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「卵が陽性」でも食べていい?——食物アレルギー血液検査(特異的IgE)の正しい読み方を内科医が解説

「検査で陽性が出た=食べられない」ではありません

外来でよくあるのが、こんな相談です。

  • 「健康診断のついでにアレルギー検査をしたら、卵と小麦が陽性でした。もう食べちゃダメですか?」
  • 「子どもの検査でいろいろ陽性。除去したほうがいいですか?」
  • 「ネットで申し込んだ検査で20品目もひっかかって不安です」

結論から言うと、血液検査で「陽性」が出ても、それだけで「食べられない」とは決まりません。実際に普通に食べられている人はたくさんいます。食物アレルギーの検査は、数字の大小だけで白黒つけられない、解釈がとても難しい領域です。本記事ではその理由を内科医の視点で整理します。

まず大前提——「感作」と「発症」は別物

食物アレルギーの血液検査(特異的IgE抗体検査、ImmunoCAP法など)で分かるのは、その食物に対するIgE抗体を持っているかどうかです。これを医学的には「感作(かんさ)」と呼びます。

  • 感作=体がその食物に反応する「抗体」を持っている状態(=検査が陽性)
  • 発症=実際に食べたときに、じんましん・かゆみ・腹痛・呼吸症状などの症状が出る状態

大事なのは、感作があっても発症するとは限らないということ。抗体を持っているだけで症状が出ない人は珍しくありません。

感作あり+症状あり → 食物アレルギー
感作あり+症状なし → 食物アレルギーとは診断されない

つまり「卵のIgEが陽性」というだけでは、食物アレルギーの診断にはならないのです。実際に卵を食べて症状が出るかどうか、という病歴(実際の経過)がいちばん大切です。

なぜ「陽性なのに食べられる」ことが起こるのか

  • IgE抗体を持っていても、症状を起こすほどの反応に至らない人がいる
  • 過去に感作されたが、その後耐性がついて食べられるようになっている(特に乳幼児期に多い)
  • 似た構造のタンパク質に交差反応して、実際の原因食物ではないのに陽性に出る(交差反応)
  • 花粉症があると、果物・野菜のIgEが陽性に出やすい(花粉‐食物アレルギー症候群と紛らわしい)

このため、「症状もないのに念のため測った検査」で陽性が出ると、かえって判断を迷わせることがあります。

「とりあえず全部測る」が危険な理由

検査会社のセットには「39項目」「View39」など、一度に多数の食物を測れるものがあります。便利に見えますが、症状と無関係な項目まで闇雲に測ると、解釈が難しくなるのが実情です。

  • 食べて何ともない食物まで「陽性」と出て、不要な不安を生む
  • その結果、本来は食べられる食品まで除去してしまう
  • 多品目の除去は、特に子どもで成長・栄養に悪影響を及ぼすおそれがある
  • 「陽性だから除去」を続けると、かえって耐性がつきにくくなる懸念も

現在の食物アレルギー診療の考え方は「必要最小限の除去」です。検査の陽性だけを理由に食べられるものを減らすのは、むしろ害になりえます。

数値(クラス)はどう読むのか

特異的IgEは「クラス0〜6」や測定値(UA/mL)で報告されます。ここで知っておきたいのは、

  • 数値が高いほど「症状が出る確率が高くなる傾向」はある
  • しかし「この数値以上なら必ず症状が出る/以下なら絶対大丈夫」という明確な線引きはできない
  • 食物の種類・年齢によって、症状と相関する数値の目安は変わる
  • 同じ数値でも、人によって食べられたり食べられなかったりする

数値はあくまで「確率を考える材料の一つ」であり、数値単独で食べられる量を決めることはできません

本当の答え合わせ——食物経口負荷試験

「実際に食べられるかどうか」を確かめる最も確実な方法が、食物経口負荷試験です。

  • 医療管理下で、原因と疑う食物を少量から段階的に食べてみて、症状が出るかを確認する
  • 食物アレルギー診断のゴールドスタンダード(最も信頼できる方法)
  • 「除去すべきか」「どのくらいなら食べられるか」を実際の反応で判断できる
  • アナフィラキシーのリスクがあるため、専門の医療機関・体制下で行うのが原則

血液検査はこの負荷試験の「補助」として使うのが本来の位置づけです。検査だけで完結するものではありません。

【重要】IgG(アイジージー)食物抗体検査にご注意を

インターネットや一部の自由診療で「遅延型フードアレルギー検査」「IgG食物過敏検査」として宣伝されている検査があります。これは特異的IgE検査とは別物で、日本アレルギー学会が明確に注意喚起している検査です。

