ギラン・バレー症候群の治療と回復——入院で何が行われ、どこまで治るのか。内科医が解説【シリーズ第3回】
シリーズ第1回では「疑うべき初期症状と、神経内科へ急ぐべき理由」を、第2回では仲間の病気「フィッシャー症候群」をお伝えしました。最終回の今回は、その先の話です。ギラン・バレー症候群と診断されたら、入院で何が行われるのか。どのくらいで、どこまで回復するのか。ご本人とご家族が長い治療と付き合っていくための見取り図を描きます。
最初にお断りしておくと、ここに書くのは一般的な経過です。実際の治療方針は重症度や進行速度によって大きく変わり、それを判断できるのは診療にあたる神経内科の主治医です。この記事は「主治医の説明を理解するための予習」としてお使いください。
入院直後——まず「呼吸」を守る
ギラン・バレー症候群の入院管理で、治療と同じくらい重視されるのが監視です。この病気は発症から2〜4週間ほどの間、麻痺が進行する可能性があり、進行のピークがどこで止まるかは初期には予測しきれません。
特に警戒するのは呼吸筋の麻痺です。そのため入院中は、呼吸の力(肺活量など)を繰り返し測定し、飲み込みの機能や、血圧・脈の乱れ(自律神経障害)もこまめに確認します。全体の1〜2割の方で一時的に人工呼吸器が必要になるため、重症例では集中治療室(ICU)で管理されることもあります。「ICUと聞いて驚いた」というご家族は多いのですが、これは悪化を見逃さないための体制であって、必ずしも「最悪の状態」を意味しません。
免疫治療——攻撃を止める2つの方法
免疫が神経を攻撃するのを止める治療として、確立しているのは2つです。
- 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg):健康な人の血液から作られた免疫グロブリンを、5日間ほど点滴します。日本で最も広く行われている治療です
- 血漿交換(血液浄化療法):血液中の、神経を攻撃している抗体などを機械で取り除く治療です
両者の効果はおおむね同等とされ、施設の体制や患者さんの状態で選択されます。どちらも発症から早期(目安として2週間以内)に始めるほど効果的とされており、これが第1回で「様子見禁止」と強調した理由です。なお、よく誤解されるのですが、この病気に通常のステロイド単独治療は効果がないことが分かっており、ガイドラインでも推奨されていません。
回復期——「治療のあと」が本番
免疫治療で攻撃が止まっても、傷ついた神経が修復されるには時間がかかります。回復の一般的なパターンは、数週間の進行期→数週間の停滞期(プラトー)→数か月〜1年以上かけての回復期です。
この回復期を支えるのがリハビリテーションです。急性期病院での治療が一段落したあと、リハビリ専門の病院(回復期リハビリテーション病棟)へ転院して、歩行や日常動作の訓練を続ける方も多くいます。「転院=見放された」ではなく、回復期には回復期の専門体制がある、という医療の分業です。
回復の見通しについて、正直にお伝えします。多くの方は1年以内に歩行できるまで回復します。一方で、一部の方には足のしびれ・筋力低下・疲れやすさが後遺症として残ることがあり、発症時に重症だった方、高齢の方、進行が非常に速かった方では回復に時間がかかる傾向があります。数字の上では厳しい話も含みますが、「どこまで戻るか」はリハビリの継続で変わる部分も大きい病気です。
ご家族と職場のために——回復を支える現実的な知識
- 回復は月単位です。数週間で結果を求めず、「先月できなかったことが今月できる」を指標に
- 疲労が強い時期が続きます。本人の「疲れた」は怠けではなく症状の一部です
- 復職・復学は段階的に。診断書を使って時短勤務などの調整を職場と相談する価値があります
- 再発はまれですが、症状がぶり返す・8週間を超えてゆっくり進行する場合は、CIDP(慢性型の別の病気)の可能性があり、主治医が判断します
- 医療費について: ギラン・バレー症候群の治療は高額になりますが、高額療養費制度の対象です。長期化する場合の支援制度も含め、病院の医療相談室(ソーシャルワーカー)に早めに相談してください
かかりつけ医としてできること
急性期・回復期の治療は神経内科と専門病院の領域です。当院のようなかかりつけの内科の出番は、その前後にあります。発症時に疑って即日つなぐこと(第1回)。そして退院後、風邪や生活習慣病などの日常の診療を引き受けながら、しびれの変化や再発を疑うサインがあれば、再び神経内科へ橋を架けること。専門医とかかりつけ医の分業が、この病気と長く付き合ううえでの安心につながると考えています。
シリーズ3回を通じて伝えたかったことは一つです。「日ごとに進む脱力は様子見禁止、行き先は神経内科」。この一文だけでも、覚えて帰ってください。
参考文献
- 日本神経学会「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」
- 難病情報センター「ギラン・バレー症候群」
- 厚生労働省 高額療養費制度の案内
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