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高齢の方の誤嚥性肺炎——むせ・微熱・食欲低下など見逃しやすいサインと、口腔ケア・食事の姿勢など家庭でできる予防

「最近、食事のときにむせることが増えた」「熱は高くないのに、なんとなく元気がない」「ご飯をあまり食べなくなった」。高齢のご家族にこうした変化があるとき、背景に誤嚥性肺炎が隠れていることがあります。高齢の方の肺炎は、高い熱や激しい咳が目立たないことも多く、気づくのが遅れがちです。気づきたいサインと、口腔ケアや食事の姿勢など、ご家庭でできる予防を整理します。

誤嚥性肺炎とはどんな病気か

誤嚥とは、本来は食道へ送られるはずの食べ物や唾液などが、気管のほうへ入ってしまうことです。誤嚥性肺炎は、この誤嚥がきっかけとなって起こる肺炎です。

日本呼吸器学会の市民向け解説によると、飲み込む機能(嚥下機能)が落ちていると、唾液や食べ物、ときには胃液などと一緒に、口の中の細菌が気道へ入り込んで肺炎を起こします。年齢を重ねたり寝たきりの状態になったりすると、異物を外へ出そうとする咳の反射も弱くなります。さらに口の中の清潔が十分に保てないと、肺炎の原因となる細菌が口の中で増えやすくなります。

起こりやすいのは、飲み込む力が落ちた高齢の方、脳梗塞の後遺症やパーキンソン病などの神経の病気がある方、寝たきりの方などです。日本呼吸器学会の『成人肺炎診療ガイドライン2024』でも、誤嚥性肺炎が項目の一つとして取り上げられています。

むせないまま起きる誤嚥もある

「むせる」のは、気管に入りかけたものを咳で押し戻そうとする体の防御反応です。ところが、飲み込みや咳の反射が弱くなると、唾液などが気管に入ってもむせずに過ぎてしまうことがあります。これを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)といい、高齢の方の誤嚥性肺炎ではその重要性が指摘されています。

そのため、「食事中にむせないから大丈夫」とは言い切れません。反対に、食事中によくむせるようになったことは、飲み込みの機能が変わってきているサインの一つとして受け止めておくとよいでしょう。

見逃しやすいサイン——熱や咳が目立たないことも

肺炎の典型的な症状は、発熱、咳、膿のような痰です。ただ、日本呼吸器学会の解説では、誤嚥性肺炎ではこうした症状がはっきりせず、次のような目立たない変化だけがみられることが多いとされています。

  • なんとなく元気がない——いつもより活気がなく、だるそうにしている
  • 食欲が落ちた——食事の量が減った、食べたがらない
  • のどがゴロゴロ鳴る——痰がからんだような音がする
  • 熱がはっきりしない——肺炎の典型的な症状である発熱が、目立たなかったり、みられなかったりすることもある

また、飲み込みの機能が落ちてきたときには、次のような様子がみられることがあります。

  • 食事や飲み物でむせることが増えた
  • 噛みにくそうにしている、口の中に食べ物が残っている
  • 口から食べ物や唾液がこぼれる
  • 食事中に、痰がからんだようなゴロゴロした声になる
  • 肺炎を繰り返している、原因のはっきりしない発熱がある

どれも一つだけで病気と決まるものではありませんが、「いつもと違う」というご家族の気づきは、受診のきっかけとして大切です。

家庭でできる予防1——口腔ケア

誤嚥性肺炎の予防で、まず取り組みやすいのが口の中を清潔に保つことです。国内の介護施設11か所の入所者417人を、口腔ケアを行うグループと行わないグループに分けた研究では、毎食後に看護師や介護職員が歯ブラシで歯をみがき、週1回は歯科医師や歯科衛生士が専門的なケアを行ったグループのほうが、口腔ケアを行わなかったグループに比べて、肺炎の発症、発熱した日数、肺炎による死亡が少なかったと報告されています。この研究では、歯のある方でも歯のない方でも口腔ケアの効果がみられたとされています。

口腔ケアには、口の中の汚れや細菌を取り除く清掃と、体操やマッサージなどで口の動きを保つ取り組みがあります。ご家庭では、次のような点から始めてみてください。

  • 食後の歯みがき——歯だけでなく、舌や頬の内側などの汚れもやさしく取り除く
  • 入れ歯の手入れ——外して入れ歯用のブラシで洗い、必要に応じて入れ歯用の洗浄剤も使う
  • 歯が少ない方・入れ歯の方も——歯がなくても口の中には細菌がいるため、舌や粘膜の清掃を続ける
  • 口の体操——頬や舌を動かす体操、唾液腺のマッサージなど

ご本人が自分でみがくのが難しい場合や、口の中の状態が気になる場合は、かかりつけの歯科に相談してみてください。

家庭でできる予防2——食事の姿勢と食べ方

日本呼吸器学会の解説では、食事の際には上体を十分に起こし、ゆっくりよく噛んで飲み込むことが勧められています。

  • 上体を起こして食べる——寝た姿勢に近いまま食べるのは避け、椅子に座るか、ベッドなら背もたれをしっかり起こす。医療機関などで食事のときの姿勢や角度について指示を受けている場合は、その指示に沿ってください
  • ゆっくり、少しずつ——一口の量を多くしすぎず、口の中のものを飲み込んでから次を運ぶ
  • 食後すぐに横にならない——胃の内容物が逆流して気道に入ることもあるため、食後しばらくは体を起こしておく
  • 食べやすい形を工夫する——飲み込みにくさがある方には、やわらかさやとろみを調整した食事が使われます。日本摂食嚥下リハビリテーション学会は、こうした食事の段階を「嚥下調整食分類2021」として示しています。どの段階が合うかは飲み込みの状態によって異なるため、自己判断で決めず、医療機関や歯科、管理栄養士などに相談してください

このほか日本呼吸器学会は、禁煙や飲み込みのリハビリテーション、肺炎球菌ワクチンも予防策として挙げています。厚生労働省によると、高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種は65歳の方などが対象で、2026年度(令和8年度)からは定期接種で使うワクチンが変わっています。対象となる方や接種の手続きは、お住まいの市町村の案内で確認してください。

受診の目安

  • 元気がない、食欲が落ちたなど、いつもと様子が違う
  • 高い熱でなくても、熱が出た、微熱が続いている
  • 痰がからむ、のどがゴロゴロ鳴る状態が続く
  • 食事や飲み物でむせることが増えた、食事の量が減ってきた
  • 肺炎を繰り返している

また、息が苦しそう、呼吸が速い、呼びかけへの反応が鈍い、水分がほとんどとれないといった場合は、様子を見ずに急いで受診してください。呼吸がひどく苦しそうなときや、呼びかけにほとんど反応しないときは、ためらわずに救急車を呼んでください。また、食事中に食べ物をのどに詰まらせて、息ができない・声が出ないといった様子があるときも、すぐに救急車を呼んでください。誤嚥性肺炎の治療は抗菌薬が基本で、呼吸や全身の状態が悪いときには入院での治療が必要になることがあります。あわせて口腔ケアや飲み込みの指導も大切とされています。

参考文献

  • 日本呼吸器学会 成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会 編『成人肺炎診療ガイドライン2024』(メディカルレビュー社、2024年)
  • 日本呼吸器学会 市民のみなさまへ「呼吸器の病気 A-12 誤嚥性肺炎」
  • 大類孝. 高齢者誤嚥性肺炎の現状と対策. 日本老年医学会雑誌. 2010;47(6):558-560.
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食委員会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」
  • 厚生労働省「高齢者の肺炎球菌ワクチン」
  • Yoneyama T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433.

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