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インフル・コロナ陰性なのに39度の発熱が続く——2026年初夏、外来で増えている発熱性気道感染を疫学から考える

外来で増えている、ある「パターン」

2026年6月に入ってから、当院の発熱外来で次のような患者さんが目立って増えています。

  • 39度前後の高熱が数日続く
  • 咳・喉の痛み・鼻汁など気道症状はある
  • インフルエンザ・新型コロナの抗原検査は陰性
  • 全身状態は比較的保たれている
  • 聴診で明らかな肺炎所見も乏しい
  • 「ただの風邪と言うには熱が高すぎる」と感じる経過

同じような印象を持っている内科医・小児科医は全国に少なくないようで、SNS上の医療者コメントや各地の感染症情報からも、同じ傾向が読み取れます。

本記事では、この「インフル・コロナ陰性なのに39度の発熱が続く」患者像について、2026年初夏の最新疫学とあわせて鑑別を整理します。

最新の疫学——ARIサーベイランスが見せる風景

2025年4月、急性呼吸器感染症(ARI: Acute Respiratory Infection)が感染症法上の5類感染症となり、全国の定点医療機関で患者数と病原体検索の集計が始まりました。これまでインフル・コロナ・RSV単独で見ていた風景が、より広い帯域で可視化されています。

  • 2026年第19週時点で、ARIの全国定点あたり報告数は36.32人/定点と高水準
  • 地域差はあるものの、関東を中心に高い値が報告されている
  • 含まれる病原体はインフル・新型コロナ・RSウイルス・ヒトメタニューモウイルス(hMPV)・パラインフルエンザ・アデノ・ライノ・季節性コロナ(OC43/HKU1など)・マイコプラズマなど
  • 2026年3月以降、複数地域のサーベイランスでhMPVと季節性コロナの検出が増加
  • 2026年5月以降、西日本を中心に話題になった「謎の風邪」の一連の事例も、このスペクトラムの中に位置付けられる

つまり「インフル・コロナだけ測ってもよく分からない」現象は、現場の体感と疫学の集計の両方が示しています。

鑑別に挙げたいウイルス・微生物

① ヒトメタニューモウイルス(hMPV)

  • 例年3〜6月に流行する季節性ウイルス
  • 2025年に中国での流行が報じられ、その後日本でも認知度が上昇
  • 成人では発熱・咳・喘鳴・倦怠感が中心
  • 高齢者・基礎疾患保有者では下気道炎・肺炎を起こすことがある
  • 迅速抗原検査自体は存在するが、保険適用は小児が中心で、成人の外来診療では使いにくい
  • 当院では現在実施しておらず、症候・経過・周囲流行から推定するのが現実的

② パラインフルエンザウイルス(HPIV)

  • 1〜4型まで存在し、季節性に流行
  • 小児ではクループ、成人でも上下気道炎を起こす
  • 高熱・強い咽頭痛を伴うことが珍しくない
  • 商業的な迅速抗原検査が普及しておらず、外来では症候性に推定する病原体

③ 季節性コロナウイルス(OC43・HKU1・NL63・229E)

  • 新型コロナ(SARS-CoV-2)とは別の旧来のコロナ4種
  • 新型コロナの抗原検査では検出されない
  • 2026年3月以降、複数地域のARIサーベイランスで検出が増加
  • 成人で高熱を出すケースもあり、見た目はインフル様
  • 外来で実施可能な迅速検査はなく、症候性に推定

④ アデノウイルス

  • 高熱(時に40度近く)が数日続く
  • 咽頭発赤が強い、扁桃白苔、結膜炎を伴うこともある
  • 咽頭結膜熱(プール熱)が代表だが、成人でも単純咽頭炎・気道炎として現れる
  • 迅速抗原検査は保険適応上は成人でも算定可能で、小児科・耳鼻科を中心に普及している
  • 当院では現在、抗原検査は実施していない。強く疑うときは症候・経過と他疾患の除外で対応するか、検査体制のある医療機関へ紹介

⑤ ライノ・エンテロウイルス系

  • 「夏風邪」「夏型感冒」の主因の一つ
  • 本来は鼻汁優位の軽症が多いが、株や宿主条件で高熱を出すことがある
  • 同系列のエンテロウイルスは手足口病・ヘルパンギーナの原因でもあり、6月以降に増加する

