帯状疱疹の発症が増えている?~信頼できるデータとその背景をわかりやすく解説~
「最近、帯状疱疹の患者さんが増えている気がする」
そう感じている方は、医療関係者だけでなく一般の方にも多いのではないでしょうか。
実はこの「増えている気がする」という印象、感覚ではなく実際のデータで裏付けられている現象です。帯状疱疹はかつては主に高齢者の病気とされてきましたが、今では若年〜中年層にも拡大していることがわかっています。
この記事では、帯状疱疹が本当に増えているのかという点と、その理由や予防法について、できるだけ平易な言葉で、信頼できるエビデンスとともに解説します。
そもそも帯状疱疹ってどんな病気?
帯状疱疹は、「水ぼうそう」のウイルス(正式には水痘・帯状疱疹ウイルス)が再活性化して起こる病気です。
子どもの頃に水ぼうそうにかかると、そのウイルスは治った後も体の中、特に神経の奥にひっそりと潜み続けます。そして、加齢やストレス、病気などで免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスが活動を再開し、神経に沿って炎症を起こします。
皮膚にピリピリした痛みが現れ、その後に赤い斑点や水ぶくれが「帯状」に広がるのが特徴です。ひどい場合は、**痛みだけが長く残る「帯状疱疹後神経痛」**を引き起こすこともあります。
実際に発症数は増えているのか?
~宮崎スタディによる長期調査の結果~
発症の増加を裏付ける代表的な研究に、「宮崎スタディ(宮崎県における帯状疱疹の疫学調査)」があります。
これは、1997年から2020年にかけて宮崎県内の住民を対象に、帯状疱疹の年間発症率を長期的に追跡した非常に貴重な疫学研究です。
この調査では、1997年時点と比較して2020年には発症率が約1.8倍に増加していたことが明らかになっています。注目すべきは、高齢者だけでなく20〜40代の発症率が急増している点です。
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2013年までは、若年層の発症率は約1.2倍程度の緩やかな増加でしたが、
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2014年以降、急激に上昇し、2020年には若年層での発症が約2.1倍にまで達しました。
これは「高齢化社会」だけでは説明できない、より複雑な背景を示唆しています。
なぜ増えているのか?主な3つの理由
1. 高齢化による免疫力の低下
加齢に伴って、免疫をつかさどる細胞や仕組みが弱くなります。
免疫が弱まると、神経に潜伏していたウイルスが再び動き出し、帯状疱疹として発症するリスクが上がります。
高齢化が急速に進む日本社会では、この免疫力の低下が患者数増加の大きな要因となっています。
2. 子どもへの水痘ワクチン接種の普及と「ブースター効果」の減少
2014年から、水ぼうそう(水痘)ワクチンは子どもへの定期接種になりました。これにより子どもが水痘にかかることが減り、ウイルスとの自然な接触の機会が激減しました。
以前は、大人が子どもから水痘ウイルスに再び曝露されることで免疫が強化される「ブースター効果」が働いていましたが、これが失われたことで、大人の免疫がじわじわと低下しているのです。
このことが、若年〜中年層の帯状疱疹の増加にも関係している可能性があります。
3. ストレスや生活習慣による免疫力低下
現代人は、睡眠不足や慢性的なストレス、働きすぎなどで自律神経や免疫バランスが乱れやすくなっています。こうした生活要因が、特に働き盛りの世代の帯状疱疹の発症リスクを高めています。
コロナ禍以降、在宅勤務や不規則な生活、社会的不安なども影響していると考えられます。
帯状疱疹は予防できる?
帯状疱疹は、予防ワクチンによって発症や重症化のリスクを減らすことができます。日本では、50歳以上の方を対象に2種類のワクチンが認可されています。
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生ワクチン(ビケン):1回接種、軽度~中等度の予防効果
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不活化ワクチン(シングリックス):2回接種で高い予防効果(90%以上)
また、発症してしまった場合でも、できるだけ早期(発症から72時間以内)に抗ウイルス薬を開始することで、重症化や後遺症を防ぐことが可能です。
まとめ:誰もが発症しうる時代に
帯状疱疹は、もはや「高齢者の病気」だけではありません。
ストレスや免疫低下などが引き金となり、若い人でも発症する時代になっています。
特に、子どもの頃に水ぼうそうにかかったことがある人は、すでに帯状疱疹ウイルスを体内に持っている可能性が高く、一生のうち3人に1人は発症するとも言われています。
だからこそ、「自分には関係ない」と考えず、正しい知識と予防意識を持つことがとても大切です。
参考文献・データ
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宮崎スタディ(Miyazaki Dermatology Study)
「帯状疱疹の年齢別発症率に関する長期疫学研究(1997~2020年)」 -
朝日新聞デジタル(2023年)
『帯状疱疹、20〜40代でも増加 水痘ワクチン定期接種の影響か』
https://www.asahi.com/articles/ASRCN6448RCNUTFL00K.html -
池垣皮膚科クリニック「帯状疱疹の発症が増えている理由とは?」
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HK皮フ科クリニック「大人にも広がる帯状疱疹、その背景と対策」
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