ヒートショックとは——冬の入浴中の事故を防ぐために知っておきたい温度差と血圧、高齢の方・持病のある方の注意点
寒い季節になると、暖かい居間から冷えた脱衣所へ、そして熱いお湯へと、入浴のたびに体は大きな温度差にさらされます。この温度差で血圧が上下に大きく揺れ、失神や心筋梗塞・脳卒中などにつながることを「ヒートショック」と呼びます。冬の入浴中の事故は高齢の方を中心に毎年多く起きており、消費者庁も繰り返し注意を呼びかけています。体の中で何が起きているのか、そして事故を防ぐために入浴の仕方をどう工夫できるのかを整理します。
ヒートショックとは
ヒートショックとは、温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動することによって、失神したり、心筋梗塞や脳卒中といった血管の病気などを引き起こしたりする健康被害を指します。とくに起こりやすいのが、冬場の入浴時です。
注意が必要なのは高齢の方だけではありません。高血圧・糖尿病・脂質異常症などの持病がある方も、危険性が高いとされています。理由は後ほど説明します。
冬の入浴中の事故の実態
消費者庁によると、厚生労働省の人口動態統計(令和6年)で「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水」により亡くなった方は7,776人で、そのうち65歳以上の方が7,363人(約95%)を占めています。
消費者庁が2020年に公表した注意喚起では、高齢者の不慮の溺死及び溺水による死亡は交通事故による死亡よりも多くなっていること、発生場所としては家や居住施設の浴槽が多く、11月〜4月の冬季を中心に多く発生していることが示されています。
消費者庁は、こうした事故の背景として、暖かい室内と寒い脱衣所・浴室との温度差などによる急激な血圧の変動と、熱いお湯に長くつかることによる体温上昇での意識障害を挙げています。温度差による血圧の揺れだけでなく、熱すぎるお湯や長すぎる入浴も事故の背景になりうるということです。
入浴の流れで体に起きていること
一回の入浴のなかで、血圧と体温は次のように変化します。
- 寒い脱衣所で服を脱ぐ——体の表面全体が急に冷やされ、血圧が上がります
- お湯につかる——今度は血管が広がり、血圧が急に下がります
- 長くつかる——消費者庁は、42度のお湯に10分つかると体温が38度近くに達し、高体温などによる意識障害で浴槽から出られなくなったり、浴槽内でしゃがみ込んで溺れたりするおそれがあるとしています
- 急に立ち上がる——体にかかっていた水圧がなくなり、圧迫されていた血管が一気に広がって脳へ行く血液が減り、一時的に意識が遠のくことがあります
- 寒い脱衣所に戻って服を着る——再び冷やされ、血圧が上がります
高齢になると血圧を正常に保つ働きが低下するため、こうした急な変動で脳の血流が減って意識を失うことがあり、それが浴槽の中で起こると溺水事故につながると考えられています。
高齢の方・持病のある方が注意したい理由
- 高齢の方——元気な方でも、体の働きの低下により、体温の維持が難しく、血圧の変動を起こしやすい状態にあります
- 高血圧の方——血圧の急な上下(乱高下)によって低血圧が起きやすく、意識障害を起こす危険性があります
- 糖尿病・脂質異常症の方——動脈硬化によって血管の働きが落ちていることがあり、脳卒中や心筋梗塞を起こす危険性があります
入浴のタイミングにも注意が必要です。食後は血圧が下がりすぎる「食後低血圧」で失神することがあり、飲酒によっても血圧は一時的に下がります。消費者庁は、食後すぐの入浴や、飲酒後(アルコールが抜けるまで)・医薬品服用後の入浴を避けるよう呼びかけており、精神安定剤や睡眠薬などを飲んだ後の入浴も避けるよう記載しています。体調が悪いときの入浴も控えましょう。
ふだん飲んでいるお薬と入浴のタイミングについて気になることがあれば、自己判断で服薬をやめたり時間をずらしたりせず、処方した医師や薬剤師に相談してください。
事故を防ぐ入浴の工夫
消費者庁などが示している主なポイントは次のとおりです。
- 入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく——温度計を置くと、部屋ごとの温度差を目で確かめられます
- 湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にする——温度計やタイマーを使うと守りやすくなります
- 浴槽から急に立ち上がらない——手すりや浴槽のへりを使って、ゆっくり立ち上がります
- 入浴前に水分をとる
- 食後すぐ・飲酒後・医薬品服用後の入浴は避ける
- 入浴前に同居の方に一声かける——ご家族は、入浴時間が長すぎないか、物音が途絶えていないかを気にかけ、ときどき声をかけて確認します
- 浴槽内で意識がもうろうとしてきたら、気を失う前に湯を抜きます
また、日本気象協会は、気象予測をもとに家の中でのヒートショックのリスクの目安を示す「ヒートショック予報」を公開しています。冷え込みが強まる日の目安として参考にできます。
浴槽でぐったりしている人を見つけたら
消費者庁は、入浴中の事故が起きたときの対応として次の手順を示しています。
- まず浴槽の栓を抜き、大声で助けを呼びます
- 浴槽から出せるようであれば救出します。出せない場合は、ふたに上半身を乗せるなどして沈まないようにします
- 直ちに救急車を呼びます(119番)
- 救出したら、肩をたたきながら呼びかけて反応を確かめ、反応がなければ呼吸を確認します。呼吸がなければ胸骨圧迫を始めます
受診の目安
次のような場合は、医療機関に相談してください。
- 入浴中や入浴後に、立ちくらみ・ふらつき・意識が遠のく感じがあった
- 入浴時に動悸や胸の不快感を感じることがある
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症などで治療中、または健診で指摘されたことがあり、冬の入浴に不安がある
- 家庭で測る血圧が以前より高い、日によって大きく違う
- 服用中のお薬と入浴のタイミングや注意点を確認したい
一方、呼びかけに反応しない、片方の手足の麻痺やしびれ、ろれつが回らない、経験したことのない激しい頭痛、胸の中央が締め付けられる・圧迫されるような痛みが続く、急な息切れや呼吸困難といった症状がある場合は、受診を待たずにすぐ119番通報してください。
参考文献
- 消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!-自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています-」(2020年11月19日)
- 消費者庁「年末年始、高齢者の事故に注意しましょう!-思いがけない事故のリスクは事前に減らすことができます-」(2025年12月23日)(人口動態統計(令和6年):浴槽内での及び浴槽への転落による溺死及び溺水7,776人、うち65歳以上7,363人)
- 消費者庁「みんなの消費安全ナビ from 消費者庁」コラムVol.12「高齢者の事故 ―冬の入浴中の溺水や食物での窒息に注意―」
- 滋賀県 健康医療福祉部 健康しが推進課「ヒートショック対策について」
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