真夏の避難生活で気をつけたい健康被害——熱中症・エコノミークラス症候群・持病の薬を内科医が解説
2026年7月28日、熊本県で最大震度7(マグニチュード7.1)の地震が発生しました。被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。
地震のあとは、揺れによるけがだけでなく、そのあとの避難生活によって体調を崩す方が増えます。とくに今回は真夏で、停電や断水が起きている地域もあります。この記事では、避難生活で起こりうる健康被害と、その予防・受診の目安を内科医の立場で整理します。
ご自身が避難されている方はもちろん、ご家族が被災された方、支援に向かう方にも読んでいただければと思います。
最優先は熱中症——真夏の避難生活で最も差し迫ったリスク
夏の災害で、まず警戒すべきは熱中症です。停電でエアコンが使えない、体育館や車の中に大勢が過ごす、水が自由に使えない——避難生活は熱中症の条件がそろいやすい状況です。
- こまめに水分をとる。汗を多くかいたときは塩分(経口補水液など)も一緒に
- 風通しを確保し、うちわ・扇風機・冷たいタオル、保冷剤などで体を冷やす
- 車の中は短時間でも高温になります。とくに日中の車内で過ごすのは避ける
- 高齢の方、乳幼児、持病のある方は、周囲が声をかけて水分と体調を確認する
熱中症の高体温には、ロキソニンやカロナールなどの解熱薬は効きません。まず体を冷やし、水分・塩分をとることが基本です。
車中泊で起こる「エコノミークラス症候群」
2016年の熊本地震で大きな問題となったのが、車中泊によるエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症・肺塞栓症)です。狭い場所で足を動かさずに長時間過ごすと、足の静脈に血のかたまり(血栓)ができ、それが肺の血管に詰まると命に関わることがあります。
避難生活では、脱水(水分不足)とトイレを控えることが重なり、リスクがさらに高まります。
予防のポイントは次のとおりです。
- 水分をこまめにとる(トイレを気にして水分を控えないことが大切です)
- 同じ姿勢を続けず、数時間おきに歩く。座ったままでも、足首を動かす・ふくらはぎをもむ・つま先を上下させる
- 眠るときは、できるだけ足を伸ばせる姿勢をとる。可能なら車中泊を続けず、避難所や親戚宅など体を横にできる環境へ
- ベルトなど体を締めつけるものはゆるめる
- 弾性ストッキングが使える場合は活用する
片方の足の腫れ・痛み・赤み、そして突然の息苦しさ・胸の痛みは危険なサインです。すぐに医療者に伝えてください。
断水・トイレ問題から始まる悪循環
断水や仮設トイレの不便さから、「トイレに行きたくないので水を飲まない」という行動が起こりがちです。これが、脱水・熱中症・血栓症・膀胱炎・便秘の引き金になります。
水分を控えるのではなく、水分はとったうえで、トイレの環境を整えることを優先してください。携帯トイレの活用、夜間の照明確保なども有効です。
避難所で広がりやすい感染症、夏の食中毒
集団生活では、感染症が広がりやすくなります。
- 胃腸炎(ノロウイルスなど):吐物・便の処理は使い捨て手袋とマスクで。手洗いを徹底
- 呼吸器の感染症(新型コロナ、インフルエンザなど):症状がある方はマスクを着け、可能なら場所を分ける
- 夏の食中毒:停電で冷蔵ができない、配給の食品を長時間置く、といった状況では細菌が増えやすくなります。少しでも傷んでいると感じたら食べない判断を
手洗いができないときは、アルコール手指消毒も役立ちます(ただしノロウイルスにはアルコールが効きにくいため、可能なときは流水と石けんを)。
持病の薬が途切れることの怖さ
避難時に見落とされがちですが、内科医としてもっとも心配なことのひとつです。
高血圧・糖尿病・心臓病・喘息・てんかん・抗凝固薬など、中断すると危険な薬があります。災害時はストレスや睡眠不足で血圧が上がりやすく、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高まるとされています。
