高齢の方の転倒——家の中で多い実態、冬と夜間のトイレの注意、転びやすくなる要因、住まいの対策、頭を打ったときや脚の付け根が痛むときの受診の目安を内科医が解説
11月に入り、朝晩の冷え込みを感じる日が増えてきました。高齢の方の転倒は、外出先だけでなく、住み慣れた家の中でもたくさん起きています。転んだときに頭を打ったり、太ももの付け根の骨を折ったりすると、その後の暮らしに大きく響くことがあります。この記事では、公的機関や学会の資料をもとに、家の中で起きる転倒の実態、冬や夜間に気をつけたいこと、転びやすくなる要因、家の中でできる対策、転んだ後の受診と救急の目安をまとめました。
転倒は家の中で多く起きています
東京消防庁によると、東京消防庁管内で令和6年に「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者(65歳以上)は73,500人でした。発生場所は「住宅等居住場所」が最も多く、42,180人です。そのうち屋内での発生が39,053人で、9割以上を占めています。
住まいの中で「ころぶ」事故が多かった場所は、次の順でした。
- 居室・寝室:29,783人
- 玄関・勝手口など:3,900人
- 廊下・縁側・通路:2,653人
- トイレ・洗面所:1,229人
- 台所・ダイニングなど:1,079人
「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者の約4割は、入院が必要な「中等症」以上と診断されています。また、令和6年に「落ちる」事故で救急搬送された高齢者は8,719人で、原因として最も多かったのは「階段」でした。
全国の数字では、消費者庁が厚生労働省の「人口動態調査」をもとに、2021年に「転倒・転落・墜落」で亡くなった65歳以上の方は9,509人で、「交通事故」で亡くなった高齢者(2,150人)よりはるかに多いとまとめています。
消費者庁に寄せられた、高齢の方が自宅で転倒した事故の情報では、けがは「頭」「顔・首」のすり傷や打撲などが多く、次いで「脚・足」の骨折が多くみられました。骨折した場合に入院が必要になった高齢の方は76%でした。
冬と夜間に気をつけたいこと
消費者庁は、年末年始は寒さに加えて、帰省や会食、大掃除など普段と違う行動が多くなる時期だとして、高齢の方の事故に注意を呼びかけています。その中で、掃除中・除雪中の転倒・転落事故などは、冬季に救急搬送が増えるとしています。東京消防庁のデータ(平成29年から令和3年)では、掃除中の事故で救急搬送された人は、大掃除の多い12月に最も多く、事故の種類では「ころぶ」が4割以上でした。
消費者庁が挙げている冬のポイントは、次のとおりです。
- 滑りやすい場所で掃除をするときは転倒に注意し、足場が濡れていたら先に拭き取る
- 年齢や体力を考えて、無理な作業は控える
- 脚立やはしごを使う高い所の作業はできるだけ控える。踏み台などを使う作業も安定した場所で行う
- 除雪作業は無理をせず、二人以上で行う
夜間については、消費者庁が「寝起きや夜間のトイレなどで、ベッドから起き上がるときや体勢を変えるときは慎重に」と呼びかけています。また、段差や溝、滑りやすい床などの危ない所を「明るく照らす」「色を変える」「しるしを貼る」といった、目立たせる工夫も勧めています。
転びやすくなる要因
消費者庁は、転倒・転落の主な原因として、次のようなことを挙げています。
- 加齢に伴う体の変化(筋力や視力・聴力の低下など)
- 認知機能の低下
- 日ごろの運動不足
- 病気や薬の影響
これらによって、体のバランスを取ることや、とっさの対応が難しくなるとしています。消費者庁は、高齢になると寒さや暑さを感じにくい一方で、血圧を正常に保ちにくくなるといった体の変化も挙げています。
筋力の低下については、厚生労働省のe-ヘルスネットが「サルコペニア」(年齢とともに筋肉の量が減り、筋力や体の機能が落ちた状態)を説明しています。サルコペニアになると、立ち上がりや歩くことがだんだんおっくうになり、放っておくと歩くことが難しくなることもあるとされています。
骨の弱さも、転んだときのけがの重さにかかわります。日本整形外科学会は、骨粗鬆症(骨がもろくなる病気)になっても痛みはないのが普通ですが、転ぶなどのちょっとしたはずみで骨折しやすくなると説明しています。
お薬を飲み始めてから、ふらつきや眠気が気になるときは、処方を受けた医療機関や薬局にご相談ください。
家の中でできる対策
消費者庁と東京消防庁は、家の中での転倒を防ぐポイントとして、次のようなことを挙げています。
- 床まわりを片付ける:床に物を置かない。電源コードは通り道にかからないよう、壁に沿わせる。床が濡れていたら拭く
- 段差を目立たせる:テープなどを貼って段差に気付きやすくする。段差や滑りやすい床を明るく照らす
- 手すりと滑り止め:段差のある所や階段、玄関に手すりや滑り止めを付ける。浴室や脱衣所には滑り止めマットを敷く
- 動作はゆっくり:立ち上がるときは近くの物につかまる。着替えるときは腰をかけて行う。ベッドから起き上がるときや体勢を変えるときは慎重に
