帯状疱疹の治療薬と腎障害 ― 腎機能が低下している方は何に注意すべきか ―
帯状疱疹(Herpes zoster)は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化によって起こる疾患です。
治療の基本は抗ウイルス薬の早期投与ですが、これらの薬剤は腎機能の影響を強く受けるという重要な特徴があります。
特に高齢者では、自覚のない腎機能低下を合併していることも多く、薬剤選択や用量調整を誤ると副作用リスクが高まります。
この記事では、帯状疱疹治療薬と腎障害の関係について、実臨床ベースで解説します。
帯状疱疹で使われる主な抗ウイルス薬
日本で使用される代表的な治療薬は以下の3剤です。
| 一般名 | 商品名 | 特徴 |
|---|---|---|
| アシクロビル | ゾビラックス | 古くから使用、腎排泄 |
| バラシクロビル | バルトレックス | 内服回数が少ない、腎排泄 |
| ファムシクロビル | ファムビル | 同様に腎排泄 |
共通点
-
いずれも腎臓から排泄される薬剤
-
腎機能低下時は用量調整が必須
なぜ腎機能が問題になるのか
1. 抗ウイルス薬は腎排泄型
これらの薬剤は、体内で代謝された後、ほぼ腎臓から排泄されます。
そのため
-
腎機能が低下すると
-
薬が体内に蓄積し
-
副作用が起こりやすくなる
という構造になっています。
2. 代表的な副作用:腎障害・中枢神経症状
腎障害
-
急性腎障害(AKI)
-
特に脱水時に起こりやすい
-
高齢者でリスク上昇
中枢神経症状
-
せん妄
-
意識障害
-
幻覚
-
ふらつき
これらは薬剤が体内に蓄積した場合に起こりやすく、腎機能低下例で特に注意が必要です。
腎機能低下がある場合の用量調整
eGFR(推算糸球体濾過量)に基づく調整
実臨床では、**eGFRやクレアチニンクリアランス(CCr)**を指標に用量を調整します。
例(バラシクロビル)
-
eGFR ≥50:通常量
-
eGFR 30–49:減量
-
eGFR <30:さらに減量または投与間隔延長
※具体的な投与量は添付文書に従って厳密に調整されます。
「腎障害があると使えない薬」ではない
よくある誤解として
「腎臓が悪いと帯状疱疹の薬は使えない」
と思われがちですが、これは誤りです。
正確には
-
使えないのではなく
-
用量調整が必要
という位置づけです。
適切に調整すれば、
-
腎機能低下がある方
-
透析前の慢性腎臓病(CKD)患者
でも治療は可能です。
実臨床で特に注意すべきポイント
① 高齢者は「隠れ腎障害」が多い
血清クレアチニンが正常でも、eGFRが低下していることがあります。
② 脱水は最大のリスク因子
発疹の痛みや発熱で食事・水分摂取が減ると、腎障害が起こりやすくなります。
③ 市販鎮痛薬との併用
NSAIDs(ロキソニンなど)は腎機能をさらに悪化させる可能性があり、併用には注意が必要です。
まとめ
-
帯状疱疹治療薬はすべて腎排泄型
-
腎機能低下がある場合は用量調整が必須
-
調整を行えば治療自体は可能
-
高齢者・脱水・NSAIDs併用には特に注意
帯状疱疹は発症早期の治療が予後を左右します。
腎機能に不安がある方も、自己判断で治療を避けず、必ず医療機関で相談してください。
参考文献(エビデンス)
-
日本皮膚科学会 ガイドライン「帯状疱疹診療ガイドライン」
-
バルトレックス錠 添付文書(GlaxoSmithKline)
-
ファムビル錠 添付文書(ノバルティス)
-
日本腎臓学会 CKD診療ガイドライン
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