐに救急車を呼ぶ」症状として、便に血が混ざる・真っ黒い便が出る、血を吐く、突然の激しい腹痛や続く激しい腹痛、支えなしで立てないほど急にふらつく、顔色が明らかに悪い、などを挙げています。出血の量が多い、ふらつきや顔色の悪さを伴うなど、いつもの痔の出血と様子が違うときは、ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。
参考文献
- 日本大腸肛門病学会「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版」(改訂第2版・2020年)
- 日本大腸肛門病学会 市民のみなさまへ「痔核についてのQ&A」「痔核の治療」「裂肛」「急におしりが腫れた方へ」「肛門からの出血の状態で、大腸・肛門の病気が分かりますか?」「たかが便秘に要注意!(たかが便秘されど便秘)」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)について」(2025年)「大腸がん検診について」(2024年)
- 厚生労働省「上手な医療のかかり方」こんな時は迷わず119へ
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