- お薬手帳(または薬の写真・名前のメモ)を持って避難する
- 薬が残り少ないときは、早めに医療機関・薬局・避難所の医療班に相談する
- 災害時には、処方箋がなくても薬局で必要な薬を受け取れる特例的な取り扱いがとられることがあります。状況によって異なるため、まず相談してください
- 自己判断で中止・減量しない
生活不活発病(動かないことで弱る)
避難所で座ったまま過ごす時間が長くなると、数日から数週間で筋力や体力が落ち、歩きにくくなることがあります。とくに高齢の方で問題になります。
- 一日一回は立って歩く、可能な範囲で片付けや手伝いなど役割を持つ
- 座ったままでもできる体操を取り入れる
口の中の清潔——誤嚥性肺炎の予防
水が貴重な状況では、歯みがきが後回しになりがちです。しかし口の中が不潔になると、とくに高齢の方で誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
- 少量の水でのうがい、歯みがきシートや洗口液を活用する
- 入れ歯も清潔を保ち、可能なら夜ははずして休む
こころの不調と睡眠
大きな災害のあとは、眠れない、動悸がする、落ち着かない、涙が出る、といった反応が起こることがあります。これは異常なことではなく、多くの方に起こる自然な反応です。
- カフェインやアルコールで無理に眠ろうとしない(アルコールは睡眠の質を下げ、脱水も助長します)
- できる範囲で規則正しい生活・休息の時間をつくる
- つらさが強い、眠れない日が続く、気力がわかないときは、遠慮なく相談してください
片付け作業でのけが・粉じん・一酸化炭素
- がれきや割れたガラスの片付けでは、厚手の手袋・長袖・底の厚い靴を。傷が深い、汚れた傷、さびた釘などによる傷は破傷風の心配があり、受診してください
- ほこりやカビを吸い込むと、せきや喘息の悪化につながります。マスクを着用してください
- 発電機やカセットコンロを室内や車内で使うと、一酸化炭素中毒の危険があります。必ず換気のよい屋外で使用してください
受診・救急要請の目安
次のような場合は、ためらわず医療者に相談・救急要請(119番)を検討してください。
- 片足の腫れや痛み、突然の息苦しさ・胸の痛み(肺塞栓症の可能性)
- 意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い、けいれん
- 体が熱いのに汗が出ない、水分がとれない(重い熱中症の可能性)
- 胸の痛み、片側の手足の力が入らない、ろれつが回らない(心筋梗塞・脳卒中の可能性)
- 持病の薬が切れて数日たつ
- 下痢や嘔吐が続き、水分がとれない
当院でできること
当院は熊本県外にありますが、次のようなご相談に対応できます。
- 避難されてきた方、ご家族のもとに身を寄せている方の体調のご相談
- 持病の薬が手元にない、残り少ないといった場合のご相談(お薬手帳や薬の名前が分かるものをお持ちください)
- 避難生活のあとに続くだるさ・不眠・血圧の変化などのご相談
不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。
まとめ
- 真夏の避難生活では、まず熱中症・脱水への対策を最優先に
- 車中泊はエコノミークラス症候群のリスク。水分・足を動かす・横になれる環境の確保を
- トイレを気にして水分を控えるのは逆効果です
- 避難所の感染症、夏の食中毒に注意。手洗いと食品の管理を
- 持病の薬を切らさないこと。お薬手帳を持ち、早めに相談を
- 片足の腫れ・息苦しさ・胸の痛み・意識の変化は、すぐに医療者へ
参考文献
- 気象庁 地震情報(令和8年7月28日 熊本県熊本地方の地震)
- 厚生労働省 災害時の健康管理・避難所生活を過ごされる方々の健康管理に関する情報
- 日本循環器学会ほか 災害時循環器疾患の予防・管理に関する情報/肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症の予防
- 環境省 熱中症予防情報サイト
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