八味地黄丸で動悸が出ることはある?附子による副作用と安全な服用ポイントを内科医が解説
「八味地黄丸を飲んでから動悸がする気がするのですが…」
夜間頻尿・腰痛・下肢の冷え・加齢に伴う症状などで処方されることが多い漢方薬、八味地黄丸(ツムラ7番)。服用を始めた後に「動悸が気になる」「なんとなくドキドキする」という相談を受けることがあります。
結論から言うと、八味地黄丸で動悸が出ることは実際にあります。添付文書にも明記された副作用で、原因は配合されている附子(ブシ)にあります。
八味地黄丸とは——どんな漢方薬?
構成生薬(8種類)
「八味」の名前の通り、以下の8つの生薬から構成されています。
- 地黄(ジオウ):補血・滋陰
- 山茱萸(サンシュユ):補腎
- 山薬(サンヤク):補脾腎
- 沢瀉(タクシャ):利水
- 茯苓(ブクリョウ):利水・健脾
- 牡丹皮(ボタンピ):清血熱
- 桂皮(ケイヒ):温陽
- 附子(ブシ):温裏・強心
主な適応
- 下半身の冷え・倦怠感
- 夜間頻尿・排尿困難(前立腺肥大症の補助)
- 腰痛・下肢のしびれ
- 糖尿病性神経障害
- 加齢に伴う諸症状全般(中医学でいう「腎虚」)
動悸の原因は「附子(ブシ)」
八味地黄丸で動悸が起こるキーマンは附子です。
附子とは
- キンポウゲ科トリカブト属(Aconitum)の塊根を加工したもの
- 有効成分はアコニチン系アルカロイド
- 漢方で用いる附子は加熱加工処理されており、生のトリカブトと比べて毒性が大幅に低減されている
- それでも薬理作用として強心作用・代謝促進作用・鎮痛作用が残る
なぜ動悸が起こるのか
附子のアコニチン系アルカロイドは、心筋のNaチャネルに作用して心拍を変化させる性質があります。微量であれば強心作用として働きますが、量が多すぎたり感受性が高い人では:
- 脈が速くなる(頻脈)
- 動悸を自覚する
- のぼせ感が出る
- 手足・口唇・舌のしびれが出る
これらは附子の作用が強く出ているサインで、一般に「附子の副作用(附子過量徴候)」と呼ばれます。
桂皮の関与
八味地黄丸に含まれる桂皮(シナモン)にも体を温めて血行を促進する作用があり、相乗的に動悸感を増幅することがあります。
添付文書に記載された副作用
ツムラ八味地黄丸料エキス顆粒(医療用)の添付文書には、以下の副作用が記載されています。
重大な副作用
- 間質性肺炎(発熱・咳・息切れ)
- 肝機能障害・黄疸
その他の副作用
- 過敏症:発疹、発赤、かゆみ
- 消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、便秘
- 循環器:動悸、のぼせ(← 今回のテーマ)
- その他:口唇のしびれ、舌のしびれ
動悸・のぼせ・しびれは、まさに「附子による副作用」の典型的な組み合わせです。
動悸が出やすい人の特徴
以下のような方は、八味地黄丸で動悸や熱感が出やすい傾向があります。
- もともと「実証」タイプ:ほてりやすい、顔色が赤い、体力が充実している
- 高齢で脱水傾向:血中濃度が上がりやすい
- 甲状腺機能亢進症:交感神経が亢進しているベースライン
- 頻脈性不整脈・心房細動の既往
- 抗不整脈薬を服用中:附子と相互作用の可能性
- カフェインやエナジードリンクを多飲
- 服用量が多い・服用頻度が想定より多い
逆に「虚証で冷えが強く、体温が低め」の方には附子が効きやすく、副作用も出にくい傾向があります。漢方は「証(体質)」に合うかどうかが非常に重要です。
動悸が出たときの対処
1. まず服用を一時中止
動悸がはっきり自覚される場合は、いったん服用をやめて様子を見るのが安全です。附子の作用は蓄積性ではなく、中止すれば数時間〜1日程度で自然に改善することがほとんどです。
2. 量を減らす・頻度を減らす
- 1日3包→1日2包に減量