体の機能を保つことも大切です。消費者庁は、個人に合った適度な運動を続けることを勧めています。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」の高齢者向けの推奨シートでは、筋力・バランス・柔軟性などを組み合わせた「多要素な運動」を週3日以上、筋力トレーニングを週2〜3日行うことが勧められています。多要素な運動を中心とした運動プログラムでは、転倒のリスクが12〜32%低くなったと紹介されています。ただし、特に体の機能が落ちている方は、安全に配慮し、転倒などに注意することとされています。
転んだ後の受診と救急の目安
ためらわず119番をしてほしいとき
消防庁は「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」として、次のようなものを挙げています。
- 交通事故や転落、転倒で強い衝撃を受けた
- 意識がない(返事がない)、またはおかしい(もうろうとしている)
- 突然の激しい頭痛
- 急にふらつき、立っていられない
- 顔半分が動きにくい、しびれる。ろれつがまわりにくい。突然、片方の腕や足に力が入らなくなる
- けいれんが止まらない
- 冷や汗を伴うような強い吐き気
- 大量の出血を伴うけが
消防庁は、高齢者は自覚症状が出にくい場合もあるので注意するよう添えています。119番をするか迷うときは、救急相談窓口(#7119など)に相談するよう案内されています。
頭を打ったとき
日本脳神経外科学会などが作成している「Neuroinfo Japan」によると、頭のけがで脳の表面に血のかたまりができる急性硬膜下血腫では、はじめは意識が比較的しっかりしていても、血のかたまりが大きくなって神経の症状が急に悪くなる場合があります。頭を打った後は、ご本人が「大丈夫」と言っていても、周りの方も様子が変わらないかを見守ってください。上の救急のサインが出たら、迷わず119番をしてください。
また、慢性硬膜下血腫は、主に頭のけがが原因で、軽いけがの3週間から3か月後に血のかたまりができ、少しずつ大きくなって脳を圧迫する病気です。はじめの症状は頭痛が多く、続いて手足のまひや意識の障害がみられます。高齢の方では、物忘れや性格の変化で見つかる場合があるとされています。高齢の方の抗血栓療法(血液を固まりにくくする治療)や飲酒は、リスクと考えられています。
転んで頭を打ってから数週間から3か月ほどのあいだに、頭痛が続く、片方の手足に力が入りにくい、物忘れが増えた、性格が変わったように見える、といった変化があれば、早めに医療機関を受診してください。
脚の付け根が痛いとき(大腿骨頸部骨折のサイン)
日本整形外科学会によると、大腿骨頸部骨折(太ももの骨の付け根の骨折)では股関節部(脚の付け根)に痛みがあり、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなります。高齢の方が転んだりした後に立てなくなったら、まずこの骨折を考えるとされています。
骨粗鬆症がある場合は、ちょっと脚をひねったぐらいでも起こることがあります。何日か前から脚の付け根を痛がっていたのに、ある時急に立てなくなった、という経過もよくあると説明されています。また、骨盤のひび(亀裂骨折)では、多くの場合なんとか歩けるとされています。歩けるから骨折ではない、とは言い切れません。
転んだ後に脚の付け根や腰、手首などの痛みが続くとき、痛みで動きにくいときは、我慢せずに医療機関を受診してください。転んで立てない、強い衝撃を受けたというときは、ためらわず救急車を呼んでください。
参考文献
- 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」(2026年3月5日更新)
- 東京消防庁 リーフレット「ころんで救急搬送、実は、こんなに多い!」(令和5年中のデータ)
- 消費者庁「10月10日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう!―転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています―」(2020年10月8日)
- 消費者庁「高齢者の事故を防ぐために」
- 消費者庁「年末年始に増加する高齢者の事故に注意しましょう!―浴室での溺水事故、餅による窒息事故、掃除中・除雪中の転倒・転落事故等に注意―」および別添「高齢者の事故に関するデータとアドバイス等」(2022年12月27日)
- 消費者庁「令和5年版消費者白書」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:高齢者版」(2024年3月19日更新)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「サルコペニア」(2024年1月30日更新)
- 日本整形外科学会「症状・病気をしらべる 大腿骨頚部骨折」
- 日本整形外科学会「症状・病気をしらべる 骨粗鬆症(骨粗しょう症)」
- 日本脳神経外科学会・日本脳神経外科コングレス「Neuroinfo Japan 急性硬膜下血腫」「Neuroinfo Japan 慢性硬膜下血腫」
- 消防庁「救急車を上手に使いましょう~救急車 必要なのはどんなとき?~」(令和7年10月発行)
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