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豪雨災害のあとに危ない病気とけが——浸水後の片付け・避難所生活・車中泊の注意点を内科医が解説

今年も各地で記録的な大雨が相次いでいます。豪雨災害では、水が引いたあとにこそ健康被害の本番が来ます。浸水した家の片付けで負うけが、汚水による感染症、そして避難所や車中泊での体調悪化——災害のあとに内科の外来で実際に問題になるのは、こうした「二次的な健康被害」です。ポイントを一気に整理します。今まさに片付けや避難生活に直面している方は、目次代わりに見出しだけでも拾ってください。

浸水後の片付け——「小さな傷」を甘く見ないでください

浸水した水は、ただの雨水ではありません。下水や泥が混ざっており、細菌だらけと考えてください。この水に触れながらの片付けでは、小さな傷が思わぬ感染につながります。

片付けの装備

  • 厚手のゴム手袋・長靴・長袖長ズボン——肌を出さないことが第一の防御です
  • 釘やガラス片の踏み抜き防止に、底の厚い靴を。サンダル・素足は厳禁です
  • 泥が乾くと粉塵が舞います。マスク(できれば不織布以上)とゴーグルを。乾いた泥やエアコン・給湯器周りの作業では、レジオネラ菌などを吸い込む肺炎のリスクが知られています

傷ができてしまったら

  • すぐに流水と石けんでよく洗う。汚水に触れた傷は「洗いすぎ」くらいでちょうどよいです
  • 次の場合は受診してください: 深い傷・釘の踏み抜き・汚れが取り切れない傷/傷の周りが赤く腫れて熱を持ってきた/発熱を伴う
  • 破傷風は土や泥の中の菌が傷から入って起こります。最後の破傷風ワクチン接種から10年以上たっている方(多くの成人が該当します)は、汚染された傷を負ったら追加接種(トキソイド)を検討しますので、受診時にお伝えください

また、汚水や泥に長時間触れたあとの発熱・筋肉痛・目の充血は、レプトスピラ症など水系の感染症のことがあります。「片付けの疲れ」と思い込まず、数日以内の発熱は受診時に「浸水後の作業をした」と必ず伝えてください。この一言で医師の考える範囲が変わります。

水と食べ物——停電・断水時の食中毒

  • 停電した冷蔵庫の食品は、真夏なら数時間で危険域に入ります。「もったいない」が食中毒の入り口です。迷ったら捨ててください
  • 浸水した食品・調理器具は使わない。パッケージが無事に見えても、水に浸かった飲食物は廃棄が原則です
  • 断水時の生活用水と飲み水は区別を。浸水後の井戸水は検査までは飲用にしないでください
  • 手洗いができない環境では、アルコール手指消毒と使い捨て手袋を活用。調理前・食事前・トイレ後だけは最優先で手を清潔に

避難所・車中泊で起こりやすいこと

いちばん怖いのは車中泊の血栓(エコノミークラス症候群)

過去の災害で死亡例が繰り返し報告されているのが、車中泊による深部静脈血栓症です。狭い座席で眠り、トイレを控えて水分を減らす——血栓ができる条件がすべてそろいます。

  • 水分を我慢しない(トイレを気にして飲まないのが最悪のパターンです)
  • 数時間ごとに車の外に出て歩く。座ったままでも足首の上下運動
  • できれば足を伸ばして眠れる場所を確保。弾性ストッキングも有効です
  • 片脚だけの腫れ・痛み、突然の息切れや胸痛は血栓のサインです。すぐに医療機関へ(救急要請をためらわないでください)

感染症——「密」になる避難所では

避難所では胃腸炎や呼吸器感染症が広がりやすくなります。折しも今年は真夏としては異例のインフルエンザの増加が全国で報告されており、夏だからと油断できません。手洗い・咳エチケット・可能な範囲の換気が基本です。発熱や嘔吐・下痢が出た方は、可能なら他の避難者と距離をとり、運営スタッフに早めに申し出てください。

真夏の避難生活は熱中症と隣り合わせ

停電でエアコンが使えない自宅、日中の体育館、炎天下の片付け作業——いずれも熱中症の高リスク環境です。片付けは朝夕の涼しい時間帯に、こまめな休憩と水分・塩分補給(経口補水液が理想)を。高齢の方は暑さや喉の渇きを感じにくいため、周囲が時間を決めて声をかけてください。

動かないことも病気になる——生活不活発

特にご高齢の方では、避難生活で座ったまま・寝たままの時間が続くと、数日で足腰が弱り、そのまま要介護状態に進んでしまうことがあります(生活不活発病)。1日に数回、意識して立ち上がって歩く。散歩や軽い体操を「日課」にすることが、避難生活では立派な治療です。

持病のある方——薬を切らさないことが最優先

  • 避難時はお薬手帳(なければスマホで薬の写真)を持ち出しを。これがあれば避難先の医療機関でも処方をつなげます
  • 薬が流されてしまった・残りが少ない場合は、切れる前に医療機関や避難所の救護班に相談してください。災害時は柔軟な対応の仕組みがあります
  • 血圧・血糖は、ストレス・睡眠不足・食事の変化で普段より乱れやすくなります。測定できる方は記録を続けてください
  • 在宅酸素やインスリンなど、電源・冷所保存が必要な治療をしている方は、停電時の対応を早めに救護班・かかりつけに相談を

心と眠り

災害後は誰でも眠れなくなり、気持ちが張り詰めます。それは異常な状況への正常な反応です。ただ、不眠や強い不安が2週間以上続く、動悸や食欲不振が取れないという場合は、我慢せず医療機関や避難所の保健師に相談してください。体の病気と同じように、対処の方法があります。

受診の目安まとめ

  • 傷の周りの赤み・腫れ・発熱/深い傷・踏み抜き(破傷風の予防接種歴もご確認を)
  • 浸水後の作業のあとの発熱・筋肉痛・咳
  • 嘔吐・下痢が続く、水分がとれない
  • 片脚の腫れ・痛み、突然の息切れ・胸痛(血栓のサイン——救急要請を)
  • 持病の薬が切れそう・すでに切れた

災害のあとの体調変化は、「これくらいで受診していいのか」と迷いがちですが、迷ったら相談してください。片付けや避難生活の状況を伝えていただくだけで、診断の精度は大きく変わります。どうかご無事で。

参考文献

  • 厚生労働省「被災地での健康を守るために」
  • 日本環境感染学会「水害時の感染症予防」関連資料
  • 日本循環器学会ほか「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」
  • 環境省「熱中症環境保健マニュアル」

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