ぎっくり腰(急性腰痛)——多くは自然に良くなる経過、安静にしすぎないほうがよい理由、救急が必要な危険なサインと受診の目安を内科医が解説
朝晩が冷えこみ、衣替えや年末に向けた片付けを始める方もいる季節です。重い物を持ち上げた瞬間や、体をひねった拍子に腰に激しい痛みが走る——いわゆる「ぎっくり腰」は、こうした動作のときに起こることが多い一方、朝起きた直後や、何もしていないときに起こることもあります。
この記事では、日本整形外科学会・日本腰痛学会の「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」などをもとに、ぎっくり腰の多くがたどる経過、「安静にしすぎない」という考え方、そして骨折や内臓・血管の病気などが隠れているときの危険なサインと、受診の目安をまとめます。
ぎっくり腰とは——急に起こった強い腰の痛み
日本整形外科学会は、いわゆる「ぎっくり腰」を、急に起こった強い腰の痛みを指す一般的な呼び名(通称)で、病名や診断名ではないと説明しています。
痛みの原因はさまざまです。同学会は、腰の関節や軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかってけがをしたような状態(捻挫、椎間板損傷)や、腰を支える筋肉・腱・靱帯などの柔らかい組織(軟部組織)の損傷などが多いと考えられる、としています。
ガイドラインでは、腰痛を発症からの期間で次の3つに分けています。
- 急性腰痛:発症から4週間未満
- 亜急性腰痛:発症から4週間以上、3か月未満
- 慢性腰痛:発症から3か月以上
また、ガイドラインは、腰痛は「症状」を表す名前であって「病気の名前」ではないとしています。原因には、背骨やその周りの筋肉・関節だけでなく、神経、内臓、血管、心理的なものなども含まれます。
多くは自然に良くなる経過をたどります
ガイドラインは、急性腰痛の自然な経過について、自然に軽くなることが多く、おおむね良好とまとめています。
ガイドラインで紹介されている研究のまとめ(33の研究、計11,166人分)では、急性腰痛の痛みの点数(最大100点)は、平均52点から最初の6週間で23点へと大きく下がり、その後もゆるやかに改善が続いていました。
ただし、すべての方がすっきり治るわけではありません。ガイドラインは、慢性腰痛の経過は急性腰痛に比べて良くないこと、そして心理社会的な要因(「治らないのでは」という強い不安や、仕事・生活上のストレスなど)が腰痛を長引かせることも示しています。痛みが長引くときは、ひとりで抱えこまずに医療機関にご相談ください。
「安静にしすぎない」ほうがよいとされる理由
ぎっくり腰になると、「治るまでじっと寝ていたほうがよいのでは」と考える方も多いと思います。しかしガイドラインは、急性腰痛に対しては安静よりも活動性維持のほうが有用としています。
活動性維持とは、痛みの範囲で、ふだんの生活の動きをできるだけ続けることです。ガイドラインの検討では、急性腰痛では、ベッドの上で安静にするより活動性を維持したほうが、痛みの軽減と体の機能の回復の点で優っており、仕事を休む期間も短かったとされています。
一方で、坐骨神経痛(お尻から足にかけて響く痛みやしびれ)を伴う腰痛では、安静と活動性維持のあいだに明らかな差はないとされています。足に痛みやしびれがあったり、力が入らなかったりするときは、椎間板ヘルニアなどの病気の可能性もあるため、医療機関で原因を確かめてもらいましょう。
家庭で心がけたいこと
- 痛みが許す範囲で、食事や身の回りのことなど、ふだんの動きを続ける
- 中腰にならないなど、日常の姿勢に気をつける
- 痛みが落ち着いてきたら、腰を支える運動や体操を続ける(自分に合った内容は医療機関で相談する)
日本整形外科学会は、腰痛で日常生活が制限されると体力や腰を支える筋力が落ち、気持ちも落ち込むため、さらに腰痛が起きやすくなるという悪循環を指摘しています。ガイドラインでも、腰痛の予防に運動療法は有用とされています。
温める治療やコルセットなどについては、ガイドラインは、有用なものもあるものの質の高い研究は少なく、推奨される治療法は限られるとしています。また、コルセットには腰痛に対する直接的な予防効果はないとされています。痛み止めなどの薬は、痛みの軽減や機能の改善に有用とされていますが、市販薬を含め、薬の選び方は医師や薬剤師にご相談ください。