- 1回1包→1回0.5包(半量)
- 毎食前→朝晩のみ、などに変更
量の調整だけで副作用が消え、効果は維持できることも多いです。
3. 附子を含まない漢方に切り替える
八味地黄丸から附子を抜いた処方として六味丸(ロクミガン、ツムラ87番)があります。冷えが軽い方、のぼせ体質の方にはこちらが向いていることも多いです。
- 六味丸(87番):附子・桂皮を抜いた6種類。腎虚はあるが熱証傾向
- 八味地黄丸(7番):附子・桂皮入り。腎虚+冷え
- 牛車腎気丸(107番):八味地黄丸+牛膝・車前子。下肢のむくみ・しびれが強いとき
4. 他の心疾患を除外
漢方の副作用ではなく別の病気としての動悸の可能性もあります。
- 甲状腺機能亢進症
- 心房細動・期外収縮などの不整脈
- 貧血
- カフェイン・アルコール・風邪薬(PL顆粒等)の影響
- 更年期障害・自律神経失調
服用中止で動悸が改善しない、または頻繁に出る場合は、心電図・採血(甲状腺・貧血)で一度評価しておくと安心です。
受診の目安
以下の症状があれば早めに医療機関にご相談ください。
- 服用中止しても動悸が続く
- 動悸+胸痛・息切れ・冷や汗・失神
- 脈がバラバラで不規則(心房細動の疑い)
- 動悸に加えて体重減少・手の震え・多汗(甲状腺機能亢進症の疑い)
- 舌のしびれ・手足のしびれが強い(附子過量の可能性)
- 発熱+咳+息切れ(間質性肺炎の可能性・重大副作用)
安全に服用するためのポイント
- 自己判断で量を増やさない:附子は量依存性の副作用がある
- 空腹時より食後が無難:消化器症状・急激な吸収を避けるため
- カフェイン・エナジードリンクの多飲は避ける:動悸が強く出やすい
- 他院・他科で処方中の漢方薬にも附子が入っていないか確認(重複投与で副作用増強)
- 加齢・脱水時は注意:高齢者は夏場の脱水と合わさると副作用が出やすい
- 長期服用時は定期的に血液検査(肝機能・電解質・間質性肺炎の早期検出)
他の「附子入り漢方」にも同じ注意
八味地黄丸に限らず、附子を含む漢方薬を服用する際はすべて同様の注意が必要です。
- 牛車腎気丸(107番):附子含有
- 真武湯(30番):附子含有、冷え+下痢
- 麻黄附子細辛湯(127番):附子+麻黄、こちらは動悸が出やすい
- 桂枝加朮附湯(18番):附子含有、関節痛
- 加工ブシ末(ツムラ):附子そのもの
漢方薬を複数飲んでいる方は、薬剤師・医師に「附子が重複していないか」一度確認するのがおすすめです。
よくある質問
Q. 市販の八味地黄丸でも動悸は出ますか?
はい、市販品にも附子は含まれているため、同様に動悸の副作用が出る可能性があります。市販薬の場合は成分量が医療用と異なることがあるので、用法用量を守り、症状が出たら中止してください。
Q. 動悸が出たらもう一生飲めない?
そうとは限りません。量を調整すれば問題なく服用できるケースは多いです。また、証(体質)が合っていれば附子を含まない六味丸に切り替えて同等の効果が得られることもあります。
Q. 高齢の親に処方されています。心配です。
高齢者では脱水や腎機能低下で附子の血中濃度が上がりやすいため、夏場や脱水時は特に注意が必要です。動悸・のぼせが出たら中止し、主治医に相談してください。
まとめ
- 八味地黄丸(ツムラ7番)で動悸が出ることは実際にあり、添付文書にも記載された副作用
- 原因の中心は附子(ブシ)。強心・代謝促進作用があり、量・体質によって動悸・のぼせ・しびれが出る
- 出たらまずは服用中止→減量 or 頻度調整→六味丸などへの変更を検討
- 甲状腺機能亢進症や不整脈の除外も併せて考える
- 附子入り漢方は他にもあるので、重複投与に注意
漢方薬は「副作用が少ない」と思われがちですが、生薬によっては明確な副作用があります。気になる症状があれば自己判断で続けず、処方医にご相談ください。