日本アレルギー学会は2015年(平成27年)2月、「血中食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しない」とする見解を発表しています。理由は次のとおりです。

  1. IgG抗体は健常な人にも存在する——アレルギーがない人でも普通に持っている抗体
  2. 負荷試験の結果と一致しない——実際に食べられるかどうかと噛み合わない
  3. 単に食べた量を反映しているだけ——よく食べる好物ほど数値が高く出る
  4. 健康被害のおそれ——陽性を理由に多品目を除去すると、栄養障害など健康被害を招きうる

米国・欧州のアレルギー学会、日本小児アレルギー学会も同様に診断的有用性を否定しています。「好きでよく食べているもの」ほど陽性に出やすく、それを除去してしまうという本末転倒が起こりかねません。IgG検査の結果を根拠に食事を制限するのは避けてください。

では、どう検査と付き合えばいいか

  • まず症状の有無と経過(病歴)が最優先。何を食べて、どのくらいで、どんな症状が出たか
  • 検査は「疑わしい食物に絞って」測るのが基本。症状と無関係な項目を網羅的に測らない
  • 陽性でも、食べて症状がなければ除去しないのが原則
  • 判断に迷う場合や除去解除を目指す場合は、食物経口負荷試験ができる専門施設へ
  • IgG(遅延型)検査の結果で食事制限をしない

こんなときは医療機関へ

  • 特定の食物を食べると、毎回じんましん・かゆみ・腹痛・嘔吐・咳・呼吸困難が出る
  • 食後に唇や喉の違和感、声がれ、息苦しさが出たことがある(アナフィラキシーの可能性)
  • 運動と組み合わさったときだけ症状が出る(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)
  • 「検査が陽性だから」と自己判断で多くの食品を除去している
  • 子どもの成長・栄養が心配な除去をしている
  • ネット検査やIgG検査の結果で不安になっている

とくに、過去にアナフィラキシー(全身の強いアレルギー反応)を起こしたことがある方は、自己判断の負荷試験は危険です。必ず医療機関にご相談ください。

よくある質問

Q. 健診のオプションでアレルギー検査が陽性。除去すべき?

症状なく食べられているものなら、陽性というだけで除去する必要は基本的にありません。実際に食べて症状が出るかどうかが判断の中心です。心配な場合はご相談ください。

Q. 数値(クラス)が高ければ重症ということ?

数値が高いほど症状が出やすい傾向はありますが、絶対ではありません。数値だけで重症度や食べられる量は決まりません。実際の症状とあわせて判断します。

Q. 子どもの卵アレルギー、ずっと除去が必要?

乳幼児期の卵・乳・小麦アレルギーは、成長とともに食べられるようになることが多い食物です。漫然と除去を続けず、適切な時期に専門機関で負荷試験を検討するのが望ましいです。

Q. ネットで申し込めるIgG検査、受けてもいい?

食物アレルギーの診断目的としては推奨されません(日本アレルギー学会の注意喚起)。結果を根拠に食事制限をすると、不要な除去や栄養障害につながるおそれがあります。

Q. 花粉症があると果物がかゆいのもアレルギー?

花粉と果物・野菜のタンパク質が似ているために起こる「花粉‐食物アレルギー症候群」の可能性があります。口の中の症状が中心ですが、まれに強い反応が出ることもあるため、気になる場合は受診を。

まとめ

  • 食物アレルギーの血液検査(特異的IgE)が分かるのは「感作」であって、「食べられない」ことではない
  • 感作あり+症状ありで初めて食物アレルギー。陽性でも食べられる人は多い
  • 症状と無関係な項目まで闇雲に測ると、不要な除去・栄養障害を招く
  • 数値(クラス)は確率の目安にすぎず、単独で食べられる量は決められない
  • 本当の答え合わせは食物経口負荷試験(専門施設)
  • IgG(遅延型)食物抗体検査は学会が注意喚起。結果で食事制限をしない
  • 迷ったら自己判断で除去せず、医療機関へ

当院でも、症状・経過を伺いながら、必要な範囲での検査の解釈や、専門医療機関(負荷試験ができる施設)へのご紹介を行っています。「検査が陽性で不安」「除去すべきか分からない」という方は、お気軽にご相談ください。

※本記事は日本アレルギー学会の見解および食物アレルギー診療の手引き等を踏まえた一般的な解説です。実際の診断・治療は個別の状況により異なります。具体的な対応は医療機関での評価を受けてください。

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