ダイエット目的のチルゼパチド(マンジャロ)処方ってアリ?医師の視点から考えてみました
はじめに
最近、SNSなどでも話題になっている「チルゼパチド(マンジャロ/ゼップバウンド)」の自由診療によるダイエット利用について、「けしからん!」という声がある一方で、「ちゃんとした医療として成立するのでは?」という意見もあります。今回は、医師としてこのテーマについて、法律・医療倫理・エビデンスの観点からやさしく解説してみたいと思います。
1. 医師の裁量と自由診療って?
医師は、患者さんの健康と希望に応じて、最善の治療を選ぶ「裁量権」を持っています。保険診療では使えない治療法も、自由診療であれば選択の幅が広がるのです。チルゼパチドを「ダイエット目的で健康な人に処方する」というのは、まさにこの自由診療の範囲で、医師と患者がきちんと話し合って決めれば可能な選択肢なのです。
2. 本来の使い方じゃないのに大丈夫?
「適応外使用」といって、本来の目的以外で薬を使うことは、じつは医療の現場ではよくあることです。安全性と効果がしっかり確認できれば、医師の判断で行うことができるのです。たとえば、もともとは糖尿病の薬だったGLP-1作動薬も、以前からダイエット目的で使われていた実績があります。
3. チルゼパチドのダイエット効果って?
チルゼパチドは、かなり強力に「体重を落とす」効果がある薬です。海外の大規模な研究では、平均で体重の20%以上が減ったという結果も! 副作用としては、胃のむかつきやお腹のゆるさなどが見られますが、多くは一時的なもので、適切に使えば安全性は高いと考えられています。
4. 患者さんの意思も大事にしたい
私たち医師は、「こうしなさい」と一方的に決めるのではなく、患者さんと一緒に「どうしたいか」を考えて治療方針を決めていきます。自分の見た目や健康に前向きに取り組みたいという気持ちも、立派な医療ニーズのひとつです。リスクや効果をしっかり説明したうえで納得いただければ、希望に沿った治療をするのも自然なことだと思っています。
5. 日本でもゼップバウンドとして承認されました
実はこのチルゼパチド、日本でも「ゼップバウンド」という名前で肥満症の治療薬として2024年に正式に承認されました。つまり、国が「この薬は安全にやせられる」と認めたということ。海外でも同様に評価されていて、世界的に注目されている薬なのです。
当院での取り組み
当院では、マンジャロ(チルゼパチド)を自由診療にてご希望の方へ処方しております。ご不安なく治療を受けていただけるよう、事前にしっかりと説明と同意を行い、体調管理にも十分配慮しています。また、通販等で薬だけを販売する形式とは異なり、院内でのフォロー体制を重視しています。
特に、吐き気や便秘といった副作用が見られた場合には、責任をもって診察を行い、必要に応じて点滴投与などの対応を迅速に行っております。また、まれに起こりうる急性膵炎の疑いにも備え、院内での生化学検査(アミラーゼなど)を即時に実施・判定できる体制を整えています。医師の管理のもと、安心してご相談いただける体制を整えております。
まとめ
「チルゼパチドを健康な人がダイエット目的で使うなんてどうなの?」という声に対して、医師としては、
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科学的な根拠がしっかりある
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法的にも医療倫理的にも問題はない
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きちんと説明と同意を得れば、希望に沿った治療ができる という理由で、一定の条件を満たせば選択肢としてアリだと考えています。もちろん、安易に使うのはNG。医師とよく相談して、納得できる形で活用しましょう。
参考エビデンス一覧
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厚生労働省 医薬品医療機器総合機構(PMDA)『ゼップバウンド承認情報』2024年
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FDA『Zepbound approval press release』2023年11月
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SURMOUNT-1 Trial: JAMA 2022;327(20):1971–1980
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日本医師会『自由診療と医師の裁量権について』2021年
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医療倫理に関する最高裁判例(宗教的輸血拒否事件 2000年, 乳房温存療法事件 2001年)
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日本糖尿病学会『GLP-1作動薬の非糖尿病目的使用に関する注意喚起』2020年