⑥ マイコプラズマ肺炎

  • 2024年から大流行→2025年中盤に一旦減少→以降は増減を繰り返しながら持続
  • 2026年に入っても定点報告は一定数で推移
  • 頑固な咳、発熱、軽度のCRP上昇、聴診や胸部画像所見が乏しいことが多い
  • マクロライド耐性株(耐性マイコプラズマ)の全国的な拡大が報告されており、第一選択の効きが悪い症例が増えている(AMR臨床リファレンスセンターも警鐘)
  • 耐性が疑われればテトラサイクリン系(ミノマイシン等)を検討
  • 当院ではマイコプラズマ抗原検査を実施しており、症状と経過から疑った場合に行う

⑦ 百日咳(成人発症)

  • 2025年の全国届出数が約8.9万件と全数把握開始(2018年)以降最大
  • 主に10代と1〜9歳が中心だが、成人例も一定数
  • 初期は普通感冒と区別しにくく、発熱は軽いことが多い一方、後期に長期間の咳が残る
  • マクロライド耐性株が出現しており、治療選択も再考のフェーズ
  • 「2週間以上長引く咳・夜間悪化・嘔吐を伴う咳」を見たら鑑別に上げる

⑧ そのほか

  • RSウイルス(成人・高齢者でも気道症状を起こす。当院では迅速抗原は未導入)
  • EBウイルス・サイトメガロウイルス(若年者の長引く咽頭炎・倦怠感)
  • 溶連菌(A群はキットあり。ただし発熱+咽頭発赤すべてが溶連菌ではない)

「細菌感染らしくない」と感じる根拠

外来で「これは細菌感染ぽくない」と感じる場合、内科医は次のような要素を統合的に見ています。

  • 全身状態が比較的保たれている(食事・水分が取れている、ぐったり感が強くない)
  • 解熱期と発熱期を繰り返しつつ自然軽快傾向
  • 聴診で明らかな副雑音がない、SpO2が保たれている
  • 家族・職場で同様の高熱症状が複数
  • 採血を行えば、CRPの上昇が高熱の割に軽度、白血球の極端な変動が乏しい

もちろん例外もあり、画像で初期肺炎が隠れているケース、菌血症の初期、レジオネラ、結核、心内膜炎、薬剤熱、膠原病、悪性疾患などは慎重に除外する必要があります。「細菌感染ぽくない」は診療経過の中で何度も検証していくべき作業仮説です。

多くは「経過観察+セルフケア」で十分

風邪症状全般がそうですが、インフル・コロナ陰性で全身状態が落ち着いていれば、追加検査をせずに経過を見るのが基本です。実際の外来でも、

  • バイタル(体温・脈・血圧・SpO2)
  • 聴診・咽頭所見
  • 問診(経過、家族・職場の流行、基礎疾患)

でほぼ方針は決まり、採血や画像、追加の迅速検査までは必要としないケースが大半です。「検査で病名を確定させる」ことよりも、重症化しそうな兆候があるかないかを見極めるのが外来の役割です。

検査を「足すかどうか」を決める基準

次のような条件があれば、はじめて採血・画像・追加迅速検査を検討します。

  • 39度台が3日以上続く/解熱と発熱を繰り返し悪化傾向
  • SpO2低下・呼吸困難・聴診で副雑音
  • 強い倦怠感・脱水・食事摂取困難
  • 持病あり(喘息・心疾患・糖尿病・免疫抑制中)、妊娠中、高齢
  • 2週間以上長引く咳(マイコプラズマ・百日咳の評価)
  • 強い咽頭発赤・扁桃白苔・結膜症状(アデノ・溶連菌を疑うとき)

逆に、これらの所見がなければ、抗原検査も含めて測らない判断もごく普通です。「測れるからこそ、測らない選択を意識する」のが、過剰検査・過剰医療を避ける外来診療の姿勢でもあります。

受診の目安

  • 3日以上39度近い発熱が続く
  • 解熱剤を使っても下がりにくい、効果が短い
  • 呼吸が浅い・速い、息切れ、SpO2低下
  • 水分が取れない、ぐったりしている
  • 強い喉の痛みで飲み込めない
  • 胸の痛み、強い倦怠感、意識がぼーっとする
  • 2週間以上長引く咳、夜間〜未明の発作性の咳、嘔吐を伴う咳(百日咳の可能性)
  • 持病(喘息・心疾患・糖尿病・免疫抑制中)がある
  • 高齢者、乳幼児、妊娠中

