冬に悪化しやすい心不全——むくみ・息切れ・体重増加のサインと、塩分・感染予防・毎日の体重測定を内科医が解説
冬は心臓に負担がかかりやすい季節とされ、心不全のある方は特に気をつけたい時期です。息切れが強くなる、足がむくむ、体重が急に増えるといった変化は、体に水分がたまり始めたサインかもしれません。寒くなる前に、冬に心不全が悪化しやすい理由と、見逃したくないサイン、毎日の体重測定、塩分と感染予防のポイント、受診の目安をまとめました。
心不全とはどんな状態か
日本循環器学会と日本心不全学会は、一般の方にもわかりやすいように、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義しました。心不全は一つの病名というより、高血圧、心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症など、さまざまな心臓の病気が進んだ結果として起こる状態です。
心臓のポンプの働きが落ちると、心臓に戻るはずの血液が肺や足にとどこおります。肺にたまれば息切れ、足にたまればむくみになります。腎臓への血流も減って尿が出にくくなり、出なかった分の水分が体にたまって体重が増えます。日本循環器協会は、心不全で体重が増えるのは食べ過ぎのためではなく、水分がたまった、つまり心不全が悪化したことを意味すると説明しています。
心不全は、多くの場合、一度の治療で終わるのではなく、長く付き合っていく病気です。薬を続けることに加えて、日々の体調を記録し、悪化の兆しに早く気づくことが大切になります。
冬に心不全が悪化しやすい理由
日本循環器協会は、冬は心臓に負担がかかりやすい季節だとして、寒暖差、活動のしすぎ、感染症に注意するよう呼びかけています。主な理由は次のとおりです。
- 寒さによる血圧の上昇——日本高血圧学会と日本循環器学会は、冬の寒さが血圧を上げ、心筋梗塞や脳卒中などが起こりやすくなるとして、緊急声明「冬こそ血圧朝活!」を出しています。なかでも冬の朝は、室温の低さや起床後の活動が重なり、血圧が上がりやすい時間帯とされています。
- 部屋ごとの温度差——暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室へ移ると、急な温度差で血圧が大きく変動します(ヒートショック)。同じ声明では、脱衣所や浴室を暖めて温度差を小さくすることが勧められています。
- 感染症——風邪やインフルエンザなどの感染症は、心不全を悪化させるきっかけになります。ふだんから息切れしやすい方が感染症にかかると、さらに呼吸が苦しくなることがあります。
このほか、塩分や水分のとりすぎ、薬の飲み忘れや自己判断での中断、体を動かしすぎることも、心不全が悪化するきっかけとして挙げられています。症状が落ち着いていても、処方された薬は担当医の指示どおりに続けてください。かぜをひいたときに市販のかぜ薬や痛み止め(解熱鎮痛薬)を使う場合は、成分によっては体に水分をためやすく心不全を悪化させるおそれがあるものや、ふだん飲んでいる薬との飲み合わせに注意が必要なものがあるため、使う前に担当医や薬剤師に相談してください。
見逃したくないサイン
心不全が悪化すると、次のような変化が現れることがあります。
- 息切れ——坂道や階段で以前より息が切れる、疲れやすくなった
- 横になると苦しい——夜、横になると息が苦しくて眠れない。国立循環器病研究センターは、体の中で血液がとどこおる「うっ血」が進むと、このような状態(起坐呼吸)になることがあると説明しています
- むくみ——足の甲やすねのあたりがむくむ
- 体重の増加——食事の量は変わらないのに、短い期間のうちに体重が増える
- お腹の張り・食欲の低下——胃腸にも血液がとどこおり(うっ血)、食欲が落ちたり、お腹が張ったりすることがあります
一つひとつは小さな変化でも、記録を残しておくと、前の週との違いに気づきやすくなります。
毎日の体重測定——同じ条件で測って記録する
体重は、体にたまった水分の量を家庭で知るための手がかりです。日本循環器協会は、毎日、朝の排尿後・朝食前に体重を測って記録することを勧めています。測る条件をそろえると、日ごとの変化が読み取りやすくなります。
- 毎朝、起きてトイレを済ませたあと、朝食の前に測る
- できるだけ同じ体重計を使う
- 数字を手帳やノートに書き残す。日本心不全学会の「心不全手帳」(第3版)には、記録用のページがあります
- 受診のときは記録を持参し、担当医に見せる
食事の量は変わらないのに体重が増えている、むくみや息切れも一緒に出てきた、という場合は、心不全が悪化している可能性があります。担当医から「何kg増えたら連絡する」という目安を伝えられている方は、その目安に沿って早めに連絡してください。
塩分と水分——自己流で極端にしない
塩分(ナトリウム)には体に水をためる性質があり、とりすぎると血液の量が増えて心臓の負担になります。心不全の症状がまだ出ていない段階(高血圧や糖尿病などがあるステージA、心臓に異常があっても症状のないステージB)から、減塩を心がけることが大切です。ふだんの食事を薄味にする、減塩の調味料や食品を取り入れるなど、続けやすい工夫から始めるとよいでしょう。
一方、すでに心不全と診断されている方の塩分や水分の量は、病状や腎臓の働き、使っている薬、食事の量によって調整が必要です。高齢の心不全の方では、低栄養や飲み込みにくさ(嚥下障害)が問題になることもあり、減塩とあわせて必要な栄養がとれているかにも目を向ける必要があります。塩分も水分も、自己判断で極端に減らしたり増やしたりせず、担当医の指示を確認してください。
感染予防とワクチン
感染症は心不全を悪化させる原因になります。日本循環器協会は、感染を防ぐ行動として、手洗い、うがい、歯磨き、マスク、予防接種を挙げています。
予防接種法に基づく定期接種では、次のワクチンが高齢の方などを対象としています(厚生労働省)。
- インフルエンザワクチン——65歳以上の方などが対象で、毎年度1回
- 新型コロナワクチン——65歳以上の方と、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方が対象で、毎年1回
- 肺炎球菌ワクチン——65歳の方と、60〜64歳で一定の基礎疾患がある方が対象で、1回
60〜64歳の対象には、心臓・腎臓・呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方などが含まれます。定期接種は市区町村が実施しているため、時期や費用、手続きはお住まいの自治体の案内で確認できます。持病や体調に合わせた接種については、主治医にご相談ください。
受診の目安
次のような変化があるときは、早めにかかりつけの医療機関に相談してください。
- 体重が短い期間で増えている、担当医から伝えられた目安を超えた
- 以前より息切れが強くなった、少し動いただけで息が苦しい
- 足のむくみが出てきた、強くなった
- お腹の張りや食欲の低下が続く
- 風邪やインフルエンザなどにかかったあと、息苦しさが増している
息苦しさが強くて横になれない、胸の痛みや冷や汗がある、意識が遠のくような感じがある、症状が急に悪くなっているなど、症状が強いときは、ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。
心不全と診断されていない方でも、息切れや足のむくみは心不全でよくみられる症状です。こうした症状が続くときは、一度医療機関を受診して原因を確かめることをおすすめします。
参考文献
- 日本循環器協会「心不全」「食事に気を付けよう」「医療・福祉・介護スタッフのための心不全入門講座」
- 国立循環器病研究センター病院「心不全」(循環器病について知る/患者の皆様へ)
- 日本高血圧学会・日本循環器学会 緊急声明「冬こそ血圧朝活! -冷えとヒートショックから命を守るために-」(2025年12月)
- 厚生労働省「65歳以上に実施している予防接種」
- 日本心不全学会「心不全手帳」第3版(2022年10月)
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