注意したい危険なサイン——骨折や内臓・血管の病気が隠れていることも
ぎっくり腰の多くは自然に良くなりますが、なかには重い病気が「腰の痛み」として現れていることがあります。ガイドラインは、腰痛の診察では、がん(悪性腫瘍)、感染、骨折などの重い背骨の病気を見逃さないよう、危険信号(レッドフラッグ)を念頭に置くことを求めています。ガイドラインが例として挙げる危険信号は次のとおりです。
- 発症した年齢が20歳未満、または55歳を超えている
- 時間や体の動きに関係のない腰痛(じっとしていても痛む)
- 胸の痛み
- がん、ステロイド治療、HIV感染の既往
- 栄養不良、体重減少
- 広い範囲に及ぶ神経の症状
- 背骨の変形
- 発熱
このほか、ガイドラインでは、重い外傷や打撲、高齢、ステロイドの長期使用が、背骨の骨折の手がかりとして取り上げられています。また、足のまひや、膀胱直腸障害(尿や便が出にくい・漏れる)を伴う腰の病気は、とくに見分ける必要がある重い状態とされています。
日本整形外科学会も、安静にしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化する、発熱している、足がしびれたり力が入らない、尿漏れがする、といった症状を伴う場合は、放置したり自分で管理したりせず、すみやかに受診するよう呼びかけています。
さらに、腰痛の原因が腰の外にあることもあります。ガイドラインと日本整形外科学会は、腹部大動脈瘤や解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石や腎盂腎炎などの腎臓・尿路の病気、子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎や十二指腸潰瘍などの消化器の病気を、腰痛の原因として挙げています。「ぎっくり腰だろう」と思っても、動きと関係なく痛む、胸や背中の痛みを伴う、熱がある、といったときは、自己判断で様子を見ないでください。
受診の目安
すぐに119番(救急車)を考えるとき
消防庁は、次のような症状を「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」として示しています。
- 胸や背中の突然の激痛、痛む場所が移動する
- 急な息切れ、呼吸困難
- 突然のしびれ、突然片方の腕や足に力が入らなくなる
- 突然の激しい腹痛、激しい腹痛が続く
- 冷や汗を伴うような強い吐き気
- 交通事故や転落、転倒で強い衝撃を受けた
- 意識がない、または様子がおかしい
救急車を呼ぶか迷うときは、救急相談窓口(#7119など)に相談できます。
様子をみずに、すみやかに医療機関を受診したいとき
- 安静にしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化している
- 発熱がある
- 足がしびれる、力が入らない
- 尿や便が出にくい、漏れる
- がんの治療を受けたことがある、ステロイドの治療を受けている
- 転倒や打撲などのきっかけがあった
- 体重が減ってきている
- 20歳未満、または55歳を超えてから強い腰痛が出た
様子をみながら、長引けば相談したいとき
上のようなサインがなく、少しずつ楽になっている場合は、痛みの範囲でふだんの生活を続けながら様子をみてください。急性腰痛は発症から4週間未満のものを指します。それを過ぎても痛みが続く、何度も繰り返す、生活や仕事に支障がある、というときは、整形外科や内科などの医療機関にご相談ください。
なお、ガイドラインでは、神経の症状を伴わない腰痛では、受診してすぐにレントゲン(X線)検査を行う必要は必ずしもないとされています。検査が必要かどうかは、問診と診察をもとに判断されます。
参考文献
- 日本整形外科学会・日本腰痛学会「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」(南江堂、2019年)
- 日本整形外科学会「ぎっくり腰」(症状・病気をしらべる)
- 日本整形外科学会「腰痛」(症状・病気をしらべる)
- 消防庁「救急車を上手に使いましょう~救急車 必要なのはどんなとき?~」(令和7年12月発行)
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