「ただの風邪」と判断するのは、こうしたサインがないこと、消化器も含めて全身状態が悪化しないことを確認したうえでの結論です。

家庭でできる対処

  • 水分・電解質補給(経口補水液・スポーツドリンクを薄める)
  • 解熱剤はアセトアミノフェンを基本に
  • 湿度50〜60%を保ち、暑さでこじらせない
  • 家族内感染対策(マスク・タオル分け・換気)
  • 食事は無理せず消化のよいものから

急性期に無理に出勤・登校を再開すると治りが悪く、二次感染(細菌性肺炎・中耳炎・副鼻腔炎)の引き金にもなります。解熱から24時間程度は様子を見るのが原則です。

当院での対応

  • 症候・周囲流行・年齢・基礎疾患からの鑑別整理
  • 院内で実施可能な迅速抗原検査:インフルエンザ・新型コロナ・A群溶連菌・マイコプラズマ抗原
  • 必要に応じて採血・胸部X線(全身状態が悪い/長引く/重症化リスクが高いとき)
  • マイコプラズマ・百日咳の疑いには適切な抗菌薬と検査
  • 呼吸状態が悪い/重症化リスクが高いケースの専門医療機関紹介
  • 5類化されたARIサーベイランスの動向を踏まえた診療

※当院ではアデノウイルス・RSウイルス・ヒトメタニューモウイルスの迅速抗原検査は現在実施していません。強く疑う場合は症候と経過から推定するか、検査体制のある医療機関へご紹介します。

よくある質問

Q. インフルもコロナも陰性なら家で休んでいれば治りますか?

全身状態が良ければ多くは経過観察で改善します。ただし39度が3日以上続く、呼吸状態が悪い、咳が2週間以上続く、強い倦怠感がある場合は受診を。隠れた肺炎・マイコプラズマ・百日咳・他疾患の可能性があります。

Q. 「謎の風邪」と一緒の話ですか?

2026年5月の「謎の風邪」騒動も、おそらく同じ呼吸器ウイルス群が背景にあると考えられます。未知の新型ウイルスというより、従来からあるウイルスがこの時期にまとめて流行していると理解する方が現実的です(既存記事:結局「謎の風邪」とは何だったのか)。

Q. hMPVやアデノの検査はうちで受けられますか?

当院ではhMPV・アデノ・RSの迅速抗原検査は現在実施していません。臨床経過と他疾患の除外で対応します。検査体制のあるクリニック(小児科・耳鼻科など)へご紹介する場合があります(参考:ヒトメタニューモウイルス(hMPV)成人の症状・検査・治療)。

Q. 抗菌薬は出してもらえますか?

ウイルス感染症に抗菌薬は効きません。マイコプラズマ・百日咳・細菌性肺炎・中耳炎・副鼻腔炎などが疑われる場合に限って、適切な薬剤を選択します。マイコプラズマや百日咳ではマクロライド耐性株への配慮も必要です。

Q. 周囲で同じような患者が増えています、職場でどう対応すれば?

マスク・手洗い・換気の基本対策に加え、発熱中・解熱から24時間以内の出勤は避けるよう周知することが現実的です。インフル・コロナ陰性でも他の呼吸器ウイルスを伝播させる可能性は十分あります。

まとめ

  • 2026年6月、インフル・コロナ陰性で細菌感染らしくない高熱性気道感染が外来で目立つ
  • ARIサーベイランスは2026年第19週で全国定点36.32と高水準
  • 鑑別に挙げたい主役はhMPV・パラインフルエンザ・季節性コロナ・アデノ・マイコプラズマ・百日咳
  • マイコプラズマと百日咳はマクロライド耐性株の拡大が話題
  • 多くは問診・診察・バイタルで方針が決まり、採血・画像・追加検査は条件付き
  • 3日以上の高熱、呼吸状態の悪化、長引く咳、基礎疾患保有者は受診を

当院では症状と経過を丁寧に伺いながら、必要な範囲で迅速検査・採血・画像を組み合わせて鑑別を進めます。インフル・コロナ陰性でも「これは少し違う」と感じる発熱は、迷わずご相談ください。

※本記事は2026年6月時点で公開されている公的サーベイランス情報、医療者向け報告等を踏まえた内科外来からの考察記事です。臨床判断は個別の状況により異なります。具体的な体調については医療機関での評価を受けてください。

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